シネ・ウインドで「偶然と想像」を観てきました。
3作の人間ドラマを描いた短編オムニバスです。
3作とも偶然の出会いから意外な方向に進む物語や、静かな会話劇の中で少しずつ描かれる登場人物達の気持ちの変化からまったく目が離せずに最後まで引き込まれてしまいました。
また物語における「想像」 の解釈が3作で違うのも面白い。
全体的に、「人」のおかしみ、愛おしさを感じる映画でした。
第一話「魔法(よりもっと不確か)」
とある女同士の恋バナを聞いた主人公は、突然元カレに会いに行くのだが、実は彼は…という物語。
ダラダラした長い会話が伏線となり、その後の元恋人同士の衝突やすれ違いをしながらの会話の緊迫感に繋がっていきます。
本人達も相手の気持ち、そして自分の気持ちを探り探り、会話しているんだろうな…ということが伝わるような、少しずつ変化していく気持ちの行き先から目が離せなくなる映画でした。
人間、はっきりした動機があって行動をするのではなく、実際はもっと曖昧で、最初は自分でもどうしてそういう行動をしたのか分からないような行動を取ることってあると思う。
そして、行動をしながら、次第に自分の気持ち(特に恋愛感情)に気付くことってあると思うし。
実際そういう体験は僕自身もあるので、こういう恋愛ドラマに出会えて良かったです。
また、3作の中で「想像」の描き方が一番好きでしたね。
映画だから表現できるような、ちょっとびっくりするような映像表現なのですが、ネタバレになるので書かないでおきます。
「扉は開けたままで」
大学教授に落第させられて恨みを持つ大学生が、同じ研究室の卒業生で社会人学生をしていたセフレの女性に頼んで教授にハニートラップを仕掛けようとする。
物語の鍵となる芥川賞を受賞した教授の小説を巡って、エロと作家論が行き交う2人の会話が、意外な方向へと進んでいくのが面白い。
ネタバレになるので詳しくは書かないけれど、教授が作家だからこそ、表面的なエロではなく、自分の作品にまつわるある出来事の方により深く感動し、それがハニートラップを仕掛けにきた女性の気持ちを動かしていくのが感動的でした。
僕自身も、文章を書いたり自分の表現活動をするような人間なので、そこにまつわる感動が恋愛やエロよりも凌駕する感覚、分かるんです。
それに、他人から見たらただのエロな会話かもしれないけど、本人達にとってはもっと深くて重要な部分で理解し合っている感動ってある。
そういう、一見ただの表層的なエロのようで、実はあくまでその根底にある表現者の切実さが描かれていて良かったです。
「もう一度」
仙台駅前で偶然再会した2人の女性が同じ時間を過ごすが、実は2人は…
これ以上を書くとネタバレになってしまうので感想が書きづらい物語。
分かり合っているようですれ違っているような、すれ違っているようで分かり合っているような、2人の会話が愛おしく、また3作の中で一番笑える物語でもありました。
3話とも物語が核心に迫ると会話が、いかにもな会話劇みたいになっていくのが印象的なんだけど、それは人間が常に本音と演技の狭間で生きている存在だということの表現かなと思いました。
それを一番強く感じたのが最後の「もう一度」で、時に演技という虚構が人間の本音を動かすこともあるんだなと思いました。
2021年の最後に、最高の映画を観ました!