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毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

フクロウの街 8

2016-03-26 18:30:59 | ヒューマン
「ちょうど山路さんのところに必要だったので、教えてあげて下さい」
大沢は一方的に話すと、2人を残していってしまった。
教え方も分からないので、自分の仕事を一通り説明していると昼休みになり、昼食の用意はしていないと言うので、一緒に近くの蕎麦屋に行った。
混んでいたので、食べ終わると近くにある喫茶店に入った。
「緒方さんはどちらから来られてるのですか?」
「新宿の下落合からです」
「いい所にお住まいですね」
「いえ、古い家ですから」
深窓の令嬢だったのか、よく見れば品のいい顔立ちをしている。
年は啓子より少し若い位、30過ぎだろうか。
化粧は殆どしていない様で、きちんとオシャレをすれば、光り輝きそうな気配だ。
「こうゆう仕事の経験は有るんですか」
「いままでアルバイトしかした事がないんです」
「パソコンは普通に使えますよね」
「それは大丈夫です」
実際試しにデータ入力をやらせてみたら、その早さに山路は舌を巻いたほどだった。
翌日から、事務所の仕事は山路がパートとアルバイトの面倒をみる様になり、緒方が補佐して、所長は外出して朝からいない状態になってきた。
金曜の夕方になり、啓子からはいままで3回メールがあって、今週は帰れないかもしれないが心配しないでほしい、と繰返し打ってきていた。
何をしているのか、あまり良い事ではなさそうなので、山路は引っ越しをできるだけ早める必要性を考えた。
17時近くになり、帰り準備をしていると、緒方が近寄ってきた。
「あのう、山路さんはすぐに帰られるのですか?」
「いや別に用はないですけど」
「少しお時間頂けないでしょうか、すぐに済ませますから」
願ったりだと嬉しくなった。
職場の人達に見られたくなかったので、タクシーで錦糸町に出掛けた。
遠慮する緒方靖子を中華レストランに連れていくと、それでも嬉しそうに座った。
仕事を離れた彼女の表情は魅力的だった。
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フクロウの街 7

2016-03-23 06:34:20 | ヒューマン
「山路さん、急に休んだから心配してたんだよ、大丈夫なの?」
「すいません、永瀬さんには連絡するつもりでしたけど、遅くなりました」
ドライバーサ―ビスの会社には、元経営者から元タレントまで実に多彩な人達が集まってくる。
永瀬は国税局に努めていた。
「実は条件のよい仕事が見つかって、試しに行ってみたんです」
「よかったじゃない、運転の仕事は大半の人が仮なんだから」
「ところがですね、なんて言ったらいいか、変な感じなんですよ」
「何ていう会社なの?」
「丸一倉庫ですけど」
「その会社、小名木川沿いにあるんじゃない?」
「知っているんですか?」
「以前、物流倉庫の事業所を調べた事があってね、古い同族経営の会社だったけど、3代目になった後、確か貿易関係の会社に買収されたはずだよ」
「じゃあ名前だけは残しているってことなんですね」
「そうなんだ、近い内昔の後輩に会うので聞いてみるよ」
永瀬と連絡を取り合う約束をして、啓子の家に戻るとまだ留守で、20時過ぎに帰ってきた。
「子供は母に預けているし、これで暫く大丈夫ね」
「何かあるの?」
「わたしね、2、3日出掛けてくるから」
「何処にいくの?」
「今は言えないけど・・でも儲かる事だから」
彼女はにやっと笑った。
山路は追求したかったが、簡単に喋りそうもなく、黙るしかなかった。
ひとり留守番で、胡散臭い職場に行くのも億劫だが、給料だけはドライバーの仕事よりかなり良かったので、直ぐには辞められなかった。
焼けたアパートから早く新しい部屋を探さなければならない。
永瀬から情報が入るまでおとなしくしていようと思い、丸一倉庫にいつもより早めに出勤してみると、大沢所長が知らない女性と話をしている。
「山路さんちょうどよかった、こちら緒方靖子さん、きょうから働いて貰うことになった」
「緒方です、よろしくお願いします」
小柄で髪の長い女性が挨拶してきた。
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フクロウの街 6

