江戸の終わりから明治にかけて、本郷春木町(現在の本郷三丁目)に「よし藤」という名の浮世絵師が住んでいました。
彼は大変すぐれた画家でしたが、今のわたしたちにその名を残してはいません。
それは、彼はその一生を幼い子どものためのイラストレーターとして生き続けたからでした。
彼は、そのころ江戸の町の子どもたちの間に流行した一群の「子ども浮世絵」の専門画家として、「新板鼠のたわむれ」・「面づくし」・「祭礼人形づくし」・「昔話・かちかち山」・「新板冬物衣装」・「なぞなずづくし」・「すもう両面合わせ」といった楽しく美しいたくさんの一枚絵を描き続けたのです・・・。
江戸の町の子どもたちは、これらの粗末な絵を絵草子店や駄菓子屋で買い求め、絵本やマンガや図鑑として自らを楽しませ、慰め、賢くさせたのでした。
これら、彼のおおくの作品たちは、いずれも、子どもたちのありのままの姿を肯定し、子どもたちの活動をじっと見守っていく優しいまなざしに包まれている極めて高い価値を内包したものとして後世高く評価されましが、幼い子どもたちの手遊びの中で、そして何よりも下町を襲った震災や戦災によって、その大部分が、彼の名とともに歴史のかなたに消え去ってしまったのでした・・・。
◇参考文献
・浮世絵5号(大正4年) 浮世絵社
・組上燈篭考 高値宏弘著
・落穂ひろい 瀬田貞二著
・よし藤・子ども浮世絵
中村光夫編著
(月刊「郷土教育 701」より)