赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』(44)
難民問題を考える
難民はなぜ生まれるのか
特定の国や特定の人がエネルギーや食糧を独占することにより、国際紛争や内紛が起こります。その結果、立場が弱く、富から遠ざけられた人びとが生きる糧を求め流浪の民としてさまよいはじめます。これが難民【※1】の起源です。人類はいくたびもその歴史を繰り返しています。
20世紀の後半から富が特定の国や特定の勢力に集中するようになり、その規模が大きくなるに連れ、難民の数も飛躍的に多くなってきました。
【※1】難民とは、対外戦争、民族紛争、人種差別、宗教的迫害、思想的弾圧、政治的迫害、経済的困窮、自然災害、飢餓、伝染病などの理由によって居住区域(自国)を逃れた、あるいは強制的に追われた人々を指す。
難民キャンプの悲劇
日本では難民の姿を見る機会は殆どありません。テレビの映像では、彼らの本当の悲惨さは理解できません。難民キャンプにたどり着くまで、彼らの一人一人がいかに苦しみの中にあったのかは計りしれません。さらに彼らには私たちが想像を超える過酷な運命が待ち受けています。
難民キャンプは、戦争や内乱などが終結した時に直ちに故郷に帰ることを前提として作られているので、最低限の設備しか用意されていません。そのため飢えと伝染病が蔓延し、キャンプ地で死亡する子供や老人が後を絶ちません。
しかも、難民自体が母国を捨てた反政府主義者と見なされることから、軍事組織から越境攻撃を受けることもあり、必ずしも安全とは言えません。また、難民キャンプに住む女性たちが夜間襲われる危険が高いという現実もあります。このような不安定な環境から精神に障害が出る可能性も高くなっています。
例えば、9万人のソマリア難民を受け入れるため作られた施設には35万人が押し寄せ、狭い空間に過度の人口が密集し、物資の確保が慢性的に不足しています。
第三国定住の難民と経済難民の悲しみ
第三国定住制度とはすでに難民キャンプで生活するなどして難民となっている人を別の国が受け入れる制度です。難民は母国で生命を脅かされる経験をしただけでなく、移住した国に順応するため多大な努力を強いられることになります。
また、このほかに経済難民と言われる人もおります。その国では仕事や収入が全くないため、やむなく住んでいた土地や国を逃れて難民になった人々です。しかし、いずれの難民も生命の安全を求めていることに変わりはありません。
そのため、定員の何倍もの人数で船に乗り込んだり、警備の厳しい国境線を命がけで突破しながら他国にたどり着こうとしているのです。
難民は母国で戦闘や処刑や殺人を目の当たりにしているだけではなく、移住の途中で犯罪や暴力に巻き込まれるケースも少なくありません。多くの場合、強制労働や詐欺、セックス産業や麻薬犯罪組織などの劣悪なかんきょうで、奴隷のように働かされる例があとを絶ちません。
その上、先進国が人道的な見地から難民を受け入れたとしても、彼らの就労によってその国の人の仕事を奪うという現象が起きたり、福祉対策の費用の急増で国家財政が圧迫されています。このため、難民は劣等民族として蔑まされたり、暴力の標的になることがあります。
問題の抜本解決と安倍談話の真意
現状の対応は、押し寄せる難民をいかに防ぐかという構造になっているように見えます。これでは何も解決することはできません。国際社会は考え方を根本的に変える時期にきていると思います。
国際社会を俯瞰すると、日本を含め経済力のある国に石油や食料などの資源が潤沢に流れています。また、アメリカや中国のように資源や食糧を過剰に独占しようとしている国もあります。そのために国家間の紛争が起きています。彼らは戦争が好きなわけではなく、自分たちの食べるものやエネルギーを確保しようとして争っているのです。それが内紛や人権弾圧にも波及します。こうした考えでは世界が平和になることは絶対にありません。このままでは難民は増加する一方です。
安倍総理は戦後70年談話で「積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります」と結論付けました。かつての談話は狭い地域での自己弁解に終始していましたが、今回の談話の真意は、国際社会に対し紛争や内紛の根本原因を共に探求し、世界の食料やエネルギーの需給バランスを図るため、人類が何をせねばならないかという課題に果敢に挑戦していくと言う宣言文であったと信じています。国際社会に発信された日本の覚悟でもあったと思います。
日本の徳性を発揮すべきとき
まずは、アメリカ、ドイツ、カナダ、オーストラリアなどと共通認識を持った上で、協力して、国際的紛争の当事国、または内戦の国々に積極的にアプローチをしていくべきです。粘り強く和平の道筋を当事者たちに説いていかねばなりません。
これまで、日本はフィリピンにおいて政府と反政府組織のモロ・イスラム解放戦線との合意を取り付けたり、イスラエルーパレスチナ問題でも「平和への積極的な貢献」で和平を促した実績があります。
また、この政治的な解決の手法は、人権尊重の促進や宗教的排他性の改善につながると思います。国家間の対立、国内での対立、民族紛争、宗教紛争の根本には「自分と他人が違う」あるいは「自分たちは優れている」という認識が前提にあり、それが排他と独占の感情を生みだして争いの基になっているからです。
精神と知識が国家を救う
経済難民の解決には難民発生の各国首脳との対話や会談での提起が大切だと思います。
その最大のものは各国の指導者に対する精神的な感化力です。安倍総理の持つ人格の力と日本の伝統である誠実さ、謙虚さ、寛容さ、和の心などの徳性によって、「排他性や対立は何も生み出さず多くの人々を不幸にしている」ことを説くことが重要だと思います。
次がインフラ整備です。道路や橋、電力や水といった最低限必要なものを現地の人びとと共に作り上げることです。これがODAの本来のあり方です。当然、自衛隊を増強して派遣し、インフラ整備を促進することも検討すべきと思います。また、農業技術、工業技術、医療知識を提供することで彼らは貧困や病から脱出でき、難民の発生はなくなるはずです。
難民問題の解決は安倍総理と日本の真価が問われます。日本が掲げた「積極的平和主義」と「世界の平和と繁栄に貢献する」との主張が世界中から評価されている今、それを本物にするか否かは私たち自身の思いにかかっていると思います。
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