正しい歴史認識と言われても、多分そんなものは存在しないと私は思っている。
裁判で通用するようなガチガチに証拠を固めた事実でも情報に漏れは存在するだろう。
それにその事実をどう認識するかは人によってそれぞれだ。
それを無理やり一つに統一しようとするならそれがどのような認識であれファッショでしかない。
大体、正しいという言葉を使っている時点で胡散臭い気がする。
歴史の事実を物語化した時、そこには大量のノイズが発生する。
物語化したものを鑑賞したり読んだり聴いたりする楽しみはそのノイズにある。
安彦良和の歴史モノの漫画に含まれるノイズは面白い。
昨日の夜は、安彦良和の漫画「王道の狗」を読み返していました。
時代は明治中期。
主人公の加納周助は自由党に加わり秩父事件や大阪事件を経て逃亡。
強盗事件を起こして北海道の監獄に収監され、石狩道路建設の懲役労務に就いていた。
物語は加納が新潟天誅党の風間一太郎と脱走したところから始まる。
二人はアイヌ人の男に助けられて開拓者・徳弘正輝の下に身を寄せ、身を隠す為にアイヌ人に化ける。
日本、朝鮮、清王朝が舞台。
秩父事件から日清戦争、辛亥革命までの歴史漫画です。
登場する歴史上の人物は、勝海舟、陸奥宗光、福沢諭吉、武田惣角、徳弘正輝、大井憲太郎、飯塚森蔵、落合寅市、氏家直国、景山英子、和田延次郎、田中正造、川上操六、内田良平、岡本柳之助、小山六之助、宮崎寅蔵、児玉源太郎、金玉均、洪鐘宇、全ボン準、高宗、閔氏、孫文、李鴻章、袁世凱など。
どこかで聞きかじった話だけど、日本の昔の武術家で武術を習得する理由を聞かれて「鍛錬することで常に隙を作らない状態になれる。隙を作らないことで他者と争わないですむ」と答えた人がいたそうです。
力が無くては無法者が現れれば蹂躙されるだけ。力を持つことで隙を作らず争いを避ける。というやり方は日本の武道武術の流れをくむものには流れているとは思うのだけれども、習ったことがないのでよくわからない。
主人公の加納は、恩を受けたアイヌの男を助けることができず、無力感に襲われて武道家・武田惣角から大東流合気柔術を学びます。
加納と大きくかかわってくる歴史上の人物は勝海舟、金玉均、陸奥宗光の3人。
王道の狗であろうとした加納なのですが、最終的にはテロリストになってしまう……。
力に淫してしまっている。
これは王道と呼べるのだろうか?
お話の展開は後半部分が駆け足になって少し残念。
勝海舟と出会った後の加納をもっと膨らませて描いて欲しかった。
でもこれは大人の事情があってやむを得ない処置だったようです。
面白かったですよ。
楽しめます。