はなな

二度目の冬眠から覚めました。投稿も復活します。
日本画、水墨画、本、散歩、旅行など自分用の乱文備忘録です。

●永青文庫「長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」上間二之間・下間二之間

2017-12-10 | Art

南禅寺天授庵の長谷川等伯の障壁画。

前回の室中の続きです。

後期では、上間二之間の「商山四晧図」、下間二之間「松鶴図」。

前期から見てくると、等伯は、3つの部屋をそれぞれ違う筆致で描きわけているのが、一目でわかる。室中では、気迫そのものを見せるような激しい筆致。それに対して、上之間、下之間は穏やか。画題も、室中とうってかわって、ほのぼのとしている。

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上間二之間の「商山四皓図」

始皇帝下の混乱を避け、山里に隠れ住む4人の高士。髪や眉が白いので、四晧と呼ばれた。

4人の高士がロバに乗って右のほうへ進んでいる。ロバってだけでものどかなのに、ゆったりした配置でますますのんびりさせてくれる。

左端にいる童子のかわいらしさ。人間らしさ。なにか高士に声をかけたのかな。孫たちか、亡くなった久蔵やほかの子供たちの幼少期を思って描いたような、等伯の愛あるまなざし。

等伯が描く童子は、七尾で「水辺童子図襖」(京都・両足院)を見てから、心打たれるものがある。

(部分)

 

脱線しましたが、「商山四皓図」の木の太い幹は、薄墨で描かれているけれど、枝の先端は太く勢いがある。強弱の加減のリズムが素敵だなあと思う。

川の流れはゆるやかで、岩は、薄く幽玄な感じ。一本の若木だけが強いタッチである部分は、昔日を今のことのように思い出したときの感じがよぎる。

 

人物は、室中とちがい、一定の太さで、しっかりとした安定感で描き続けている。筆致に走らず、誇示せず。ひく美学というか。室中とは全く違う心地に自分を整えてから、筆をもったのでしょう。

枝の流れと高士の目線はゆるやかにつながって、8面の襖全体に流れるやわらかな波線の波長。部屋に置いたら愛でる喜びをもたらしてくれそうな絵だった。

(でも一人の高士の顔がどうしてもロバに見えて(↓右側の高士)、楽しいおじいさんなのか?それともまた禅問答か?と悩んだのは私だけ?)

下間二之間の「松鶴図」 また違う筆致。優しく、心に染み入るような。

鶴が5羽。5羽目がなかなか見つからず、意地になって探し出した。二羽のひなは黄色く着色されている。別の二羽はしゃがんでいる。あまりに薄くて目を凝らしても見えにくいので、等伯の意図なのかな、照明のせいなのかなと、スタッフの方に聞いてみた。天授庵ではこの面が陽があたる方向にあったために、色落ちしてしまったのだそう。

ヒナがかわいい!とっても見えにくいけど。 休んでいるつがいの二羽は、少ない線なのに、リアルな描写。信頼感とやすらぎがあふれる二羽のやり取り。

岩と松は、鶴を守るように配置されて、安住の空間を作っていた。

解説では、以前の牧谿風の鶴から、等伯独自の鶴になってきているとあった。年を重ねるにつれて、等伯の鶴は独自に成長し、感情を吹き込まれている。家族や親の愛情であったり、小さいものの成長の歓びであったり。それは牧谿の鶴にはなかったかもしれない。

 

左側の面は、水の流れがゆるやかに。そのタッチのやわらかなこと。

ここはほんとうにやさしい襖絵だった。

後期でも前期と同じく、少し離れて全体を眺めてみたら、この三面でなす展示室がなんともいえない安らぎの空間になっていた。室中が要緊張空間だったので、退出して二之間に入ったらどんなにほっとするでしょう。

 

等伯はこんなにも三面を違えて、三室三様にプロデュースしている。禅の厳しさ、脱俗の境地、やすらぎと愛情。筆致も使い分け、ある時は激しく自分の筆致と対決するような筆致で、ある時は安定し、ある時はそっと触れるような優しさで。襖絵がその部屋を作り上げている。

62歳の等伯。前期後期通して、素晴らしい体験をさせていただきました。

 

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これらの障壁画のガラスケースの下に、びっしりと長持ちが収納されているのにびっくり。ひとつだけ出して展示されている長持ちは、鍋島家から細川家に輿入れしてきた時の杏葉紋のついたもの。ひとつでもすごいのに、こんなにたくさんあるとは。置くところがないからここがぴったり、みたいなさりげなさ。永青文庫のこの余裕。

 

帰り際は、やっぱり能面にかぶりつき。

この日は「敦盛」に引き込まれる。若くして討ち取られた平敦盛。10代の年端も行かない、未成熟な顔に哀れになる。


●「バリアフリーアート展」流山おおたかの森センター

2017-12-10 | Art

千葉県の流山市で「バリアフリーアート展」を見てきました。

2017年12月2日(土)~12月10日(日) 10:00~17:00

流山市おおたかの森センター、子ども図書館:流山市市野谷621

こちらから)

秋葉原駅からつくばエクスプレスに乗って、30分弱。小さな展覧会で今日までですが、素晴らしかったので急いで日記に書きます。(写真可)

10代から30代の、自閉症の方の絵。

最近こんなに感動する絵があっただろうかというくらい心動かされた展示。ちょっとうるっときてしまいましたよ。

この秋は行きたい展覧会が目白押しで、日記もかけないまま次の展覧会へと詰め込みすぎて、飽和状態だったのです。そういう時はせっかくの絵もだんだん目が泳いでしまい・・。

