表紙には、「Souvenir Album “Yaoko Kaitani” 貝谷八百子 スーヴニール No.1 」とある。奥付には、「昭和十三年〔一九三八年〕十一月二十七日印刷 昭和十三年十二月一日発行 〔非売品〕 編輯兼発行人 貝谷和昭 発行所 貝谷舞踊研究所」などとある。26.1センチ、〔28頁〕。
・表紙 「交響曲第五番」の若き酋長の貝谷八百子
・写真
「アラビアン・ナイト・ワン・パート」の貝谷八百子 2葉 〔上左。なお、本書には、同じ彩色のもの1枚が挟まれていた。〕
美しき森の孔雀三態 3葉 〔上中〕
ツインガーヌ2態 2葉 〔上右〕
酋長の貝谷八百子 1葉
瀕死の白鳥4態 4葉
・プログラム
・お願ひ 貝谷八百子〔顔写真あり〕
・第一回公演にあたつて 貝谷和昭 〔顔写真あり〕
・「杏花村」について 奥野信太郎
・貝谷八百子について 西條八十
・「美しき森」に就いて 内田岐三雄
「美しき森」は所演時間二十分ほどのバレエです。これは今度の公演の開幕に上演するものとして僕が書いたのですが、若い乙女貝谷八百子君が当場する最初のものとして、美しいロマンスめいた物語りを選び、そして八百子君の持つクラシック・バレエのテクニックを大いに活用するために、クラシック・バレエの型をとることにしました。
けれども、僕が「美しき森」といふクラシック・バレエのために台本を書いた理由は、以上だけに尽きてゐるのではありません。大きな物の云ひ方を許して頂ければ、日本ではクラシック・バレエといふものが比較的等閑に附されてゐる様であるし、その持つ良さといふもの、寧ろ実実質以下に評価されてゐるのではないか、と思うふのであります。もちろん、クラシック・バレエの内容と形式とは今日からいへば古いものであり、そこに不満なものが見出されるのでありますが、その一方、長い伝統の下に築きあげられた美しさと優れた形とは、今なほ我々をとらへ魅するに十分なことも事実なのであります。そして又現在の欧米の新しいバレエは、このクラシック・バレエを源として発生したものであって、これなしに直ちに生れ出たものでないことは云ふ迄もないでせう。
僕はそれ故に、「美しき森」を特にクラシック・バレエとして書いたのであります。然し、これはあくまでも僕の意図でありまして、このバレエが即ちクラシック・バレエの見本といふのではありません。僕の望みは、クラシック・バレエの長を採り、その古きが故の短を今日の眼を以て補って行かふといふのでありますが、浅学不才、よくその望みを全うするか顧みて危惧の念の大きなものがあります。たゞ僕としては、この道に精魂を打ち込んで行く念願であると此処に申し上げることが出来るのみであります。
「美しき森」を書いた理由は以上の如くでありますが、もう一言申し述べて置きますと、動きと線と色彩と音楽とのみによって感情とテーマとを人々になだらかに伝えへることを志したことを申さねばなりません。なほこのバレエの中ではその他、二三の僕の思ひつきが試みられて居ますが、それに関しては特に云ふ程のこともありません。
終りに、このバレエのために良き協力と熱心な援助を惜しまれなかったあらゆる方々に心からの感謝の念を捧げます。
・八百子と瀕死の白鳥 エリアナ・パヴロバ
サンサーンスの作曲でフオキンスの創作になる、アンナ・パヴロバ一代の名舞踊“瀕死の白鳥”私にとつて亦秘蔵の“瀕死の白鳥”これを八百子の門出に差上げました。
八百子なら、きつと、りつぱにをどつてくれる事と信じます。
八百子の白鳥の姿が、毎日眼の前に幻影となり、私の心を楽しませ喜ばせ感激させてくれます。
今後とも、きつとすばらしい舞台になる事でせう。
・舞踊の舞台衣裳について 三林亮太郎
・応募作品の上演 河合信雄
・舞踊の新しい時代性について ‥貝谷兄妹の場合‥ 石井順三
・待望の新星 -貝谷八百子さんを世に送る- 江口博
・『美しき森』の作曲 服部正
