毎週小説

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武蔵野物語 70

2013-01-19 15:16:59 | 武蔵野物語

「井坂さん、誠二さんね、あなたももっと呑みなさい」
「僕は日本酒だめなんですよ・・それよりどういう歌を唄っているの」
「あ、そうだ、CDあるから持ってくるわ、プレゼントよ」
少しふらついていたが、1人で自分の部屋にいき、スマートフォンとCDを持ってきた。
3曲入りで、彼女の長い髪の横顔が印象的だ。
「ありがとう、後でゆっくり聴かせてもらいます」
「誠二さん、私ね、やめたいのよ、今の仕事」
「やめるって、どうして」
「いろいろ考えたけど・・・どうしていいのか分からない、辛いことが多くて、続けられない」
「少し休んで、リフレッシュしたら」
「周りの人達にも迷惑をかけるし、私は勝手な人間だから、でも辛くて」
誠二はどう相談にのれるか、全く自信がなかった。
違う世界のこと、そういってしまえば簡単なのだが。
「ねぇ、キスして」
彼女はそう言うなり誠二の首に腕を巻きつけてきたが、その勢いで誠二が下になる形で重なり合った。
少し過ぎてスマートフォンのベルが鳴った時、彼女は迷う素振りをみせながらも起き上がった。
小声で長話をしている。
誠二はほっとして冷蔵庫のジュースを飲んでいると、
「ねぇ、駅まで送ってくれない」
といってきた。
「急用なの?」
「ええ・・あぁ、これから・・」
涙ぐんでいるようにみえた。
タクシーを呼べば済むことだが、気になって駅まで送っていった。
「また、会えるときが来る?」
「あなた次第ですよ、僕は・・」
誠二が話終わらない内に発車のベルが鳴り、彼女は慌てて乗り込んだ。
1人旅館に戻り、虚脱状態になっていると、ゆりこからのメールが届いているのに気がついた。
できるだけ早い時期に会いたい、といっている。
とても顔を出せる様な状態ではないが、頼み事でもあるのだろう、日にちは任せますと返事をしておいた。

武蔵野物語 69

2013-01-14 11:53:04 | 武蔵野物語
「無職って、遊んで暮らしているの?」
「まあ、そうです」
「気楽なものね・・お金持ちなんだ」
「いや、そんなんじゃないですよ、これから何をしようか考える為にもここに来ている訳だし」
「やっぱり気楽なんだ、いーなぁ、私もそうなりたい」
「沙織さんは休暇ですか」
「そうでもないけど、いろいろよ」
「どこか決まって出ているライブハウスとかあるんですか?」
「西千葉なんだけど月2、3回は出ているの」
「僕は市川に知り合いがいるので、船橋とかよく行くけど」
「船橋は月1回ストリートライブをやっているけど、この頃出ることが多いわ」
「寒くなってきたから、戻りましょうか」
「もう少し居たいわ」
よほど気にいったのか、そう思うと、自然に溶け込んで美しく見える。

日が落ちるとさすがに冷えてきたので、急いでホテルに戻った。
「井坂さん、食事1人でしょう」
「そうです」
「じゃあ、お邪魔しようかな、いい?」
「大歓迎ですよ」
温泉に浸かって部屋に戻ると、食事の用意がすでに出来ていた。
しばらくすると、彼女が浴衣姿で現れた。
髪をアップにして、日本の女性に戻っている。
酒も頼んでおいたのだが、熱燗をゆっくり呑んでいて、かなり強そうだ。
「西千葉のライブハウスってどういうところ?」
「私、まえはロックバンドをやっていたけれど、いまはバラードを唄っているの、この店はアイドルやロックバンドがよく出るわ」
「じゃあ、沙織さんも若いファンが多いんだ」
「そうでもないけど、あ、お酒なくなっちゃった」
そう言うと、電話を掛けて追加している。
「強いんだね」
「平気よ、お酒なんて、いくらでも」
目のまわりがピンクになっている」
「井坂さんは結婚しているんでしょう?」
「まあ、そうです」
「うまくいってないみたい、お酌して」
「呑み過ぎですよ」