水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

明暗ユーモア短編集 (50)さめざめと泣く

2022年01月25日 00時00分00秒 | #小説

 泣き方にもいろいろある。さめざめと泣く・・ともなれば、かなり気分が落ち込んで暗い状態で泣く場合だろう。しかも、その泣き方は長引くのである。悲しくもないのに、身振り手振りでいかにも悲しいかのように大げさに泣くという作り泣きとは雲泥の差だ。作り泣きの場合は、人の手前だけ泣いておいてすぐ明るく晴れるという特徴がある。いつやら、笑いながら怒る芸のことを書いた記憶があるが、もう少し芸を極め、さめざめと泣きながら笑う・・というのは如何だろう。 ぅぅぅぅぅ…ははははは…を同時に熟(こな)して戴きたい訳だ。まあ、それは無理かも知れないが…。^^
 とある町の一角である。一人の男が歩道の真ん中で立ち止まり、さめざめと泣いている。見かねた通行人の一人が、思わず近づいて訊(たず)ねた。
「ど、どうされたんですっ!!」
「財布が…。ぅぅぅ…」
「落とされたんですかっ!?」
「いえ、そうじゃないんですっ! ぅぅぅ…」
「と、いいますとっ!?」
「はいっ! よくぞ、訊(たず)ねて下さいましたっ!!」
「えっ!? ええ…」
「実は母ちゃんがっ! ぅぅぅ…」
「母ちゃんと申されますと、お母さんですかっ!?」
「いえ、そうじゃないんです。うちのカミさんが、ぅぅぅ…」
「お、奥さんが、どうかされましたかっ!!?」
「いいえっ! [が]じゃなくって、[に]なんですっ!」
「? [に]ですか?」
「はいっ! 母ちゃんに、ですっ!」
 訊ねた男は、財布と奥さん・・のさめざめと泣く共通点が見いだせず、暗く思い倦(あぐ)ねた。
「あの…どういった?」
「財布に今日の小遣い、七百円しか…。ぅぅぅ…」
 男は本格的にさめざめと泣き始めた。
「七百円っ!?」
 訊ねた男は、さめざめ泣くことかいっ! と怒れたが、そうとも言えず、「そうでしたか…」と、暈(ぼか)して歩き去った。
 さめざめと泣く場合は人によりけりで、内容に違いがある訳である。^^

                   完


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