『 長い散歩 』
2006年モントリオール映画祭でグランプリを受賞した、俳優・奥田瑛二の監督第3作。虐待により心を閉ざした少女と、生きがいを失った老人のせつない交流を描く感動のドラマ。
校長を定年退職した安田は、妻をアルコール依存症で失い、娘に憎まれていた。
彼は小さなアパートに隠居し、母親とその情夫に虐待される少女に出会う。
安田はその少女を連れて旅に出るが、誘拐犯として指名手配されてしまう。
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06/12/22 【 ◎ 】
※ ◎・・・よかった ○・・・まあまあ △・・・もひとつ ☆・・・おすすめ
どうやらこれが2006年最後の観納め映画になったみたいです。
136分と長く全体的に緩い感じで流れて行き、この日は『犬神家の一族』135分、『武士の一分』121分、『ライアンを探せ』82分のあとのハシゴ4本目だったのですが、途中だれることもなく、眠くなることもなく、そんなに長いと感じることなく観ました。
緒方拳演じる安田は定年退職した元校長。
仕事一筋、家族を顧みず自分の昇進と保身のみを考えて生きてきた男・・・
父親に反発した娘は万引きで捕まり、訳を聞こうともせず「校長の娘が万引きなんかして!」と頭ごなしに怒鳴りつける。
自分の体面しか考えていない
夫と娘の間に挟まれた妻は精神不安定になりキッチンドランカーに・・・
それを直してやろうと言う思いやりもなく妻に死なれてしまう
そんな味気ない思い出しかない家に住むこともできず、娘に「人殺し!」と罵られ、逃げるように出て行き、小さなアパートで細々と暮らし始める・・・
そこで見かけたひとりの幼女
背中にダンボールで作った天使の羽をつけ、いつもひとりポツンと空を眺めてる・・・
母親は水商売をしていて情夫と同棲状態で子どもは放置、仕事に出かける時に小銭を投げて与えるだけ・・・
子どもが邪魔な時には夜中だろうと部屋から追い出し、気に入らない時は虐待行為まで・・・
様々なパターンの表現方法を知らない人たちがいた、、、。
・自分の昇進と保身しか頭にない仕事一筋の男は家族とどう接していいか分からなかった・・・
・夫の顔色を伺うことしか知らない妻は対等に向き合うと言うことができずにお酒に逃げてしまった・・・
・偏屈で頑固で石頭の父親と精神を病んだ母親を持った娘は父親を恨むことしかできなかった・・・
・母親の愛を知らずに育った娘は我が子の愛し方を知らなかった・・・
・同じく親に愛されずに育った男は子どもへの接し方を知らなかった・・・
・母親からの愛情を受けず寂しい幼女は心を閉ざし人から触れられるのを怖がった・・・
・親の職業上治安が悪い外地での生活が多かった男の子は引き篭もりになったまま外界と馴染めなくなってしまった・・・
家族とうまく接することができず、死に至るほど精神的に妻を追い詰めていたと言うことを妻を失って初めて気付き、娘には恨まれ憎まれ、退職して残った余生を自分を見つめ直すために細々と隠居生活を始めた男の隣室には愛情を知らない幼子がいた。
かつての、遠い昔の、自分の娘が幼かった頃の幸せな時を思い出し、その後の娘の姿と幼子を重ね合わせて見てしまう男は罪滅ぼしのつもりだったのか、人間として純粋に放って置けないと思ったのか、幼女を気にかけるようになり、何とか手を差し伸べようと努力を始めるのだが、「おいおい、それはちょっと違うのではないかい!?」って感じで・・・
元校長なら、
人の道と言うものを生徒に教えているだろうに・・・
教鞭に立つものが、人の上に立つ立場にいるものが、いくら子どもを救うためとは言え、そう言うことをしていいのか・・・!?
たとえ逃げ出さなきゃならない状況にあったとしても、せめて大家には知らせるとか、事後のことだって予測は着くだろうから警察に知らせるとか、何らかの方法で親への連絡はつけられただろうに・・・
我が子とちゃんと向き合って接していなかった男が幼な子の扱い方が上手くできないのは無理もないこと・・・
そこここに男の不器用な接し方が表れていて、「それ違うでしょう!」と思わず突っ込みたくなるような場面が何度かあった。
ファミレスでのシーンもそうだし、お祭でのシーンでは「何やってんの!」とハッとしてしまった!
あとから考えてみたら、
子どもの扱い方を知らないと言う表現方法だったことに気付いた。
「こう言う風に育てられたから、そのようにしかできない」と母親は言った。
そうだろうか・・・?
反面教師というものがあるじゃない!?
こう言う風にして欲しかったと言う
願望だってあるじゃない!?
実際、母を反面教師にしてしてきた私はそう思ったのだが、かつて子どもを叱ってる私を見て「あんたの怒り方はお母さんにそっくりやね!?」と弟に言われた言葉を思い出して愕然とした、、、。
そう、子どもの頃によその親が子どもを怒ってるのを見たことがなかったから、怒り方を知らなかったのだった、、、。
怒られるのにこう言う風に怒られたいと言う願望すらないし・・・
怒られたくないしね・・・(苦笑)
「幸せな人には分からないのよ」とも母親は言った。
「甘ったれてんじゃないよ」と思う人が多いかも知れないが、この言葉は私にはグサッと来た。
確かにそうかも知れない・・・
平凡に暮らすことがどれだけ幸せなことなのか・・・普通に平凡に暮らしてきた人には小さな幸せが理解できないのかも知れない・・・
色んなセリフのひとつひとつを大事に、とても細やかなところまで描かれていた作品だと思いました。