・ボレロの編曲について 宇賀神味津男
・白夜の装置衣裳 小田内通正
・“交響曲第五番”舞台台本 貝谷和昭
・偬倥の言葉 山田和男
・照明プランを作つた立場から 松崎國雄
・バレエ劇場に贈る 東勇作
・懸賞台本募集結果 〔写真あり〕
・編輯後記 (K・K)
下は、プログラムにある演目など〔配役や解説など多く省略〕。
第Ⅰ部
バレエ
a “美しき森”
作並演出 内田岐三郎 作曲並指揮 服部正 装置並衣裳 三林亮太郎 振付 貝谷八百子 東勇作
美しい大きな森。この楽園に猟師が入り込んで来た。栗鼠が隠れる。鹿が逃げる。小人が驚く。だが猟師が一番狙つたのは孔雀だつた。やがて森に夜が訪れる。月の光に照らし出されると森は不思議な姿を呈する。こゝで猟師は何を見たか、そして朝になつた時にー。一つのフアンタジーである。
ソロ
b “ブローニュの森”
エリアナ・パヴロバ
ソロ
c “瀕死の白鳥”(サンサーンス作曲“白鳥”による)
貝谷八百子 セロ 井上頼豊 ピアノ 山田和男
デュエット
d “青い鳥の幻想”(パウル・リンケ作曲の“蓮の花”による)
採譜 アレキセー・アバザ 編曲指揮 早川彌左衛門 振付 貝谷八百子 チルチル 緒方玲子 ミチル 片瀬笑子
ソロ
e “少女の夢”
作曲並指揮 アレキセー・アバザ 貝谷八百子
※※INT※※
ソロ
f “ローマの松”(レスピーギ作曲)
旧作・レコード使用 貝谷八百子
1 序曲として“ビーラボルゲーゼの松”を置く。
2 “塋屈のほとりの松”ー聖セバスチアンの安眠せる塋屈のほとりの松、地下よりわき上る偉大な合唱にのつて、歴史を語る松。
3 “アッピア街道の松”ー盛んなる古代ローマの詩、この路を幾多の軍隊が通つていつた事か。それら無数の霊魂の足音が聞え響く。イタリー建設の一頁に松も亦光輝ある歴史の姿である。
第Ⅱ部(A)
デユエット
a “コーカシアン・スケツチ”(エポリトフ・イワノフ作曲“コーカシアン・スケツチ”による)
編曲並指揮 宇賀神味津男 幻の女 エリアナ・パヴロバ 若者 貝谷八百子
ソロ
b “アラビアン・ナイト・ワン・パート”(グラズノウ作曲“ダンス・オリエンタル”による)
採譜編曲 アレキセー・アバザ 音楽指揮 早川彌左衛門 貝谷八百子
ソロ
c “ツイガース”(ラヴエル作曲“ツインガーヌ”による)
エリアナ・パヴロバ研究所卒業作品 レコード使用 貝谷八百子
ソロ
d “びつくり箱”(ブラトン作曲“海賊の行列”による)
採譜 アレキセー・アバザ 編曲指揮 早川彌左衛門 振付 貝谷八百子 緒方玲子
デユエツト
e “杏花村”
作 奥野信太郎 作曲並編曲 貝谷和昭 音楽指揮 服部正 衣裳考案 中丸平一郎 振付 貝谷八百子 村娘 貝谷八百子 牧童 東勇作
第Ⅱ部(B)
トリオ
a “白夜”(懸賞入選台本)
作 河田清史 脚色並演出 河合信雄 作曲並指揮 山田和男 装置並衣裳 小田内通正 振付 貝谷八百子 黒薔薇 貝谷八百子 蜘蛛 東勇作 園丁 村松直
ソロ
b “ボレロ”(モーリス・ラヴエル作曲“ボレロ”による)
作並構成 白井鐵造 編曲並指揮 宇賀神味津男 装置並衣裳 三林亮太郎 振付 貝谷八百子
第Ⅲ部
バレエ
“交響曲第五番”(アントン・ドヴオルザーク作曲)新世界より
作 貝谷和昭 脚色並演出 内田岐三雄 河合信雄 音楽指揮 山田和男 装置並衣裳 三林亮太郎 小田内通正 振付 貝谷八百子
a 序曲、(第Ⅰ楽章)
b 第一景(第Ⅱ楽章)“沈みゆく陽”
若き酋長 貝谷八百子 インデイアンの娘 泉芳子
c 第二景(第Ⅲ楽章)“火の部落”
d 第三景(第Ⅳ楽章)“新しき世界へ”
インデイアンの二つの伝説とドヴオルザークの作曲心境とをアレンジしたもので、大自然の謳歌と、野花の如き愛と、不屈の勇猛心とを描いた熱と力の踊りである。
賛助出演 エリアナ・パヴロバ 東勇作 演奏 中央交響楽団・照明 松崎國雄