
ユナイテッド・シネマ新潟で、「モーリタニアン 黒塗りの記録」を観てきました。
9.11に関わった容疑で不当に逮捕され、裁判も受けられないまま何年も米軍に拘禁されているモーリタニア人の青年モハメドゥと、彼の弁護人となったナンシーの実話に基づく物語。
ナンシーがモハメドゥを調査する中で、アメリカの恐ろしい陰謀が浮かび上がってきます。
アメリカ政府はモハメドゥを有罪に仕立て上げて、死刑にする前提で動いていて、彼の人権を無視してキューバの米軍基地で不当に拘禁しています。
しかも、ナンシーらがモハメドゥに関する資料を入手して読もうとすると、その文章のほとんどが黒く塗られて秘密が隠蔽されている。
政府の人権を無視した暴力的な振る舞いや、情報の隠蔽などは、日本でも起こっていることなので、ここは本当に恐怖を覚えました。
また、個人的に「記者たち」や「バイス」など、9.11テロの裏でのアメリカ政府の陰謀を描いた映画を見ていたので、こういう事実は知らないだけでまだまだあるんだろうな…と思ってしまいました。
そんなわけで、ナンシーはモハメドゥに関する資料の開示を要求していく。
そこで、次第にモハメドゥに関する隠されていた事実が浮かび上がってくるわけですが、そこで本当に人間を肉体的にも精神的にも破壊するような暴力的な拷問と虐待や、証言の捏造という現実が浮かび上がってくる。
政府と軍という権力の暴力性をこれでもかと描きながらも、そこに知性で立ち向かたナンシーと、地獄を耐え抜いたモハメドゥの勇気がひたすら胸に刺さる映画でした。
特に、テロ容疑のあるモハメドゥの弁護をすることに対し、アメリカ国内からもナンシーは批判を受けますが、「どんな人間にも弁護を受ける権利がある」と毅然と主張するナンシーがカッコよかったです。
そもそもモハメドゥの逮捕自体が不当だったわけで、政府による事実の隠蔽と改竄に対して、多くの人が無力だし、騙されてもおかしくないんだよな…と、これは他人事じゃないよなと実感しました。
しかし、同時にそんな権力の横暴という現実に、立ち向かう勇気の大切さも感じる映画でした。
印象的だったのは、モハメドゥを起訴する側の立場である米軍のスチュアート中佐も、拷問や虐待、隠蔽を批判し、暴力よりも法による正義を望む人物として描かれていたこと。
途中でスチュアート中佐とナンシーが出会う場面もあり、裁判上では敵対していても、共に正義を求める対等な関係の仲間ですらあるんだなと思ったし、ここはすごく希望に感じました。
そもそもスチュアート中佐自身も政府から騙されて、モハメドゥの有罪を信じている、という立場でもあるわけで、ある意味被害者でもあるのです。
そんな状況にもかかわらず、権力にただ従うことではなく、自分の正義と人権を重んじる姿勢が強く胸に残りました。
スチュアート中佐を演じたのは「ドクター・ストレンジ」などで知られるベネディクト・カンバーバッチなのですが、彼はこの映画の製作も担当したそうです。
「愛と闇の物語」のナタリー・ポートマンや、「MINAMATA」のジョニー・デップなど、ハリウッドの俳優は社会派な作品に積極的で凄いなと思いますね(日本だと「ある船頭の話」のオダギリ・ジョーとかですかね)。
何が驚きって、これが実話に基づく作品ということです。
映画の中でも登場しますが、モハメドゥは裁判の後さらに何年も拘束され、結局10年以上経ってやっと釈放されたらしい。
そしてその手記はナンシーらの助言もあって出版され、多くの言語に翻訳されて世界的なベストセラーになり、こうして映画も作られた。
残酷な現実はすぐに変えられなくても、その現実を語り継ぐのは大切だと実感させられます。