赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』(27)
アジアの情勢分析(1)中国の軍事動向
衆議院平和安全法制の議論がはじまりました。その内容は、野党の政治家や報道に携わる一部メディアが国家の安全保障問題よりも、単に政権の足を引っ張る目的で議論が進んでいるように思います。それこそ日本が抱える「本質的危機」であると感じます。そこで、当ブログでは、本質部分が見失われがちな国際社会の真相を、信頼できる情報筋からの報告を元にさまざまな角度から分析してみたいと思います。
安全保障法制は「戦争をしない」ための議論である
本年(2015)5月26日に発表された中国の国防白書では、「外部からの阻害と挑戦」として、「日本の安保政策の転換」と「地域外の国の南シナ海への介入」の二つが明記されています。
この白書は、「仮想敵国として日本とアメリカ」を位置づけています。しかも、「自衛隊や米軍との東シナ海などでの軍事衝突に備え、中国が準備を進めている」こともうかがわせる内容【※1】となっています。
【※1】「予見できる未来において世界大戦は起こらないが、世界は依然として現実的・潜在的な局地戦争の脅威に直面している」、「戦争準備態勢を維持し、特に、海上の軍事闘争とその準備を最優先し、領土主権を断固守り抜く」と強調。尖閣諸島をめぐり日本と対立する東シナ海や、フィリピンなどとの領有権問題を抱える南シナ海などを念頭に、海軍力を強化する戦略を明確に打ち出した。
しかし、日本の国会審議では「中国を仮想敵国」としての扱いはしていません。「仮想敵国」である表明すると、互いを「敵」として認識し戦争の前段階に突入するからです。日本政府は言葉を選びながら、戦争にならないよう配慮していることを忘れてはなりません。
それに対して野党側は「中国が攻めてくることはありえない」という前提で質問してきます。「今なぜ法整備の必要があるのか」、「何か危機が迫っているのか。なぜ急ぐのか」と質問した人もいるくらいです。ここが議論のかみあわない最大の原因となっているわけです。
したがて、これからの国会論戦では、与野党ともに中国の本音を理解して、「日本国民の安全のために何をなさねばならないのか」という議論をしていただきたいと思います。そのためには、「中国の軍事力を脅威に感じるのか否か」という認識から論戦をはじめなければならないのではないでしょうか。
そして、最も必要なことは、戦争を引き起こさないために、「抑止力の重要性」を確認することだと思います。これは日本の毅然とした態度が、中国の冒険的な行動をためらわせるものであるからです。
習近平主席の自滅を待っている人物
ところで、日本では国家主席の習近平氏が中国の軍部を完全に掌握して中国をリードしているかのように過大に評価されていますが、軍は中国共産党の意図に関わらず独断で物事を進めていることが多いのです。
最近の報道では、「人民解放軍に激震 習政権が軍部のカネの流れを徹底調査 聖域を破壊」とも報じられていますが、これも未だに習氏と軍が暗闘を繰り広げている証拠なのです。
実際、最も信頼できる専門家によると、「習氏は軍を掌握しきれていない」「習氏の自滅を冷ややかに見ている人物(党幹部)がいる」と指摘しています。また、「習氏自身は日本や米国との軍事的な衝突を避けたいようだが、その人物は好戦的で危険」と指摘しています。彼は習氏の次をひそかに狙う可能性が高いようです。どうも習氏の言動ばかりに気を取られていると正確な判断を見誤る恐れがありそうです。
以上から、中国の軍事的動向とそれを後追いしている外交を別個に観察しながら、中国の動向分析をしてみたいと思います。
中国の軍事戦略
中国は14の国と国境を接しています。とくに中国は歴史的に版図拡大をめざす国家という特徴があります。ミャンマーやベトナムとは国境線でたびたび紛争が起き、南シナ海ではフィリピン、ベトナムなどと領有権をめぐって深刻な対立を深めているのはご承知の通りです。
しかも、日本ではあまり報道されていませんが、ロシアの影響力が落ちた中央アジア諸国【※2】にまで手を広げようとしています。この地域にも豊富な地下資源があるからです。
【※2】ソ連解体後、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスタンが独立した。これにモンゴルとカザフスタンを加えれば中国は二倍の面積となる、さらにアフガニスタンとパキスタンを囲い込めばインドを孤立化させ、イランと国境を接することになる。
また、中国にとっての最大の脅威である米軍を中国周辺から遠ざけたいという願望があり、それをAAAD【※3】で実現しようとしています。
