はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

赤壁に龍は踊る 一章 その18 兄弟の再会

2024年04月19日 09時55分44秒 | 赤壁に龍は踊る 一章



「亮よ、久しいな、元気そうで何よりだ」
と、諸葛瑾は面長の顔をほころばせた。
面長で背のひょろりとした、実直そうな男。
それが、諸葛瑾《しょかつきん》、あざなを子瑜《しゆ》であった。
趙雲が見るかぎり、この兄弟は風貌があまり似ていない。
背の高いところと、人品のよさそうなところは似ているが。


「来てくださるとは思っておりませんでした」
「何を言うか、おまえがわざわざこの地にやって来たのだ。兄たるわたしが会わずにいられようか」
「うれしゅうございます、今日はゆっくり語り合おうではありませぬか」
孔明の屈託のない笑顔を見て、諸葛瑾の連れてきたお供の二人のほうが感激して、
「よろしゅうございました、よろしゅうございました」
と、なぜかおいおいと泣いている。
お供の名は宋章《そうしょう》と羅仙《らせん》といって、丸くて大きいのが宋章で、のっぽで線が細いのが羅仙だという。
かれらのことばからするに、諸葛瑾はそうとうに孔明の身を案じていたようだ。


「じつは明日、柴桑《さいそう》を発《た》たねばならぬ」
「お忙しいでしょうに、ありがとうございます」
「なにを他人行儀な。われらは兄弟であろう、わたしが弟のおまえに会いに来るのは当然。
今日一日くらい、昔にもどろうではないか」
「兄上は、盧江《ろこう》太守に任じられたと伺っておりますが」
「そのとおりだ。曹操のやつめ、さすがに戦上手だな、北から我らの首都を狙っておる。
明日は董襲《とうしゅう》どのと合流して、盧江に行く。
ところで曹操の本隊は、江陵を出立して烏林《うりん》に向かっているのであろう?」
「そのようですな。わたしは周都督と同道して長江を上る予定でおります。
おそらく、江東へ上陸せんとする曹操と、陸口あたりで開戦になるかと」
「なるほど、そうなると、やはりわれらが会うのはこの日以外になかったというわけだ。
何年振りであろうか、今宵はゆっくり語り合おうぞ。
おまえの好きそうな味の酒も持ってきたからな」
そう言う諸葛瑾のうしろでは、宋章と羅仙が、まだめそめそと、
「兄弟っていいものだなあ」
「本当に、お会いできてようございました」
と泣いていた。


「貴殿が趙子龍どのか。お噂はかねがね」
諸葛瑾に声をかけられて、趙雲は丁寧に礼を取る。
取りつつも、どういう噂かなと、ついつい警戒してしまった。
固くなった趙雲を見て、諸葛瑾はおもしろそうに言う。
「子敬どの(魯粛)が貴殿をべた褒めしておりましたぞ。
曹操軍の大軍勢のただなかを、劉豫洲の夫人とお子を守り通して、単騎で駆け抜けたすごい御仁だと」
「いや、それは」
まちがってはいないが、いくらか誇張があるような?
「思っていたよりずっと立派な風貌を備えてらっしゃる。
亮も貴殿のことを手紙で何度も褒めておりました。
なるほど、たしかに亮の友にふさわしい」
諸葛瑾は、うんうんとうなずいた。
ありがとうございますと照れつつも、この兄弟、見た目こそ似ていないが、中身はどこか共通するものがあるなと思っていた。
しかも、諸葛瑾は自分より十は年長のように見えるのだが、じっさいは自分とほぼ同年であることにも驚いていた。
よほど苦労をしょい込んできたのか、それとも一族の長としての責任感ゆえか、諸葛瑾は老成して見えた。
「これからも亮をよろしくお願いいたします」
そう言う諸葛瑾の目は、いつくしみにあふれていた。


そのあと、胡済《こさい》とも挨拶をかわした諸葛瑾は、これまた胡済のずば抜けた美貌をほめちぎり、褒められ慣れているだろう胡済をして、
「さすがご兄弟。相手をたじろがせる術をこころえていらっしゃる」
とつぶやかせたほどだった。
孔明は兄と会えてうれしいらしく、珍しいほどに溶けるような笑顔を浮かべ続けていた。


「兄に会うのは五年ぶりくらいかな」
と、孔明はこそっと趙雲に言った。
「揚州《ここ》に戻ったことがあったのか」
「いや、兄が荊州に会いに来てくれたのだよ。
孫将軍に仕えることになって数年たって、生活も安定してきたというその報告と、大姉の墓参りにね」
「そうか……なら、話も弾むだろう。
おれたちは外しているから、なにかあったら呼べよ」
そうする、と孔明は素直にうなずいて、兄とともに部屋に入った。
その二人の背中を見て、趙雲は、ああ、兄弟だな、後ろ姿が似ているな、と思った。


「あの兄君は、武器は持っていないようですね」
と、一気に興ざめするようなことを胡済が言う。
「あたりまえだろう。実の弟を殺しに来る兄がいるものか」
「いますよ、世の中広いんですから」
さらりと怖いことを言ってのけてる胡済に、趙雲は、そうだった、こいつはそんな身の上だったなと思い出した。
「すまん」
「謝る必要はありません。軍師のことはだいじょうぶでしょう。
なにかあったら、すぐに駆け付ければいい」


お供の宋章と羅仙が、客館の主人に案内されて、控えの部屋に連れていかれるのが見えた。
「あいつらからちょっと情報を引き出してみようか」
趙雲のことばに、胡済が、意外そうな顔をする。
「へえ、あなたもそんなことをするのですね」
「いつもしていることだ。おれはただの番犬じゃない、主騎だからな。情報収集もするのさ」
「では、わたしもお供しましょう。酒と肴を用意してまいります」
言いつつ、胡済は厨房のほうへと向かった。


つづく


※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます!(^^)!
ブログ村に投票してくださった方、サイトのウェブ拍手を17日15時ごろ押してくださった方も、とってもうれしいです、ありがとうございましたー(*^▽^*)
長い周瑜の回想シーンも終わり、孔明と子瑜兄さんの再会シーンに突入です。
旧作をご存じの方は、だいぶ子瑜兄さんの描き方がちがうな? と思われたことでしょう。
管理人もいくらか年を重ねて、いろいろ考えを変えましてねえ……
子瑜兄さんの従者なども、これっきりの登場ではありませんので、どうぞ今後の展開をおたのしみにー♪

ではでは、また次回にお会いしましょう('ω')ノ


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。