コラム(478):
中国経済の行方――毛沢東時代に先祖返りか
突然、発表延期になった中国GDP
まずは、10月17日の日経記事をご覧ください。
【北京=川手伊織】中国国家統計局は17日、7~9月の国内総生産(GDP)の公表を延期すると発表した。18日に予定していた。理由は明らかにしていない。中国経済は停滞局面が長引いている。16日に開幕した共産党大会で3期目入りを確実にしたい習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)への忖度(そんたく)で公表を見合わせた可能性がある。
ブルームバーグも同様に報じた上に、別の統計も出ていないと指摘しています。
税関総署も14日に発表する予定だった9月の貿易統計をまだ公表していないが、延期理由は示していない。
24日になって、やっと発表され、CNNは以下のように報じています。
中国国家統計局は24日、予定より遅れて7~9月期の国内総生産(GDP)をはじめとする経済指標を発表した。GDPは前年同期比3.9%増と、予想を上回った。
国家統計の発表の延期は、約束を守れないということで国家の信用を著しく毀損するものですが、それでも発表を止めなければならなかった理由があるはすです。当ブログでおなじみの中国問題をウオッチングする専門家はこう語ります。
中国共産党大会が開かれた翌日の10月17日、中国の国家統計局は第三四半期GDPの発表を予定していましたが、これを無期限で延期することを決めました。相当異例なことです。というのも、経済データを発表すると言ってその約束を守らず発表しなかった場合、「この国の言うことは信頼できない」とみなされ、株価が大暴落してしまいます。
それでも、このように、発表当日に延期を命じることができるのは習近平しかいないのです。なぜ習近平は発表を延期にしたのでしょうか?
それは習近平から見て「納得のいく数字」ではなかったからです。自分が統治したこの10年間で「こんなに経済が発展したんだ」ということを示したいのに、統計局が出したデータはとてもそのようになっておらず、「自分の権威に傷がついてしまう」という考えから、無期限で発表を延期したわけです。
では、中国の経済状況は実際どうなのでしょうか? 今年3月に中国が掲げた目標値は、成長率5.5%でしたが、世界銀行や野村証券の予測だと、成長率2.7〜2.8%くらいではないかと言われていました。
そして当局が苦心の末、数字を調整して習近平氏の了承を取り着けようとしたものの、その数字が目標の半分以下であったことから、習近平も到底納得のいかない結果になってしまったのです。それが発表延期の理由で、中国経済は大方の予想通り、低迷していると言っても過言ではないと思います。
今後の中国経済4つのキーワード
では、今後の中国経済はどうなるのか? 今回の中国共産党大会から、今後の経済を紐解く4つのキーワードが見えてきました
1、ゼロコロナ政策の堅持
国内外では、中国経済のマイナス要素として指摘されていたゼロコロナ。しかし習近平は、「ゼロコロナ政策によって、人民の命を守ることができた」と、成功を強調する発言をしています。経済が回らないリスクを負いながらも、なぜこの政策を続けるのか?
それは独裁者にとって、ゼロコロナ政策は、人の健康状態から移動まで、監視したり制限できる、ある意味「戒厳令」のようなものだからです。
そもそも習近平は、国の経済発展を望んでいるわけではありません。みんなが豊かになることよりも、自分の命令に従ってくれることの方が重要なのです。
2、自立更生
半導体などのハイテク産業では、すでに米中デカップリングが始まっており、米国商務省は10月7日、半導体や製造装置の新たな対中輸出規制強化策を発表しました。「米国製の機械や技術を一切中国に売ってはいけない」というもので、これには、スーパーコンピューターなどに使われる関連製品の輸出も制限しています。
しかも、この行政命令は、特定の中国企業ではなく中国全体を対象にした規制になっています。さらにこの適用範囲がアメリカに住んでいる人だけでなく、アメリカに永住権を持っている人も対象にしています。そのため、米国籍を持ちながら中国で仕事をしているエンジニアは、米国籍を放棄するか、それとも中国での仕事を辞めるか、という2択を迫られており、ますます経済圏の分断が進んでいるのです。
中国はもはや、自立更生するほかに道はありません。その結果、習近平はできる限り自分たちで半導体を開発できるよう、数兆もの人民元を投資したのですが、半導体とは全く関係のない企業まで補助金目当てで参入する事態になっています。
これは、まるで毛沢東の「大躍進政策」の二の舞で、せっかく投資したものがほぼ全て無意味になっているのです。
3、双循環
どの国も経済というのは、内需と、外国との貿易という双循環によって成り立っているのですが、習近平はこの「双循環」を全く違う意味で使っています。それは内需のみを重視するということです。
海外との貿易をしなくても成立するような経済を目指していると言います。したがって、言葉の意味を考えると、習近平が「双循環」という言葉を使うこと自体おかしいわけです。
4、共同富裕
最後に、習近平は「分配」という言葉を強調していました。この分配というのは、
「能力の高い人には高い賃金を払う⇒稼ぎの多い人から税金を多くとって貧しい人へ分配」
ここまでは他の国でも実施している仕組みですが、
中国ではそこからさらに、富裕層にはさらに国へ強制献金させ、国から貧困層に分配する、という仕組みをとっているのです。これは富を築く仕組みを規制するもので、共同富裕という名の「共同貧困」につながります。
全てを国が管理する経済へ
これまでの中国は、共産党の看板をかけつつも実際には資本主義の中で成長してきました。しかし習近平は、中身も完全な共産主義に戻し、全てを国が管理する経済を目指しているのです。
具体的には、今後、中国企業をすべて国有化することを進めています。すでに2019〜21年の間、国有企業が民間企業を買収した数は、なんと上場企業だけで110件。それも、民間企業の中に共産党組織を作らせ、経営を傾かせたところで買収させる、」といった「乗っ取り作戦」で、多くの企業が国有化されているのです。
このような状況を見ても、中国のこれから目指す方向は厳格な共産主義になるでしょう。
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