蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

『故郷』 創刊號 (1947.3)

2021年12月29日 | 人物 作家、歌人、画家他

  

 故郷 FURUSATO
       創刊號

 ふるさと
    佐佐木信綱

 幾萬 いくよろづ やまと言葉ありそが中になつかしきかも「ふるさと」と云 ふ は

 ふるさとは三重のあがたの伊勢の國神路山淨 きよ く海淸き國

 すぐれ人 びと 生 あ れ出でし國ぞ今の代に次の代にはたすぐれ人 びと いでよ

 なつかしきわがふるさとは鈴鹿嶺 ね をはろかに仰ぐ石藥師のさと

 なつかしも萬葉人 まんえふびと の歌に入りし山邊 やまのべ の御井 みゐ に近きふるさと

 随筆

    新た世のあけぼの
          佐佐木信綱

 明治の初め、宮中の歌御會始に、國民の詠進を御嘉納になり、ことに十二年からは、その中のすぐれた作を、預選歌として御式に披講せしめられた。
 萬葉集には、應詔歌とて、仰言を承つて、少數の歌人、官人の献げまつつた作があるが、廣く國民の心の聲を御聽きになる慣例は、明治の御代に開かれたのであつた。爾來約七十年、年ごとに詠進の數を增し、うるはしい新年の行事となつたのである。
 今茲 ことし 昭和二十二年の詠進歌の選者として、元御歌所寄人の千葉胤明氏、同鳥野幸次氏と、新たに民間より齋藤茂吉氏、窪田空穂氏、及び佐佐木信綱の五名が命ぜらるることとなつた。
 千葉、齋藤の二氏は、未だ地方に疎開中であるので、窪田、鳥野の二氏と自分とが、宮内省に參上した日、表拝謁の間に於いて、
 兩陛下に謁を賜はる光榮に浴した。三人が數分間づつそれぞれ言上するところを聞き召された後、「歌道をとほして、皇室と國民との結びつきに就いて、一層努力するやうに
 とのありがたい御言葉を賜はつた。
 これは、全國の歌を詠ずるすべて人々のに賜はつた御言葉と、深く感激して承つたことであつた。
 かくも深く歌の道に寄せさせ給ふ大御心に應へ奉つて、全歌壇の人々のいやが上の精進を待望する次第である。
 萬葉集の歌に、「新た世」といふ詞がある。今や、日本國憲法も制定せられ、我等はまさしく新た世のあけぼのに立たうとしてをるのであつて、「あけぼの」といふ御題を御示しになつたことは、まことに意義の深いことを覺える。新たなる世のために、新たなる歌のために、重ねて、全歌壇の人々の精進を待望する次第である。
 
〔蔵書目録注〕
 
 上の文は、昭和二十二年三月一日発行の雑誌 『故郷』 創刊号 第一卷 第一號 アサギ書房 に掲載されたものである。



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