暦の雨水、を迎えると、昼間は10度を越える日がようやく訪れて、徐々に三寒四温の春型の気圧になっていくのだろうが、誠二の気分は真冬の木枯らしが吹きつけている最中だった。
その雨水に入った日、敦子が病院を抜け出すという騒ぎがあった。
昔の国分寺湧水を集めた野川沿いを、天文台から野川公園方向に歩いているのを発見されたのだが、ジャージのスウェット上下にダウンジャケットを着て、スニーカーもちゃんと履いていたので、計画的な脱出だったようだ。
誠二の待つ?自宅に早く戻らなければ、と近頃母親によく話していたそうで、思いつめていたのだろう。誠二は何か起きるのではないか、とこの頃恐々としていたが、当たってしまった。彼女の母と共に何回説得しても聞かないので、その日は自宅に連れていき一泊させる事にして、何年振りかで二人きりになった。
夕食も自分で作ると言い張るので、ともかく逆らわず好きにさせておいた。
22時を過ぎたので早く寝かそうとしたが、片付けが有るから先に風呂に入って休んで下さいと言われたので、まだ眠る気がしなかったが、布団に入っている内うとうとしてきた。
どの位時間が経ったか分からないが、一眠りして意識が戻ってくると、部屋の明かりは消えていて、敦子もすぐ傍に寝ているらしく、軽い息遣いが聞こえてくる。
喉が渇いたので、冷蔵庫にあるミネラルウォーターを飲んで布団に戻ると、敦子も目が覚めたらしく寝返りをうって背中を向けている。
その内お互いの背中が自然に触れると、敦子が向きを変えて、腕を誠二の首に絡ませてきた。
誠二は困ったと思うと同時に、新しい興奮を感じていた。いま此処にいる妻は全く別人の女性を意識させ、緊張感も高まっていた。
「明日、病院に戻るから、もう寝たほうがいいんじゃないの」
「だから、いましかないでしょう」
「もう休もう」
「いやよ」
話し方も違っている。
その雨水に入った日、敦子が病院を抜け出すという騒ぎがあった。
昔の国分寺湧水を集めた野川沿いを、天文台から野川公園方向に歩いているのを発見されたのだが、ジャージのスウェット上下にダウンジャケットを着て、スニーカーもちゃんと履いていたので、計画的な脱出だったようだ。
誠二の待つ?自宅に早く戻らなければ、と近頃母親によく話していたそうで、思いつめていたのだろう。誠二は何か起きるのではないか、とこの頃恐々としていたが、当たってしまった。彼女の母と共に何回説得しても聞かないので、その日は自宅に連れていき一泊させる事にして、何年振りかで二人きりになった。
夕食も自分で作ると言い張るので、ともかく逆らわず好きにさせておいた。
22時を過ぎたので早く寝かそうとしたが、片付けが有るから先に風呂に入って休んで下さいと言われたので、まだ眠る気がしなかったが、布団に入っている内うとうとしてきた。
どの位時間が経ったか分からないが、一眠りして意識が戻ってくると、部屋の明かりは消えていて、敦子もすぐ傍に寝ているらしく、軽い息遣いが聞こえてくる。
喉が渇いたので、冷蔵庫にあるミネラルウォーターを飲んで布団に戻ると、敦子も目が覚めたらしく寝返りをうって背中を向けている。
その内お互いの背中が自然に触れると、敦子が向きを変えて、腕を誠二の首に絡ませてきた。
誠二は困ったと思うと同時に、新しい興奮を感じていた。いま此処にいる妻は全く別人の女性を意識させ、緊張感も高まっていた。
「明日、病院に戻るから、もう寝たほうがいいんじゃないの」
「だから、いましかないでしょう」
「もう休もう」
「いやよ」
話し方も違っている。