[東京 8日 ロイター] - 日本株の割安感が薄らいでいる。9月期決算発表前と株価の水準はほぼ変わらないものの、業績予想の下方修正が相次ぎ、予想EPS(1株当たり利益)が下がったためだ。日経平均.N225の予想PER(株価収益率)は一時、半年ぶりの高水準に上昇した。下期以降の業績改善期待も高まらず、米大統領選後の株高シナリオに暗雲が立ち込めている。
<クリントン氏勝利でも、上値限定的か>
決算発表シーズン前に14倍台前半だった日経平均の予想PERは、11月1日に一時15倍台を付けた。15倍台の回復は5月10日以来、約半年ぶり。足元は再び14倍台後半となっているが、割安感はもはや乏しい。
バリュエーションが上昇する要因は、株価の上昇か業績(EPS)の悪化のどちらかだが、9月中間期の決算発表シーズンの幕開けとなった10月20日の水準に比べると、日経平均は8日時点で0.37%安。米大統領選で途中乱高下したが、ほぼ変わらずの水準となっている。
足元におけるPERの上昇は、業績悪化が要因だ。みずほ証券リサーチ&コンサルティングの集計によると、東証1部の3月期決算企業の今年度純利益(4日時点で金融除く)は、前年度比0.7%増予想。事前予想の5.4%増から増益幅を縮めたことで、予想EPSが低下、バリュエーションが上昇した。
通期の業績予想(経常利益ベース)を下方修正した企業は24.4%。上方修正の16.5%を上回った。純利益はかろうじて増益予想を維持しているが、売上高予想は4.4%減、「本業の稼ぎ」を示す営業利益は今期7.8%減の予想だ。
ニッセイ基礎研究所・チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏は「業績面から見ると日本株に割安さはない」と指摘。「PER16倍台に向けて、一気に買い上がることにはならないだろう」とし、米大統領選でクリントン氏が勝利したとしても、上値余地は限られるとの見方を示している。
<株価はコスト削減などを評価>
こうした先行きの不安感を反映し、市場は業績動向に神経質になっている。
村田製作所(6981.T)やホンダ(7267.T)、パナソニック(6752.T)など外需関連で、株価が軟調な銘柄が目立つ。年度当初からの円高進行は止まっているが「過去に構造改革を進めた電機大手も業績は為替頼みの印象が残っており、トップラインの伸びが見込みにくい。
自動車関連は米国市場の勢いに陰りがみられ、円安に頼らなければ稼げない企業であれば買いにくい」(国内投信)という。一方、日立製作所(6501.T)は決算発表日の10月28日終値比で8日まで3.2%高。同期間の日経平均(1.6%安)に対し、オーバーパフォームしている。同社は17年3月期下期の為替想定レートを1ドル100円と、7月末時点の110円から円高方向に修正しながら、通期業績予想は据え置いた。
上期の営業利益は円高の影響を受けつつ、社内計画を300億円ほど上振れて着地。原価低減や固定費削減が利益の押し上げ要因となった。
藍沢証券・投資顧問室ファンドマネージャー・三井郁男氏は「来期以降、売上高が伸びなくても、コスト削減などを通じ着実な利益を上げられる銘柄に対して、資金が集まりやすい」と話す。合理化やコストダウン、構造改革などが投資家の好むキーワードとなりつつある。
<中国関連株もまちまち>
中国関連株の反応も、来期業績に対する投資家の慎重な見方を表している。
中国関連企業の業績は悪くない。建機大手ではコマツ(6301.T)、日立建機(6305.T)が中国での建機需要の急回復が追い風となり、円高環境下でも業績予想を据え置いた。にもかかかわらず、株価の反応はまちまち。今期の営業利益予想を小幅に上方修正したファナック(6954.T)の株価は、発表翌日に一時5%の急落となった。
下期以降の不透明感は強く、中国関連株に対しても「業績に底打ちの兆しがみえたとしても、実際に伸び続けていけるのかまだ見えない」(アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパン取締役の寺尾和之氏)という。
ニューヨークライフ・インベストメント・マネジメントのCIO(最高投資責任者)、ジェイ・ユーン氏は、日本株について「主にバリュエーションの面からアンダーウェートにしている。2、3年前には、為替、安倍首相の三本の矢、そして割安なバリュエーションを考慮してオーバーウェートにしていた。しかし、ドル/円JPY=EBSが125円に達し、円安は十分達成されたと見て、売却した」と話す。
トヨタ自動車(7203.T)は8日、通期の連結営業利益予想を1兆6000億円から1兆7000億円(前年比40.4%減)に上方修正した。通期の想定為替レートを1ドル102円から103円に見直したためだが、今期の世界販売計画は1010万台と5万台引き下げており、先行きがバラ色というわけではない。米大統領選を無事に通過すれば、日本企業の堅調な業績にスポットが当たり、バリュエーションの安さから株高基調に入る──。決算シーズン前にはそうした株高シナリオを描く声も多かった。しかし、肝心の企業業績に不安が強まる中で、楽観ムードは広がりにくくなっている。
以上、ロイター記事
為替レートを当てにした予想を立てていた企業が多く、アメリカ大統領選後の株高期待は薄らいでいるようです。