荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『青い鳥』 中西健二

2008-12-04 00:59:00 | 映画
 今年47歳になる中西健二という人の監督デビュー作『青い鳥』は、教育現場の映画をある種の「歴史映画」として撮り上げて、厳粛な偉容をそなえている。
 クラス内でいじめに遭い、自殺騒動を引き起こして去っていった野口君の机とイスが空虚の中心であり続けること。それだけが唯一の主題である本作は、今はもういない野口君への加害者意識の忘却を禁止しており、阿部寛が演じる主人公の臨時担任は、赴任早々、倉庫に打ち捨てられていた野口君の机を元にあった席に再び置き直すことによって、クラスの生徒たちに自虐を強要しているのだ。もちろんこの措置は、生徒たち、生徒の親、職員会議の席上でも猛反発を受け、自殺騒ぎのショックからようやく立ち直りつつあった校内に、再び動揺をまき散らしてしまう。

 この「自虐」とは「自虐史観」と同じ意味での自虐であり、この担任は、生徒たち一人一人に自虐史観を芽生えさせるために手筈を取っているといっても過言ではない。人間は愚かにならないためには、自らの内面に自虐性を持たなくてはならないと主張しているかのように思える。したがって、本作は近年とみに台頭した愛国的・反動的言説に対する、静かなる反論の隠喩ともなっている。

 そして重要なのは、この自虐への手筈が、恐ろしく丹念なカットバックによって、登場人物の対面を厳密に寄ったり引いたりしつつ撮り重ねられていることである。ミニマルなまでに閉塞した教室という空間の中の、たった1つのあるじのいない「机」の存在という主題の取り扱い、そしてそれを映画として定着させるための技法、二重の厳密さが『青い鳥』にはある。


11月29日(土)より、新宿武蔵野館などで上映中
http://www.aoitori-movie.com/   ※ただし、この作品公式サイトは、製作スタッフについて、監督と主題歌歌手のことしか記載していない代物で、カメラマンが誰なのか、シナリオライターは他に何を書いた人なのかさえ分からないという、作り手に対する敬意を欠いたサイトだから参照する必要がありません。昨今は、情報満載すぎて逆にうんざりさせられる作品公式サイトが多いのですが、今どきこういう代物もあるのですね。