【※3】接近阻止・領域拒否(英語: Anti-Access/Area Denial, A2/AD)は、中国人民解放軍の軍事戦略。これは、2009年にアメリカ国防長官官房が議会に提出した年次報告書「中華人民共和国の軍事力・2009」において発表された。基本的に海・空作戦を主軸とし、接近阻止(AA)戦略と領域拒否(AD)作戦によって構成される。「米軍を中国本土に接近させない、中国領域に入れず追い出す」という考え方である。
これに基づき、中国海軍は「外敵による海上からの侵略の阻止、国土と海洋権益の防御、祖国統一」を掲げて、「第一列島線【※4】」、「第二列島線【※5】」という線引きを行いました、
【※4】日本から台湾、フィリピンにいたるラインを「第一列島線」と称し、このラインの内側を中国近海と位置づける、台湾有事の際の作戦海域であり、この区域内には、南沙諸島問題、尖閣諸島問題や東シナ海ガス田問題など、領土問題が存在する。
【※5】小笠原諸島からグアム・サイパンにいたるラインを「第二列島線」と称し、各種作戦を実行できるものとする。2040~2050年までに西太平洋、インド洋で米海軍に対抗できる海軍を建設するとしている。
この構想の延長線上に太平洋の東西分割【※6】、真珠の首飾り【※7】、さらには2013年に設置した防空識別圏【※8】などがあります。
【※6】2007年8月17日付米紙ワシントン・タイムズ:キーティング米太平洋軍司令官が最近訪中して中国軍事当局者と会談した際、中国側が、太平洋を東西に分割し東側を米国、西側を中国が管理することを提案したと報じた。米側は拒否したという。
【※7】香港からポートスーダンまで延びる海上戦略。中国海軍が戦略的な関心を持っているパキスタン、スリランカ、バングラデシュ、モルディブ、ソマリアだけでなく、戦略的チョークポイントであるバブ・エル・マンデブ海峡、マラッカ海峡、ホルムズ海峡、ロンボク海峡などを通っている。なお、日本にとっては、「真珠の首飾り」が完成し、中国が日本に対して妨害的な行動をとれば、日本のシーレーン、とりわけ石油の運搬に支障をきたす恐れがある。
【※8】中国は11月23日、尖閣諸島、沖縄県石垣市上空を含む東シナ海の空域に、戦闘機が警告のために緊急発進するかどうかの基準となる「防空識別圏」を設定した。
平和になったら軍の存在が不要になるので、絶えずどこかで緊張状態をつくらざるを得ないのです。
アメリカに強い警戒感を持たせた中国
しかし、これら一連の軍事戦略は、中国周辺の諸国を不快感に陥れるだけでなく、「世界の警察官」であるアメリカを激怒させました。アメリカは「エアシーバトル【※9】」をもって、中国に対抗する意思を固めています。
>【※9】米軍が採用する空海軍の一体運用構想で中国に対する米国の軍事戦略。陸、海、空、宇宙、サイバーの5つの領域の垣根を超えて一元的に戦力を運用し、また各省庁や外国の軍事力と一緒になって中国に立ち向かおうとするもの。
また、キューバへの中国最新鋭ミサイル艦の配備計画が、アメリカとキューバの国交正常化交渉を急がせてしまったのです。
この問題は。1962年、キューバにソ連のミサイルが持ち込まれようとし、第三次世界大戦寸前だった状況を思い出させるもので、アメリカにとっては許しがたい行為でしょう。アメリカ海軍は11隻の原子力空母を保有していますが、稼動している6隻のうちの半分を東アジア地域に配備しています。
私たちの住んでいるアジアは、依然として緊張状態にあることを忘れてはなりません。
抑止力――国家を守る強い意志には手が出せない
中国側の報道を見ますと強気一辺倒の中国軍に思えますが、本音は米軍との戦端は開きたくありません。軍事的な差があまりにも大きい米軍の抑止力が中国軍の暴発を押さえ込んでいるのです。「尖閣は日米安保の適用対象」とアメリカが発言して以来、中国は以前のような暴走行為をやめました。これが抑止力の持つ力です。
現在の安全保障法制の議論に欠けている視点はこの「抑止力」の観点です。ここを踏まえて議論すれば、「安保法制関連法案はよく分からない」との声が収まるはずなのです。また、同時に「軍事力があるから戦争に巻き込まれる」などの論理を振りかざす人びとが、実際は中国の野望を増幅させていることに気づくべきです。
国会議員の皆さまには、党利党略ではなく、国民の生命と財産を守るために安保法制の議論があるのだという原点をいま一度確認し、真摯な議論をされますよう切にお願いしたいと思います。
つづく
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