東京女医学校規則
◉設立主意
世界ノ文化ハ日一日ト其歩ヲ進メ我日本モ泰西ノ制度文物輸入以来女子ノ教育ハ長足ノ進歩ヲ成シ今ヤ普通教育ニ至リテハ殆ント間然スル所ナシ豈吾人女子ノ至幸之レニ比スルモノアランヤ蓋シ一歩ヲ進メテ益々其必要ヲ感ズルハ女子ノ専門学ニアリ由来女子ノ専門学ナルモノハ欧米ニ於テハ業ニ既ニ数十年以前ヨリ実施サレ其職ヲ或ハ政治界ニ或ハ新聞記者ニ或ハ医業ニ或ハ教育界ニ或ハ銀行会社ニ奉ジツヽ其資格毫モ男子ト軒輊スル処ナシ我邦モ條約実施以来対等ノ地位ヲ以テ列国ト交際スルニ至リタレバ女子ノ品位モ彼我又対等ナラザルヲ得ズ此際ニ当リテ社会ノ人心皆茲ニ意ヲ注グト雖モ其意ヲ満タスノ設備不完全ナルヲ如何セン思フニ女子ノ学校トシテハ女子師範学校、産婆学校、看護婦学校等ノ設ケアリテ各自其志望ヲ達セシムルト雖モ独リ女医学校ニ至リテハ未ダ日本全国否日本ノ首府タル東京ニ於テ其設立アルヲ見ズ聞説ク将ニ設立セラレントスル女子大学ニ於テモ文学科家政科等アル而巳ト余ノ考フル処ニ依レハ女子ノ本性ニ最モ適シ且ツ女子ノ品位ヲ高尚ナラシムル業務ハ医学ヲ以テ唯一ノ専門学トス隨テ斯学ニ志スノ女子又少シト云フ可ラス然ルニ是等ノ姉妹ニ其志ヲ遂ゲシムル学校ナキハ我邦学校設備ノ欠点ニシテ幾多ノ高尚ナル思想アル姉妹ヲシテ岐路ニ迷ハシム是千歳ノ恨事ニアラズヤ己レ女医ノ業ニ従事スル茲ニ九年熟ラ々々女医教育ノ不完全ト女子ノ医学研究ノ困難トヲ見満腔ノ同情ハ傍観座視スルニ忍ビス浅学不才ヲ顧ミズ蹶然起テ女医学校ヲ設立スル所以ナリ
明治三十三年十一月 東京女医学校主 鷲山彌生識
◉規則
第一條 本校ハ東京女医学校ト称シ当分事務所ヲ東京市麹町区飯田町四丁目九番地校舎ヲ牛込区市ヶ谷仲之町二十二番地ニ置ク
第二條 本校ノ学科ヲ前期学科後期学科ノ二トス
〇 前期学科
組織学 解剖学 生理学 化学 物理学
〇 後期学科
病理総論 内科各論 外科通論 外科各論 診断学 薬物学
眼科学 産科学 婦人科学 衛生学 法医学
内科臨床講義 外科臨床講義 婦人科臨床講義 眼科臨床講義
第三條 卒業年限ヲ四ヶ年トス前期学科修業年限ヲ一ヶ年半トシ後期学科ヲ二ヶ年半トシ前期ヲ三学期ニ分チ後期ヲ五学期ニ区分ス
但シ新学期開始ハ各期トモ毎年五月及十一月トス
第四條 毎日授業時間ヲ五時間トシ一週卅時間トス
但シ正午ヨリ五時ニ至ル
第五條 本校ニ入学セントスルモノハ年齢十七歳以上ノ女子ニシテ高等小学校卒業以上ノ学力ヲ有シ品行方正ニシテ思想確実ナルモノニ限ル
第六條 試験ヲ分ツテ学期試験、前期試験、後期試験及ビ卒業試験ノ四種トシ学期試験ハ各学期ノ終リニ施シ前期試験ハ前期科目修了ノ後後期試験ハ後期科目修了ノ後、卒業試験ハ後期試験及第ノ後トス
第七條 入学ノ期ハ各学期ノ始メトス
但シ望ミニ依リ随時入学ヲ許ス
第八條 休日ハ毎日曜日、大祭日、創立記念日、年始年末各々七日間
第九條 本校ニ入学セントスルモノハ左ノ書式ニ依リ入学願書ヲ認メ履歴書及ヒ束修月謝ヲ添ヘ本校事務所ニ差出ス可シ然ルトキハ校主面接ノ上其許否ヲ定メ本校登録簿ニ原籍、現住所、族籍、姓名、生年月日ヲ認メ調印セシム
但シ保證人ハ本人ノ父兄及ビ東京市内ニ居住ノ戸主ニ限ル
〔上の右の写真〕
第十條 毎月一回校友会ヲ開キ立身上ノ協議ヲナシ且ツ郊外ノ運動ヲ試ミ心神ノ安養ヲ図ラントス
第十一條 学資ハ入学金貮円月謝前期金貮円後期二円五十セントス
第十二條 教科書ハ校内ニ掲示ス
第十三條 賞罰 品行方正ニシテ学期試験及ビ卒業試験ニ優等ヲ得タルモノハ賞与ヲ與ヘ不品行ニシテ成業ノ見込ナキモノハ退学ヲ命ズ可シ
第十四條 転居若クハ保證人変更ノ節ハ其旨直ニ届出ヅ可シ
第十五條 本校卒業生ハ永久校友トシテ優待シ開業奉職等立身上ノ事ニ関シ万般ノ指導ヲナス