趙雲の背中がどんどん近づいてくる。
あとすこし。
地面に転がる砂利のせいで、なかなか足を踏ん張って進めない。
さらには、劉琮自身、二階から落ちた怪我で、思うようにからだ動かせないでいた。
趙雲は、まだ気づいていない。
その切っ先が、無防備な背中を突き刺そうとした、まさにそのときであった。
がちゃん、と耳元で大きな金属音がしたと思ったと同時に、喉元を中心に、はげしく後ろに引っ張られた。
喉ぼとけがつぶされて、すぐに息が苦しくなる。
劉琮は思わず空いた手喉元にあてていた。
金属のひもが、自分の首にまとわりついている。
なんだ、これは!
声に出そうとしたが、声が出せない。
驚愕とともに、おのれを牛のように引っ張りつづける何者かのいるほうを見る。
知らない禿頭の男が、鉄鎖で自分の首をぐいぐい締め上げている。
目が合ったとき、劉琮はぞくっと身をふるわせた。
その男の、あまりの憎悪の色の激しさに。
趙雲と孔明たちが、背後の異変に気付き、さわぎはじめた。
とはいえ、劉琮にとっては歓迎するべきことではない。
なんとかもがいて、鉄鎖からにげようとするが、禿頭の男の力はすさまじかった。
やがて、劉琮はけだもののように引き立てられ、地面に、どう、と転がされた。
手にしていた剣も持っていられない。
息苦しさと、呼吸ができなくなるのではという恐怖のほうがまさった。
鉄鎖の頑丈さと、男の力の強さで、倒れたはずみに首の骨を折る危険もあった。
だが、まだ劉琮は生きている。
あおむけに砂利の上に倒れた劉琮に、禿頭の男がのしかかって来た。
その手には、さきほど劉琮が捨てた剣が握られている。
殺されるのだ。
冗談ではない。
声を出して、『壺中』に助けを求めようとしたが、不幸にも、視界には趙雲ら劉備の兵がいるばかり。
首にあてていた両手で、男が自分に突き刺してくる刃を防ごうとあがく。
切っ先で、指が、手のひらが、切り裂かれ、血で汚れたが、気にしてはいられない。
なおも抵抗をつづけながら、劉琮は必死にわめいた。
「だれだ、貴様はっ! だれなのだ!」
劉琮にまたがり、その首を落とそうと狙ってきている男は、ぞっとするほど冷静な声色で言った。
「知る必要はない。おまえが殺してきた女たちも、おまえの名など知らなかった」
男は暴れる劉琮の両肩を、ひざで巧みに抑え込む。
戦い慣れている男だ。
助からない。
死ぬ?
伯姫に見いだされ、未来の皇帝になれるとまでいわれた、このわたしが?
「女たちは、おまえに助命をしたか?
家族があるから助けてくれといわなかったか?
なんでもするから命だけはと言わなかったか?
おまえはそれを無視して、畜生のように殺してしまったのだ。
女たちを…おれの妻を!」
劉琮には男のことばがわからなかった。
「貴様はここで、名も知らぬ男に討ち取られるのさ」
「お、おのれッ! そんなことが」
許されてたまるか!
そう言おうとしたが、叶わなかった。
男の刃が降って来た。
目の前が深紅に染まり、そして劉琮の意識は途絶えた。
つづく
あとすこし。
地面に転がる砂利のせいで、なかなか足を踏ん張って進めない。
さらには、劉琮自身、二階から落ちた怪我で、思うようにからだ動かせないでいた。
趙雲は、まだ気づいていない。
その切っ先が、無防備な背中を突き刺そうとした、まさにそのときであった。
がちゃん、と耳元で大きな金属音がしたと思ったと同時に、喉元を中心に、はげしく後ろに引っ張られた。
喉ぼとけがつぶされて、すぐに息が苦しくなる。
劉琮は思わず空いた手喉元にあてていた。
金属のひもが、自分の首にまとわりついている。
なんだ、これは!
声に出そうとしたが、声が出せない。
驚愕とともに、おのれを牛のように引っ張りつづける何者かのいるほうを見る。
知らない禿頭の男が、鉄鎖で自分の首をぐいぐい締め上げている。
目が合ったとき、劉琮はぞくっと身をふるわせた。
その男の、あまりの憎悪の色の激しさに。
趙雲と孔明たちが、背後の異変に気付き、さわぎはじめた。
とはいえ、劉琮にとっては歓迎するべきことではない。
なんとかもがいて、鉄鎖からにげようとするが、禿頭の男の力はすさまじかった。
やがて、劉琮はけだもののように引き立てられ、地面に、どう、と転がされた。
手にしていた剣も持っていられない。
息苦しさと、呼吸ができなくなるのではという恐怖のほうがまさった。
鉄鎖の頑丈さと、男の力の強さで、倒れたはずみに首の骨を折る危険もあった。
だが、まだ劉琮は生きている。
あおむけに砂利の上に倒れた劉琮に、禿頭の男がのしかかって来た。
その手には、さきほど劉琮が捨てた剣が握られている。
殺されるのだ。
冗談ではない。
声を出して、『壺中』に助けを求めようとしたが、不幸にも、視界には趙雲ら劉備の兵がいるばかり。
首にあてていた両手で、男が自分に突き刺してくる刃を防ごうとあがく。
切っ先で、指が、手のひらが、切り裂かれ、血で汚れたが、気にしてはいられない。
なおも抵抗をつづけながら、劉琮は必死にわめいた。
「だれだ、貴様はっ! だれなのだ!」
劉琮にまたがり、その首を落とそうと狙ってきている男は、ぞっとするほど冷静な声色で言った。
「知る必要はない。おまえが殺してきた女たちも、おまえの名など知らなかった」
男は暴れる劉琮の両肩を、ひざで巧みに抑え込む。
戦い慣れている男だ。
助からない。
死ぬ?
伯姫に見いだされ、未来の皇帝になれるとまでいわれた、このわたしが?
「女たちは、おまえに助命をしたか?
家族があるから助けてくれといわなかったか?
なんでもするから命だけはと言わなかったか?
おまえはそれを無視して、畜生のように殺してしまったのだ。
女たちを…おれの妻を!」
劉琮には男のことばがわからなかった。
「貴様はここで、名も知らぬ男に討ち取られるのさ」
「お、おのれッ! そんなことが」
許されてたまるか!
そう言おうとしたが、叶わなかった。
男の刃が降って来た。
目の前が深紅に染まり、そして劉琮の意識は途絶えた。
つづく
※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます!
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださっているみなさまも、感謝です!(^^)!
臥龍的陣も270話まで連載をつづけることができました。
あとちょっとでラストです。
どうぞ最後までお付き合いくださいませ!
ではでは、みなさま、よい一日をお過ごしください('ω')ノ