郷土教育全国協議会(郷土全協)

“土着の思想と行動を!”をキャッチフレーズにした「郷土教育」の今を伝えます。

『プラン75』を観て

2022年07月08日 | 日記

友人に誘われて『プラン75』をみた。

 

「75才過ぎると、死を選択できる」法が制定――国が公費で、人里離れた病院のような施設で、睡眠薬を飲み、

苦しまないでガス死させてくれる。

遺体は焼却、残灰は産廃処理者が処分―—家族も坊さんのお経も線香もない。

物体としてオートマティックに処理してくれる。

 

 

倍賞千恵子扮する角谷ミチ、78才、ホテルの客室清掃員、仲間とカラオケに行ったり、親しい友人の家に泊まったり、

つつましくも折り目正しく暮らしてきた。

しかし、突然、高齢という理由で職を解雇。

職探し、住探しをするが、どこも断られる。

 

『プラン75』の窓口に引き寄せられる。

迷いながらも契約、決行日に向かって、身の回りを整理する。

担当スタッフとホットライン。

1回15分、若いスタッフは、本人の思い出を聞き、優しく受け止める。

 

スタッフの任務は顧客の不安を抑え、つつがなく決行の日を迎えられように伴走すること、ミチは彼女に

「お婆さんの話を聞いてくれてありがとう、付き合ってくれてありがとう。楽しかった。」と電話を置き、

翌日早朝、一人で遠い施設に向かう。

しかし・・・

 

 ミチさんは、体力も気力もしっかりして、働く意思がある。

齢を理由に解雇され、その後仕事が見つからず、経済的に追い詰められ、「プラン75」の契約した。

 

生きることが嫌になったわけではないし、生きることに疲れたわけでもない。

ミチさんは生きたかった。

家賃が安い公的な住居があり、適当な仕事があり、人間関係があれば、生きていける。

 

 

もう一人プラン75を申し込んだ男性、スタッフの音信不通だったユキオ叔父という設定、甥は叔父のアパートを訪ね、

長崎から北海道まで全国の飯場を回り橋やトンネル、ビル工事などにかかわっていたことを知る。

 

その日の朝、甥は叔父を郊外の施設に送り届ける。

叔父がプラン75を申し込んだのも、経済的理由だ。

親や兄弟など血縁と疎遠になり、親しい友人、知人もなく孤独に生きている。

人間は社会的生き物だから、人間的つながりがなくなれば、生きる力もだんだん希薄になる。

 

 

麻生太郎が、10年ほど前だったか、「日本の年寄りは、働くしか能がないから、働かせろ」のようなことを言って、

「年寄りに死ぬまで働けというのか」と抗議が殺到した。

「あんたにそんなこと言われる筋合いはない」私もアタマにきた。

 

70年代、80年代、会社員が定年後、行くところや、やることを失って、ぬれ落ち葉・・・などと揶揄された時期もあったが、

今はそんな話は遠い昔、殆どのサラリーマンは定年後、再雇用で65才まで働く。

年金が出ないのだから。

65歳以降も、闘病中でない限り仕事に就いている。

勿論、一番の理由は生活のため。

 

なじみのお豆腐屋さん、71才、「豆腐作りというのは、大豆、季節、天気、その日の温度などで微妙に違う…

私は、これと言って趣味もないから、仕事があって助かる。お客との会話も楽しいし…」

 

「でも、いやな客もいるでしょう?」

「それが不思議なんですよ。自分が嫌な客だなと思うと、いつの間にか、その人は来なくなる…」

 

仕事をするということは、社会につながり、人とつながる。

死ぬまで働きたいなんて思わないけれど、社会の中、人間の中で生き続けたい。

 

悠々自適な生活、趣味に生きる、好きなことをして愉しく生きるーーリタイヤア後の夢。

でも、多くの場合一人ではない。

俳句にしろ、絵画や音楽にしろ、畑仕事でもともに楽しむ仲間が存在する。

 

昔々の老後のスタイルは、家業を息子に譲り、隠居になる、と、村や町、コミュニティの世話役が回っていくる。

春夏秋冬の行事の段取り、祭りの準備、伝統の祭囃子、踊り、順送りでボランティア活動があった。

70代、80代でもコミュニティの中で役割があり生き生かされた。

人間は老いても、やっぱり社会的な生き物なんだ。

 

 

ミチと同い年の私、一人暮らし、二人の甥とも賀状での挨拶程度、頼る気もない。

いやも応もなくやってくる80路、少し年上の友人は、口をそろえて80の峠は厳しい・・・とても不安であるけれど、

高齢者問題の先頭に立っているのだと自覚して、もちろん皆の力を借りながら、

『プラン75』とは違った道を行けるところまで行こうと思う。

 

 

ーKa.M-


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