はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 一章 その16 敵対の予感

2024年04月15日 06時35分54秒 | 赤壁に龍は踊る 一章



周瑜が柴桑《さいそう》城へ到着すると、魯粛が待ち受けていた。
かれの満面の笑みを見て、周瑜は互いにことばを交わさぬうちから、
『開戦か』
と判断した。
どうやら、夏口からやってきた劉備の軍師は、なかなかの口達者らしい。
「決まったのか」
確認のため、端的にたずねると、魯粛は大きくうなずいた。
「決まりました。いま、孫将軍が開戦を宣言なさるところです」
「そうか、わたしは間に合ったのだな」
「間に合うも何も……もちろん、公瑾どのを待っての宣言となりましょう。
貴殿がいらっしゃらなければ、わが軍は回りませぬ」
魯粛のほうをちらりと見れば、かれがお追従《ついしょう》ではなく、本気で言っているのが見て取れた。
顔が笑っていない。
「ところで、劉豫洲の軍師という人物は、どうだ」
「孔明どのですかい、噂にたがわぬ傑物ですよ」
「どのように」
「弁舌はさわやか、人の気を逸らさぬ求心力も発揮し、だれもが魅了される、といったところでしょうか」
「そなたも魅了されたひとりのようだな」
嫌みのようになってしまったが、魯粛は気にしていないようで、
「たしかにそうです」
と相槌を打った。
「子瑜どのに似ているのか」
「いえ。まったくといっていいほど似ておられませぬよ。
ほら、あそこ、孫将軍のそばで話をしているのが孔明どのです」


魯粛に言われて大広間の上座を見れば、孫権と親し気に話をしている背のほっそりとした青年の姿があった。
周瑜は江東の家臣たちの名と顔をすべておぼえているので、あの見知らぬ横顔こそが諸葛亮だろうと見当をつけた。
横顔の端正さだけ見れば、なるほど大役を担う使者にふさわしい容姿をしているようだ。
『諸葛亮……孔明、か』
心の中でつぶやきつつ、大広間に入る直前に足を止めて、かれを観察する。
孫権はすっかり打ち解けていて、孔明と何事か楽しそうに話をしていた。
どうやらしゃべっているのは孔明が中心で、孫権と、張昭をはじめとする降伏派までもが孔明の話に耳を傾けている。
とぎれとぎれに聞こえてくる単語から察するに、孔明ら劉備軍が、いかに曹操軍をしのいだかの話題になっているようだ。


『まるで曹操に勝利したような顔をして話をするものだ』
なにかカチンときて、そう思っていると、孔明のうしろに控えている男と目が合った。
これも知らない顔である。
男は自分と同じ年頃くらい……三十路半ばか。
ゆったりとした衣をまとっていてもなお、しなやかそうな体つきがわかる、眉目秀麗な男だった。
男のほうは、じいっと周瑜を探るように見てから、ようやく、ぺこりと一礼してきた。


「あれは孔明どのの主騎で、常山真定の趙子龍どのです」
と、魯粛が口をそえる。
そう紹介されても、周瑜にはピンとこなかった。
かれは鄱陽湖《はようこ》に長く滞在していたので、孫権あての魯粛の手紙の内容を知らなかったし、その内容が柴桑の家臣たちにも伝わっていることも知らなかった。


「おお、公瑾どのがいらしたぞっ」
声を張り上げたのは、甘寧だった。
どうやら、趙雲の仕草で周瑜に気づいたらしい。
孔明が中心となっていた人の輪がほぐれ、周瑜に注目が集まった。
孫権も中腰になって、周瑜の名を呼ぶ。
「待ちかねていたぞ、公瑾どの!」
「遅くなりまして申し訳ございませぬ」
「もう子敬から聞いておろう、わしは開戦を決めたぞ」
そう言う孫権の目は興奮でぎらぎらと輝いていて、悩みもなにも吹っ切れたようだった。


ずいぶん明るいな、というのが周瑜の印象だった。
曹操の百万の軍勢を前にしても、こうも明るくいられるのは、劉備の軍師の持ってきた情報が、こちらにとってよほどよいものだったのだろう。
開戦、と聞くと、孫権のそばにいた張昭たちが渋い顔をしたが、孫権はまったくそれにはかまわず、近侍がたずさえていた剣を持ち、すらりと鞘から抜き放つと、目の前の机を、がつん、と斬り落とした。
おお、と家臣たちから声があがる。
「よいか、開戦の議に異論を唱えるものがあれば、今後、この机と同じ運命をたどるものと心得よ!」
若々しい張りのある孫権の声に、家臣たちは平伏して、
「将軍のおっしゃりとおりにいたします」
と唱和した。


劉備の軍師と、その主騎もまた、礼を取っていたが、そのうち軍師の孔明のほうが、周瑜の目線にこたえるかたちで振り返った。
まともに正面から見る孔明の顔は美しく、その双眸も、びっくりするほど煌めいていた。
その深い知性と、思慮深そうな落ち着いた雰囲気をたたえた青年軍師を前に、周瑜はぞくりと背筋を震わせた。
孔明は周瑜にむかって、微笑み、礼を取る。
周瑜も表面上はにこやかにして、礼に答えたが、こころは真逆だった。
孫策とはじめて出会ったときと同じ衝撃を受けたことが、まずおどろきだった。
周瑜は思った。


こいつは危険だ。
わたしの人生を変えうる男かもしれない。


つづく

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今回より、孔明たちの出番が復活! 
どうぞ今後の展開をおたのしみにー(*^▽^*)


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