日本の世論は、外国人労働者の受け入れに消極的といわれる。日本は外国人労働者を受けれていない国だと思っている人も多いが、それは幻想である。現実には、多数の外国人労働者がすでに国内で働いている。
厚生労働省が1月に発表した2016年末の外国人労働者数は前年同月比19.4%増の108万3769人となり、4年連続で過去最高を記録した。
受け入れに積極的だったドイツや英国では、定義にもよるが300万人以上の外国人労働者が働いている(国籍を取得した移民は含まない)。人口比を考えれば、日本における外国人労働者の数は少ないともいえるが、欧州は陸続きで、主要国はたくさんの旧植民地を抱えている。こうした環境の違いを考えた場合、日本における外国人労働者の数は決して少ないとはいえない。
背景にあるのは、国内の深刻な人手不足である。日本は人口減少と高齢化が進んでおり、過去15年間で34歳以下の若年層人口は約22%減少し、60歳以上の人口は逆に43%も増加した。若年層の労働人口減少が顕著であることから、企業は常に人員確保に頭を悩ませている。
政府は建前上、就労目的での在留資格については専門的な職種に限っているが、現実には企業からの要請を受け「外国人技能実習制度」など、事実上の単純労働者受け入れ政策を行ってきた。この状況に拍車をかけているのが東京オリンピックによる建設特需である。建設業に従事する労働者の数はピーク時と比較すると約25%、数にして170万人ほど減っており、建設現場では慢性的な人手不足が続いている。政府は外国人建設労働者の受け入れ枠をさらに拡大したい意向だ。
建前上、外国人労働者を制限していながら、なし崩し的に受け入れを増やしているわけだが、こうした、ちぐはぐな対応はリスクが大きい。
外国人技能実習制度については、米国務省から人権侵害の疑いがあると指摘されており、現実に、賃金の未払いや、劣悪な環境での住み込み強要といった事例が発生している。諸外国でも外国人労働者が不当に安い賃金で雇用されるケースは少なくないが、この制度がやっかいなのは、れっきとした日本政府の事業であるという点だ。
政府がこうした事業に直接関与し、劣悪な労働環境を放置しているということになると、場合によっては国際政治の駆け引きにおいて格好の餌食となる可能性がある。日本はこれまで、似たようなケースで国益を何度も損なっていることを忘れてはならないだろう。
一方、日本の人手不足は極めて深刻な状況であり、のんびり構えている余裕はない。
国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、2040年の総人口は1億728万人と現在より15%ほど減少する見込みである。
特に、企業の労働力の中核となっている35歳から59歳までの人口は26%も減少してしまう。これまでは若年労働者の不足だけで済んでいたが、次の20年間は中核労働力の減少という大きな問題に直面することになる。
持続的な経済成長を実現するためには、資本投入、労働投入、イノベーションのいずれかを増やす必要があるが、人口が減少する以上、労働投入の低下は避けて通れない。需要が変わらない状態で、労働力不足から供給に制限がかかるようになると、企業は生産を抑制せざるを得なくなる。すでに供給制限による成長抑制の兆しが出ており、事態はかなり深刻である。
この状況を改善するためには、①外国人労働者を受け入れるか、②女性や高齢者の就業を増やして労働力不足を補うか、あるいは、③イノベーションを活用して生産性を向上させるのか、という選択になる。日本は無意識的に①を選択してきたわけだが、労働をめぐる環境はこのところ大きく変化している。
近年、AI(人工知能)に関する技術が驚異的に進歩しており、人の仕事の一部あるいは全部をAIで置き換えることはそれほど難しいことではなくなってきた。経済産業省の試算によると、AIの普及によって2030年までに約735万人分の仕事がロボットなどに置き換わる可能性があるという。
ロボットの導入で余剰となった人材を、人手が足りない分野にシフトさせることができれば、供給制限で経済が停滞するという事態を回避できる。というよりも、全世界的にAIの普及が進む以上、これを積極的に活用していかなければ、相対的に高い成長を目指すことが難しくなっているのだ。日本も労働力不足という問題に対して、外国人労働者の受け入れではなく、積極的なAI化で対応するのが望ましいだろう。
だが社会のAI化を実現するためには超えなければならない大きな壁がある。それは人材の流動化である。
企業の現場にAIが普及すると、当然のことながら仕事の範囲が変わり、組織の人材を再配置する必要が出てくる。こうした動きは社内だけでは完結しないので、最終的には転職市場を通じた人材の流動化が必須となる。日本人はこうした人材の流動化に対する抵抗感が極めて大きく、これがAI化の進展を遅らせてしまう可能性があるのだ。
実はこの問題は女性の就労拡大とも密接に関係している。女性の就労拡大が進まないのは、意識面での影響が大きいとされているが、それだけが原因ではない。女性の就労者が増加すれば、企業内部での人材の再配置は避けられず、結果的に流動化を促進してしまう。これに対する潜在的な拒否感が女性の就労拡大を遅らせている面があることは否定できない。
労働力不足は、日本の国力低下に直結する、まさに「国益」に関するテーマといえる。こうした重要な問題に対して、場当たり的な対応を続けることはもはや許容されないだろう。変化を頑なに拒んだ結果、AI化や女性の就労が進まず、外国人労働者の数だけが増えるという事態になってはまさに本末転倒である。
以上、加谷珪一(経済評論家)
>ロボットの導入で余剰となった人材を、人手が足りない分野にシフトさせることができれば、供給制限で経済が停滞するという事態を回避できる。
日本政府は、経団連にAI導入に大規模投資してくれと言ってほしいものだ。
中国は、ひそかに笑っているようですよ。
移民によって日本が壊されることを中国は分かっている。