はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

うつろな楽園 その2

2013年08月26日 09時42分56秒 | 習作・うつろな楽園
劉備のことばに応じて趙雲がすこしほほ笑むと、劉備もまた満足してほほ笑んで、さきをつづけた。
「で、その張伸なのだが、会ってみると、たしかに、態度も堂々として、儂を前にしてもまったく臆するところがなかった。弁舌にしてもたいしたものであったぞ。まあ、つぎからつぎへとよくしゃべる。それがまったく淀みがない。
ただ、問題は内容だ。張伸は、戦の悲惨さ、残酷さを儂に説きにきたのだよ。戦は民を苦しめるものでたいへんよろしくない、いま北で袁紹の残党を追いかけている曹操は、いずれは中原を平らげて南の荊州へやってくるだろう。そうなれば、とうぜん、以前に曹操を暗殺しようとしたことさえあるあなたは、曹操と対決することになるだろう、そのあおりを食らう民の憐れなことをかんがえたことがおありか、とまあ、そんなことを言うわけだ」

劉備も喜怒哀楽をめったに出さないが、趙雲はもっと出さない。
その趙雲が、又聞きの張伸のことばにカッと腹を立てて、一歩、身を乗り出すと、劉備はそれをなだめるように、まあまあ、と言いながら手振りで抑えた。

「儂もちょっとムッときたが、しかし、張伸のやつ、おそろしく真剣なのだよ。そのことばと態度のはしはしから、民のことをやつが心の底から心配していることがわかった。曹操に私淑しているとか、その手先とか、そういうふうではないのだ。むしろ、まるで自分の赤ん坊を必死で守ろうとしている母親のような感じであったよ。そうなると、儂も、はあ、左様ですか、としか言えなくなるというわけだ。人払いしておいてよかったよ。あの場に関羽だの張飛だのがいたら、張伸をひっとらえて、叩きのめしていたかもしれないからなあ。
まあ、それはともかくとして、張伸は、民を守るためには、あなたが曹操に降伏するか、すみやかに劉州牧(劉表)のもとから去って、いずこへか身を寄せるかなさるのがよろしい。劉州牧は老齢で、曹操が襲ってきた場合、おそらく戦う意志はなかろうから、降伏するだろう。曹操としても、戦う相手であるあなたもその場にいなければ、無益な衝突は起こらず、荊州の民は救われる、さあ、いますぐ荷物をまとめて新天地へ出て行かれなさい、とこうだ。
あ、もちろん、遠まわしに、それは信義にもとる、曹操から荊州を守ると約束した劉州牧を裏切ることになるからできない、と答えたさ。すると、やつはまた同じ話を最初からするんだよなあ。儂がまったく話を理解できない莫迦だとおもったのかしらん。でもやつは真剣だし、なんというか、どこか無碍にあつかうのが可哀想なかんじもするのだよな。
同じことを説かれたので、儂もおなじことを答えた。それを三回くらいくりかえしたかねえ、ようやく張伸のほうも、埒が明かないことに気づいたらしくて、どうしてもご理解いただけないようでしたら、わたしはわたしなりに荊州の民を守るため、方策を立てることにいたします、しかし仁者と呼ばれる劉備どのに期待をかけすぎたわたしが愚かでございました。劉備どのならば、悲惨な戦はしてはならないということをお分かりいただけるかとおもいましたのに、と泣く。そう、泣くんだよ、ほんとうに心の底からめそめそと。儂としても、期待通りではなくてすみません、しかいえなくなるではないか、そうなると」

つづく…


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