[31日 ロイター] - 民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏の電子メール問題について米連邦捜査局(FBI)が新たな検証を行うというニュースは、選挙結果を変えることはないかもしれない。だが、クリントン新政権を害する可能性はある。
米大統領選もこの段階まで来れば、大半の有権者は心を決めている。FBIによる新たな捜査が発表されたときには、すでに1200万票以上の期日前投票・不在者投票が行われていた。
投票日間近になってからの新たな発表は、政治的な動きと見られてしまい、通常あまり大きな影響を与えない。2000年の例もそれに該当するだろう。投票日の数日前に、共和党の大統領候補だったジョージ・W・ブッシュ氏が過去にメイン州において飲酒運転で逮捕されていたというスクープがあった。選挙戦終盤には熱気が高まっており、何でも政治的な動きと見なされてしまう。
民主党はコミーFBI長官にその責任を負わせようと躍起になっている。「選挙直前にこのような断片的な情報でしかないものを出してくるのは大変奇妙な話だ。実際、奇妙なだけでなく、前代未聞であり、大いに問題がある」とクリントン氏は述べている。
今回の問題で最も影響を受けるのは、共和党候補ドナルド・トランプ氏を支持することに気乗りせず、クリントン氏への投票を考慮していた不安定な共和党支持者だろう。
電子メール問題に接して、彼らは、なぜ「クリントン」が嫌いなのかという理由をすべて思い出すだろう。トランプ陣営幹部が言う、クリントン氏の「果てしないスキャンダル」である。
気持ちが揺れている支持者が共和党に回帰すれば、選挙は予想されているよりも接戦になるかもしれない。連邦議会における民主党の議席回復も限定的になるだろう。
結果が接戦になることは重要だ。そうなればトランプ氏の抵抗運動が生き延びるだろう。クリントン政権が発足直後に「蜜月期間」を迎えることも危うくなる。新大統領がやろうとする、すべてに対して共和党の反対が強まる可能性もある。
クリントン氏の弱点のなかでも、不適格性という汚点は後々まで尾を引く可能性がある。ポール・ライアン下院議長(ウィスコンシン州選出)はすでに、国家情報長官に対し、クリントン候補向けの機密報告を中断するよう申し入れている。
「クリントン氏には、わが国の最も重要な機密の一部が委ねられていた」とライアン議長は声明で述べている。「彼女は、機密情報を不用意に扱うことで、その信頼を裏切った」
選挙戦が終わっても「彼女を収監しろ」という叫びは長く続く可能性がある。
米国では、犯罪捜査を受ける可能性に直面している候補者が大統領に選出された前例はない。もしクリントン氏が当選後に起訴され、下院選挙で共和党の過半数が維持されたとすれば、大統領就任の当日に弾劾決議に直面することにもなりかねない。
抵抗運動の先頭に立っているのはトランプ氏だ。抵抗運動が断念されることはない。労働者階級の白人男性による運動のなかで最も強力なトランプ派は、彼らを脅かす米経済、文化や政策の変化、つまりグローバリゼーション、移民、ポリティカル・コレクトネスに抵抗している。
決定的な瞬間が訪れるのは大統領選投票日の夜だ。この夜、トランプ氏は敗北宣言となるはずのスピーチをする。彼は敗北を認め、クリントン次期大統領を祝福するだろうか。よほどの惨敗を喫しない限り、それは考えられない。
その代わりにトランプ氏は、すでに彼が「不正選挙」と呼ぶものへの抗議に向けて支持者を集め、「不適格な」大統領への抵抗を続けるよう呼びかけるだろう。
以前にも、この適格性に対する批判はあった。それはビル・クリントン大統領に対する弾劾裁判につながった。彼は1960年代のリベラルな文化的変化を受け入れた最初の大統領だった。オバマ大統領も、就任当初から自らの適格性に対する異議に直面した。トランプ氏を筆頭とするオバマ氏の政敵は、彼の出生地や宗教、米国人気質に疑義を呈したのである。
政治的議論においては、対立する相手方の誤りを非難するのが常である。だが、「抵抗」という言葉にはもっと大きな含意がある。相手が間違っているというだけでなく、正統性を欠いている(詐欺、欺瞞、強奪者、犯罪者)という意味だ。トランプ氏はクリントン氏を「監獄に送り込め」と要求している。
30日、保守派の論客であるウェイン・アリン・ルート氏はネバダ州ラスベガスで開かれたトランプ派の集会で演説し、クリントン氏とその長年の側近であるフーマ・アベディン氏を描いた映画があったらどうなるかという想像を披露した。
「私たちの望みはすべてかなえられる」と彼は宣言した。「ラストシーンは『テルマ&ルイーズ』のようになる」と語った。米映画「テルマ&ルイーズ」は1991年公開の作品で、最後に主役の女性2人が自殺してしまう。彼の発言は聴衆から喝采を浴びた。
トランプ氏が敗れた場合でも、彼がそのまま消え去ることを期待してはならない。彼が「トランプTV」を開設するという話がある。これはトランプ氏にとって、抵抗を続け、クリントン氏が望むすべてに対する反対を煽るための舞台になるだろう。
ルート氏は30日、群衆に向けて、彼らの信念は「攻撃、攻撃、攻撃あるのみだ。私たちは絶対に敗北を受け入れない。私たちは決して諦めない」と語った。
クリントン氏が勝てばどうなるだろうか。民主党は過去7回の大統領選挙のうち、ジョージ・W・ブッシュ氏が再選された2004年を除く6回は一般投票で勝利を収めた。1932年から1948年まで、5回連続で共和党が敗れた後、保守派は自暴自棄になった。彼らは、自分たちが敗北したのは米国を裏切ろうとする陰謀のせいだ、と主張したのである。
その結果は、やはり1つの抵抗運動の形を取った。反共産主義に基づく社会運動「マッカーシズム」である。
以上、ロイターコラム
>トランプ氏が敗れた場合でも、彼がそのまま消え去ることを期待してはならない。彼が「トランプTV」を開設するという話がある。これはトランプ氏にとって、抵抗を続け、クリントン氏が望むすべてに対する反対を煽るための舞台になるだろう。
クリントンはもし大統領になっても、共和党から弾劾裁判に持ち込まれる可能性もあるし、トランプがトランプTVを開設して反クリントンを繰り広げるつもりらしく攻撃を受けることになりそうだ。
勝利してもイバラの道ですね。