幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第九十八回
『フフッ…。でも、もうその心配もなくなると思いますよ。そろそろ消えることになりそうですから』
「えっ?! って…、次の昇華をするってことだよな?」
『はい、そうです。課長のいる人間界へ生まれ変わるんですよ』
「…そうだった、そうだった。ということは、最後のお別れに現れた、ってことか?」
『はい。まあ、そうです。消えてからでは会えませんから…』
「ああ…、そりゃまあ、そうだわな。理に適(かな)ってる」
上山は上手く丸められた格好で、頷(うなず)かされた。
『そんなことより、国連に地球語の管理流通組織が出来たようですね』
「ああ、☆⇔☆だろ? これだな…」
上山はテーブル上の新聞を指さした。
『そうです、これこれ…。☆⇔☆…』
霊魂平林は、ユラユラと揺れながら静かに降下し、新聞の一面見出しを凝視した。
「その記事によれば、☆⇔☆マークは分かるが組織名は地球語標記だな」
『ええ、そのようです…。僕の知らない字体です』
「それは私も同じだ。小学生と同じで、一から習わんと、さっぱり分からんわ、ははは…」
『その点はフツーの人と、ちっとも変わらないんですね』
「そうだとも。だいたい、フツーでいいんだよ、私は。すべてが、フツーで…」
上山は、やや興奮して、幽霊平林が浮遊する見えない空間を見つめて、云った。
『まあ、そう云われず…。すぐ、覚えられますよ。小学生が習うんですから…』
「そうだといいが…。君は人ごとだからいいな」
『いや~、僕だって昇華して生まれ変わりゃ、孰(いず)れは覚えねばならなくなるんですから…』
「おお! そりゃ、まあそうだな」
その言葉で、上山は溜飲を下げた。
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