幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第八十六回
見えない相手が黙れば、これはもう、ただ一人で歩いている状態と何ら変わりはない。上山は、少しの孤独感に苛(さいな)まれていた。
「もう、消えていいぞ、君!」
『えっ?! …』
急に独り言のような上山の言葉が響き、幽霊平林は思わず、ひと言そう発した。
「いやあ、姿が見えないと、なんだかなあ~。味気ないというより侘(わび)しくなるからなあ」
『はあ、…どうも、すいません』
「君が謝るこっちゃないが…。それにしても、なんかもう少し正義の味方をやりたかったな」
『はい…。他にも人類の手に負えない病気とか、いろいろありましたからね』
「だな…。まあ、霊界トップからすりゃ、干渉し過ぎなんだろうがな」
『イエローカード、いや、下手するとレッドカードで元も子もなくなってしまいます』
「そうだな…。ここらが潮時ってことか…」
『はい…。まあ、このタイミングなんでしょうね』
「このタイミングねえ…」
二人は、また押し黙り、上山は歩き続け、幽霊平林は流れ続けた。やがて、小さく上山の車が見えてきた。そして二人は駐車場で別れた。双方とも、なにか今一つシックリしないものがあった。結局、その原因は幽霊平林の姿が上山に見えなくなったことによるのだが、霊界トップの意向とあれば、二人(一人と一霊)とも従う他はなく、そんな憤懣(ふんまん)が鬱積していたこともある。
二人が別れて三日ばかりが経った頃、世界では地球語が各国の教育機関において必須教科として採用されることが正式に決定され、人類史上初となる世界各国統一の地球語カリキュラムが組まれることも合わせて決定されたのである。このニュースは世界各国のメディアを通じて一斉に流れた。上山も、そのニュースを昼のニュースで知った。場所は社員食堂で、据え付けられたワイドテレビが大々的にその詳細まで時間を延長して報じていた。