水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑える短編集 -79- 最適化

2022年06月03日 00時00分00秒 | #小説

 パソコンのハードディスクが重くなるように、人も長く生きていると、つまらないことをクヨクヨと思い込み、重くなることがある。パソコンの場合の処方箋(しょほうせん)は最適化だが、人の場合はどうすればいいんだろう? と、つまらないことをクヨクヨと考える男がいた。臨床心理学者の海鳥である。海鳥はいろいろとシミュレーションを試みた。
「あなたは、いつ頃からクヨクヨと考えるようになったんですか?」
「先生、いつ頃からと言われましても、正確にいつ頃からとは…。覚えてねぇ~んですよ。申しわけねぇ~んですが…」
「ははは…なにも謝(あやま)られる必要はないんですがね。あなたが患者なんですから…」
「そりゃそうなんですがね…。まあ、かかあが出て行けっ! って言うんで、売り言葉に買い言葉で、あっしも、おめえの方が出ていけっ! てなことを言っちまったのが悪かったんですが…。それ以降ですよ、クヨクヨ考え込むようになっちまいましたのは…」
「そうですか。一度、奥さんとも話す必要がありそうですな。なにが原因かは存じませんが、それを解明して最適化する方向でやってみましょう」
「最適化? ですかい?」
「はい、そうですよ。最適化…つまり、一番、あなた方の仲を具合よくしようということです。早い話、仲人(なこうど)に入ってもらおう・・ということですよ」
「ああ、なるほど。そういうことですかい、分かりやした。なにぶん、よろしく!」
 海鳥としてはシミュレーション第1号の男だったから、いつもよりは丁重に対応した。
 男の妻が海鳥の研究所にやって来たのは数日後だった。
「ったくっ! 先生、あの人、なんて言ってました?」
「なに・・ということも言ってられなかったんですが、まあ、よろしくお願いしますとだけ…。で、別居の原因はなんだったんですか?」
「よく訊(たず)ねて下さいました、先生。私という者がありながら、ぅぅぅ…」
 妻は泣き始めた。海鳥は、ハハ~ン! と、すぐ分かった。なるほど! 演歌の別れか…演歌なら私がいるはずだ、海鳥だけに…と海鳥は最適化役は自分をおいて他にないと、自負(じふ)した。二人の最適化は、仲裁役に徹することだった。

                    完


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