そんな私でも、この日見た絵は心にどんどん入り込んできました。どんなに見ても飽和状態になるどころか、もっと見ていたい。もちろん私など素人が好き勝手に見ているだけなので、他の展覧会と同じく、共感する絵もあれば、ピンと来ない絵もある。でも不思議と立ち去りがたい。

ストレートに伝わる。描き手の認識が。

まず、2003年生まれの方の男性の方の絵が、約10点。素晴らしかった。(未成年だしお名前載せていいものかわからないので載せておりません。協力団体のひとつのAoAさんのHPこちらに出ています。)

このピンクの海!「海辺のカヤック」 

まさにこの色!沖縄や奄美でシーカヤックをやったことありますが、暑い日中に真っ青な海に漂うと、海の色としては青なんだけれども、光やら温度やら揺らぎうやら全てが目から入って眼球を通り、脳裏に映し出されるときは、海はこんな色を認識している。

カヤックのシリーズ。どれも、ああそうだこんなだ!と思う。見ててとっても楽しい気持ちになる。なんてきれいな色彩なんだろう。こんなふうに認識を絵に色に置き換えられるって、すごい。

 

「海辺のカヤック」

 

「海辺のカヤック」

 

「雪」 雪の日の空はこんなにもきれいなのね

 

それから、菜の花のシリーズも!。

「川辺の菜の花」

 

「花火」は圧巻だった。

あの爆発力と、飛び散る色彩。そして夜空の闇も見える。じっと見ていると心震え、目にうるっときた瞬間。

 

無題の作品もすばらしくて。ポロックはこんなことをしたかったんだろう。でも違う。この方の世界はこんなに輝いている。

(拡大)

 

「無題」(拡大)

 

この方の色彩の認識の美しい広がりを、こんなにストレートに見せていただいた。

一枚一枚違う、とても豊かな世界。しかもそれを余すところなくこんなに美しく表現できて。古今からどれほどの有名画家たちがそれが思うようにできずに苦節してきたことだろう。

しかも見る私はこんなに幸せな気持ちになっている。

マサキさん(1994年生まれ)の作品が約10点。

絵の強さに驚いた。筆致のストレートさ。

確かどれにもタイトルはついていなかったように思う。

突き動かすような、うねるような強いエネルギーを、彼は絵にそのまま叩きつけ、塗りこめ。見る側もその力をそのまま身体で受け取り、やっぱり心震える。

 

以下の二点は花瓶の花と森だろうか。その周りにはやはり強いエネルギーが放出されている。花が放つものかもしれないし、光や大気かもしれない。彼と花や樹々の関係性において可視化されたのかもしれない。とにかくそれが私には特別なものに見えてくる。彼はどれほど大きなエネルギーを、遮断することなく体内に取り込める容量を持っているのだろう。

 

「飛んで行った仮面」 これはタイトルがついていた。

びゅううん!

冒頭の解説:(この解説も心に残っている)

「何を描いたの?」と聞くと、彼は沈黙する。時々、「飛ぶ仮面です」とか「夜を走るひとです」とか「宇宙です」という答えが返ってくる。

「何を描いたの?」と尋ねると、彼は眼鏡越しにじっと僕を見つめて軽く首を横に振り、「何も見ていません。無意識です」と答えた。

彼はとても哲学的だ。その絵は激しい。言葉では伝わらない想いを、絵の具の中に託して、強いタッチで画面に表していく。

彼の動き、鼓動、心の中にかれが取り込んだもの。その世界をこうしてみた時に、どれほど強い目で、彼はものごとや現象を見つめているのだろうと思う。こんなにも、さえぎるものなく感じ、それを計算や躊躇なく、画に表す。打たれるばかりだった。

二階へ。天窓から光が差し込むこども図書館。作品がコンクリ打ちっぱなしの壁を飾っていた。

ここでは一階と違って記名はなく、数名の方の絵が合わせて展示されていた。素敵な空間だったのです。

このかたはきっと車が好きなのでしょう。一台一台、車種の特徴を正確に表している。

 

この方は電車が好きなのでしょう。

お、これはつくばエクスプレス線のようだ。周辺の森も書かれている。

これはJRでしょう。

大きなボードにビニールを貼って描かれているのはなぜだろう。でもこれいい方法だなあ。バックのボードを変えたり、色のついた紙にしたちしたら、またいろんな世界が楽しめそう。

 

それにしてもこのお二人の絵を見ながらつくづく思う。

好きなものがある。好きだから絵に描く。好きなものだから絵に描いてみたくなる。

その好きなもののもつフォルムや色や線や、そのものから受け取るパワーを、自分の手でなぞってみたくなる。こんなに魅力的なんだから。

残してみたくなる。

そして楽しい気持になる。見る者も楽しい気持になる。

絵を描くことの原点に触れたような気がした。とても楽しい思いで。

 

こんな手作りオルゴールも。ゆっくり回すとなんともいい音色でした

とても幸せな気持ちになった展覧会でした。

ここの建物は、なにかの建築賞を取ったと建築雑誌で見た覚えがある。自然光のとりこみ方が素敵だった。

向かいにトトロがいましたよ。

トマト🍅を売ってるらしい。

おしゃれな住宅が並ぶエリアですが、森もあり、歩くのも楽しいです。

とてもいい所でした。