「井坂さん、誠二さんね、あなたももっと呑みなさい」
「僕は日本酒だめなんですよ・・それよりどういう歌を唄っているの」
「あ、そうだ、CDあるから持ってくるわ、プレゼントよ」
少しふらついていたが、1人で自分の部屋にいき、スマートフォンとCDを持ってきた。
3曲入りで、彼女の長い髪の横顔が印象的だ。
「ありがとう、後でゆっくり聴かせてもらいます」
「誠二さん、私ね、やめたいのよ、今の仕事」
「やめるって、どうして」
「いろいろ考えたけど・・・どうしていいのか分からない、辛いことが多くて、続けられない」
「少し休んで、リフレッシュしたら」
「周りの人達にも迷惑をかけるし、私は勝手な人間だから、でも辛くて」
誠二はどう相談にのれるか、全く自信がなかった。
違う世界のこと、そういってしまえば簡単なのだが。
「ねぇ、キスして」
彼女はそう言うなり誠二の首に腕を巻きつけてきたが、その勢いで誠二が下になる形で重なり合った。
少し過ぎてスマートフォンのベルが鳴った時、彼女は迷う素振りをみせながらも起き上がった。
小声で長話をしている。
誠二はほっとして冷蔵庫のジュースを飲んでいると、
「ねぇ、駅まで送ってくれない」
といってきた。
「急用なの?」
「ええ・・あぁ、これから・・」
涙ぐんでいるようにみえた。
タクシーを呼べば済むことだが、気になって駅まで送っていった。
「また、会えるときが来る?」
「あなた次第ですよ、僕は・・」
誠二が話終わらない内に発車のベルが鳴り、彼女は慌てて乗り込んだ。
1人旅館に戻り、虚脱状態になっていると、ゆりこからのメールが届いているのに気がついた。
できるだけ早い時期に会いたい、といっている。
とても顔を出せる様な状態ではないが、頼み事でもあるのだろう、日にちは任せますと返事をしておいた。