2016-03-17 12:21:07 | ヒューマン
山路はドライバーサ―ビスの仕事の方は、健康上の理由で長期休暇を提出しておいた。
とりあえず就職した場所なので、いつ辞めてもいい様熱心にはやらなかった。
だが啓子の紹介で行った会社は何処となく怪しげで、今一信用しきれない気がした為、暫く二股かけて状況をみようと考えていた。
「稔さん、探偵なんて知り合いいないでしょ」
啓子が唐突に話出した。
「いないけど、調べたいひとがいるの?」
「うん、ちょっとね、でも深刻な事じゃないから」
啓子は自分の子供にあまり執着していなかった。
結婚を早くしたかった結果で、離婚した後は母親に預けて遊び歩き、何人もの男友達と付き合ってきた。
だが、年を取るにつれ仕事も相手も遠のき、ハローワ-ク通いを続けるうちに山路と知り合ったわけだが、いつ生活保護を受けてもおかしくない2人では、なにも楽にはなっていない。

土曜日の午後、啓子は子供と出かけ、山路1人でいるとチャイムが鳴った。
仕方なくインターホンに出ると、警察の者ですと言ってきた。
ドアを開けた途端警察手帳を突きつけられ、目つきの鋭い太った男の方が話かけてきた。
「藤中啓子さんはいませんか?」
「出かけていて、帰りは夜になると思いますが」
「失礼ですが、あなたの名前と藤中さんとの関係をお聞かせください」
山路は自分の姓名と、友人関係である旨を伝えた。
「現住所もお願いします」
「何があったのですか?」
「一応関係のある皆さんに伺ってご協力をお願いしています」
背の低い痩せたもう1人の刑事が丁重に話して、足早に去っていった。
19時過ぎに啓子が1人で帰ってきた。
「昼間、刑事が来たよ」
「刑事、なんだって?」
「また来るっていってすぐに帰ったけど」
「そう」
翌日、啓子は用事があると言って朝早く出かけていった。
山路は予定もなかったので、ドライバー仲間の永瀬に連絡を取り、大手町のカフェで会う約束をした。
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フクロウの街 5

2016-03-03 12:53:58 | ヒューマン
啓子は独身時代会社の上司と不倫の仲になり、結局それ以上の進展などある訳はなく、引きずられるのが嫌になり、経理課にいた武志を自分から何度も誘って結婚を決断させた。
武志は内向的で友達をつくれる男ではなく、まして女性から積極的にいい寄られた事など全くなかったので、とまどいながらも彼女の魅力には勝てなかった。
これだけ外見のよい美しい女性がなんで地味な自分に近づいてくるのか、何か理由があるのだろうと考えてみても、いざ夜を共にすることを想像するだけで気持ちが一杯になってしまう。
つき合いだしたころは実際夜はうまくいかず、武志は全く自信をなくしていて、啓子に終始リードされる有様だった。
それでも結婚まで行けたのは、彼女の意志が強く、あらゆる段取りを全て1人でこなし式も無事に終えた。
ただ、挨拶の締めくくりに職場の元上司が話し出した時、啓子が一瞬涙ぐんだのを武志は見逃さなかった。
新婚旅行も啓子はいつもの活発さは全くなく、ただおとなしく従っているように見え、武志は不安と疑惑に苛まれていくだけだった。
新婚生活は普通に過ぎ、啓子は仕事と家庭を上手く両立させていたが、武志は順調にいけばいくほど懐疑的になり、興信所に啓子の調査を依頼するまでに思い詰めていた。
その興信所から10日たって調査報告書が送られてきた。
それによると、啓子は短大を卒業して商事会社に入社、1年後に当時の上司である営業課長と不倫関係になり、約2年続いた後別れ、その後すぐに人事課長と関係を持ち、3年続いた後別れ会社も退職している。
武志と結婚したのは辞める直前で、寿退社の形になっている。
この事実が分かってから武志のうつ病が始まった。
丁度2年で離婚したが、夫婦らしい生活を送ったのは半年足らずで、後は家庭内別居状態で終わったのである。
啓子はその後仕事を転々と変え、風俗関係も経験してきた。
しかしそれも30才までだった。
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