はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

臥龍的陣 太陽の章 105 再会…しかし

2023年04月07日 09時53分34秒 | 臥龍的陣 太陽の章
子供たちはというと、陳到をはじめとする子供好きの部将たちにそれぞれ抱えられ、安全な村の中に運ばれていった。
村の外にいた壷中も同様で、たいがいは武器を捨て、大人しく降伏した。
おそらく襄陽城のことがあり、すでに戦意は喪失していたのだろう。
それでも往生際がわるく、山へ入って逃げようとする者もいたが、結局は捕まって引き据えられ、これには見せしめとして、のちに鞭打ちの刑罰が処せられた。


「ずいぶん殴られたのであろうな。顔色が変わってしまっている。
それに、ちゃんと目は見えているのか。腫れあがっているぞ。
どこか、おかしなところはないか。耳は両方とも、ちゃんと聞こえているのだろうな。
歩けるか? 手は動くか? 
本当は、もう立てないくらいなのに、むりして立っているのではないだろうな。
いますぐ寝台を用意させる。もちろん、清潔なものをだ。
肩を貸す。無理するな、喋るな。笑うな!」


「おい、俺はずいぶん死人のような顔をしているらしいな。
見るやつ全部の顔がひきつる」
「鏡があったら、みせてやりたいほどだよ。
いつもの倍は腫れているのじゃないのか。せっかくのいい男がすっかり台無しではないか。
潘季鵬め、きっとあなたの顔にも嫉妬していたにちがいないよ。
よい湿布をもらってこよう。
疲れているか? わたしは喋りすぎだろうか」


華奢な腕をまわし、手を貸すといいはる孔明に、趙雲は好きなようにさせておいた。
孔明はひたすらよく喋り、矢継ぎ早に質問をしてくるのであるが、どうやら答えは期待していないらしい。
となりに孔明がいる、という事実が、いまだに実感が沸かず、思わず趙雲は声をたてて笑ってしまう。
気が抜けたというのではない。
たとえ大地が引っくり返ったとしても、このおれが主騎である限り、こいつが死ぬなんてことは有り得ない。
おれはなにをいままであくせくしていたのだろうという、己を笑う声であった。


「ほんとうに、大丈夫か、子龍?」
おそるおそる尋ねる孔明の面貌は、矢で受けたらしい、ちいさな切り傷が頬にあるだけである。
こいつの運のよさは、わが君に勝るな、と趙雲は感心してしまう。


孔明は言う。
「話したいことが山ほどあったのに、なにから伝えればよいのかわからぬ」
「それを言うならば、俺もだ」
すると、不意に孔明は、趙雲の真正面に立つと、その両腕を差し伸べて、ぎゅっと力強く、しかし優しく趙雲を抱きしめてきた。
普通ならば、男のくせに気持ちが悪いと跳ねのける趙雲であるが、孔明の、自分とはまったくちがう華奢で、どこか柔らかさすらある体の感触と、温かさを全身に感じ、胸が熱くなった。


血に汚れた手を気にしつつ、触れるか触れないかの加減で、そっと自分も孔明の背中に手を回してみる。
孔明は、趙雲の肩に顎をあずけるかたちで、さらに腕の力をつよくして、耳元で言った。
「上手くいえない。無事でよかった。
叔父のように、あなたも去って行ってしまうのではないかと、本当に恐ろしかった。よかったよ」
「そうか」
とだけ趙雲は言った。


趙雲のこれまでの人生は、あまりに淡々としすぎていた。
淡々と職務をこなし、淡々と事後の処理もする。
そのため、当たり前になんでもできるやつと思われて、いままで、だれかに、ここまで身を案じてもらったことがなかった。
だから、答え方が判らなかったのである。


孔明の肩越しに、仰向けになったまま、放置されている潘季鵬の姿があった。
俺は、この男から、なにを学んだだろうかと趙雲は思う。
俺が本当に人から教えてもらいたかったのは、こんなふうに心配されて、喜んでもらえたときに、どう答えたら、自分の心がじょうずに伝わるか、そういうことだったのだ。


おまえは人殺しが巧すぎる。
そうだ。
俺はこれから、もっと巧くなるだろう。
それは、いま目の前にいる者を守り抜くためだ。
もし、俺の本心をあんたが知っていたなら、そして理解ができたなら、今日のような日は来なかったのではないだろうか。


弔いのことばは出てこない。
ただ、なんともやるせない気持ちで、趙雲は孔明をうながし、場を去ろうとした。




つづく


※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます♪
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださっているみなさまも、感謝です!
仙台は今日は雨になりそうでして、せっかく満開のさくらも、ぼちぼち散っていきそうです。
季節は進んでいますねえ…
体調のほうは、あまりよくありませんので、今後についても、いろいろ考えなくちゃなあと考えています。
またまとまりましたら、お知らせしますね。
ではでは、またよい一日をお過ごしくださいませー('ω')ノ


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。