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毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

フクロウの街 24

2021-07-15 16:38:25 | ヒューマン
村井の父が一人で住んでいた一角は、短い坂道を下り十件程並んだ家を過ぎると、その先は急階段を上る為、車は突き当りになり、その分静かで暮しやすかった。
学校の行事や町内会の集まりで、人々の繋がりは強くなり、中には親戚同然のつき合いになる家族も出てくる。
その通りの中程に緒方の名前があったと、伯母は記憶していた。
母と娘二人が住んでいたという。
村井はそこに行った覚えはなかったが、話を聞いている内、幼い頃その親子の姿を朧げに見たような気がしてきた。
伯母が疲れてきたのをきっかけに、和菓子のお土産を置いて退散した。
靖子が現在住んでいる下落合の住所も、ここから歩いて行ける距離だ。

先日、銀座にある画廊のオ―ナ―から遺産相続の依頼を受けていたので、挨拶だけするつもりで行ってみる事にした。
通りから一つ脇に入った所で、小さいが落ち着いた雰囲気がある。
中に入ると、左隅にクリスタルのテ―ブルと椅子があり、男女二人がコーヒーを飲みながら談笑していた。
女性の方が村井を見ると、意外な顔をして立ちあがり近寄ってきた。
「あら、なぜ此処に?」
犬の散歩で会う成田真由だった。
「あ、これは成田さん、どうも奇遇ですね、実は仕事関係なんですが」
「ご活躍ですね」
「いえ、もう何でも屋ですから」
「オ―ナ―は急用で外出中なんですよ」
戻る時間が分からないと店長が言うので、画廊を出て近くのカフェに寄り道した。
「成田さんはあの画廊をよくご存知なんですか?」
「父とオ―ナ―が古いつき合いなんです」
「市川在住の成田さんて、あの国会議員の?」
「そうなんです」
「やはり···どうも気安く話して失礼しました」
「そんな、私は普通のOLですわ」
彼女は村井の顔を見据えながら微笑んだ。

靖子は山路の会社で先輩の永瀬と連絡がとれ、赤坂見附のカフェで会っていた。
永瀬の話では、山路は在日朝鮮人の息子だと言った。

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唐木田通り 44

2021-07-04 10:53:01 | 唐木田通り
あれからどの位たったのか、随分長く感じられるが、丁度2年過ぎたばかりだ。
生活は全く変わり、会社からは冷たい視線で見られ、結局自己都合で辞める事になった。
それでも会社の紹介で、御茶ノ水にある小さな出版社で急募の求人が有るとの連絡が入った。
もう開き直りの気持ちで面接に行ってみると、4、50代の男性一人が現れ、コ―匕―を入れて持ってきた。
「お待たせしました、今だれもいなくて」
そう言いながら名刺を差し出した。
ルポライター 立石 透 となっている。
「中谷さんは、前の会社では中心的な役割りを担ってたそうで、うちの社にも聞こえてましたよ」
「そんな···それ程の事はありませんわ、メンバーに恵まれていたのです」
「ここはまあ、大手の出版社やTV局から仕事を貰っている、下請けの仕事が多いんですよ、でも勿論自分達のやりたい仕事は絶対にやり遂げる、そういう気持ちで全員動き回っています」
「私、ルポライターの経験はありませんが、お役に立てる仕事はありますか?」
「ここは営業部みたいな所なのですが、所長が急に亡くなってしまったのです、女性所長でした」
「皆さん忙しそうですね」
「中谷さんはとりあえず居てくれればいいんです、電話は殆どありませんし、あっても問い合わせ位で、急用の場合は私に連絡して下さい」
「それでよろしいのですか?」
給料は思ったより良かったので、申し訳ない気持ちでいた。
「慣れてきたら総合的に見てもらう予定なので、所長がやっていた事をね」
「所長の代わりをですか?」
「難しく考えないでいいですよ、あなたなら上手く行きますから」
立石は嬉しそうに頷いた。
由紀子は一応了解して会社を出たが、自信など全く持てなかった。
でも、シングルマザーの現在は何でもやる気で面接したのだと割りきった。
娘の中学入学に合わせ、稲城に借りていたマンションから、両親の住む唐木田に移った。



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