赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』(12)
AIIB(アジアインフラ投資銀行)について
コメント欄に、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)についての見解を問うご質問がありました。ちょうど話題に上がっているときですので、私見を申し述べたいと思います。
中国のタテマエと本音
AIIBは、2013年10月、アジアのインフラ整備を支援するとして習近平中国国家主席が創設を提唱したものです。習氏は「世界銀行やアジア開発銀行(ADB)への対抗組織ではなく、補完関係にある【※1】」と繰り返し説明しています。
【※1】「日米が主導するアジア開発銀行(ADB)では賄いきれない増大するアジアにおけるインフラ整備のための資金ニーズに対応するため」としている。
AIIBは、今年(2015)3月イギリスの参加を機に加盟に向けた動きが一気に広がりました。3月末の創立メンバー募集終了の時点ではAIIBに51の国と地域が参加申請したといわれています。なお、創設メンバーの国は、AIIBの枠組みを定める設立協定づくりに参加できるとされています。
さて、AIIBは中国自らが最大出資国となり、銀行の本部を北京に置く意向とみられています。さらに、中国は自らが好む国に対するインフラ支援を、AIIBを通して他国の資金も使うことができるようにするつもりだといわれています。つまり、中国にとっては、従来よりも少ない金額で投融資が可能となり、しかも、今までと同じ効果が期待できることになります。中国にとってAIIBは、対アジア外交強化の強力な武器となるわけです。
内外の反応
ところで、日本はAIIBへの参加見送りの方針を明らかにしました。
麻生財務相は3月31日の閣議後の会見で「参加には極めて慎重な態度をとらざるを得ない」と語っています。その理由は、AIIBの出資比率は加盟国のGDPに応じて決まるため、GDPの大きい中国は、運営面での影響力が大きくなると見ているからです。
それに対し、野党側は一斉に政府の対応を批判しました【※2】。
【※2】維新の党の江田憲司代表は「中国外交の勝利、日本外交の完全敗北だ」。民主党の蓮舫代表代行は「貧困解消や格差是正などのために日本はアジアで努力すべきだったが、結果は成功していない」。 共産党の志位和夫委員長は1「アメリカの顔色だけをうかがう自主性のなさが露呈した。アジアで参加していないのは日本と北朝鮮くらいで、参加すべきだ」と強調。
また、日本経済新聞や朝日新聞などがAIIBの不参加に対し強い懸念を表明しています。
一方、中国では、「日本のAIIB不参加は短絡的」(人民網)、「日本にアメリカの承認を待たずに参加するべき」、「日本がいつまでもアメリカの指示待ちをするとすれば、とても恥ずかしいことだ」(中国国営通信・新華社)と日本を半ば煽るような形で報道をしています。
中国の狙いと参加国の狙い
しかし、専門家筋にお話を伺いますと、「中国は本当は日本とアメリカにはAIIBに参加してほしくはない」とのことです。また、「中国主導でアジア諸国を支配下におきたい」というのが本音であろうとのご指摘でした。中国にとって日本やアメリカの参入があっては思い通りにいかなくなるからです。
また、中国の通貨である人民元の国際通貨化も狙いにあるようです。ただし、この問題は現在の国際基軸通貨であるアメリカのドルへの挑戦ということになります。
さて、一方で、AIIBの創立メンバーに参加した国の思惑はどうなっているのでしょうか。
アジアで参加した国々は、「経済的な支援を当てにしているが、資金援助があったからといって中国の意向に服従するわけではない」とのしたたかな一面を持っている様子が見てとれます。この辺のバランスの取り方はなかなかうまいものがありそうです。
また、イギリスなどの先進国がAIIBに参加した理由は、出資目的よりもアジアのインフラ整備の際に、自国の企業を優先的に使ってもらうために早めに足場を築いておこうという趣旨のようです。したがって、将来的には、「中国が主導するインフラ整備」とは大きく対立する考え方になりますので、結構早いうちから、先進国の撤退という事態が引き起こされる可能性も高くなるものと思われます。
AIIBの将来性
こうして分析してみますと、AIIBの前途はあまり明るくはないようです。
この根本原因は、AIIBの「設立の動機」にあります。中国はアジア諸国に対して莫大な費用のかかる軍事的な制圧よりも、他国の資金を利用する形で中国主導の経済的制圧を目論んだところに動機の不純さを感じます。
中国が純粋な気持ちでアジアの国々の発展のために、インフラ整備をしようという考えでAIIB構想を進めたら、参加形態がもっと変わっていたはずです。また、中国が人民元を世界通貨にしたいという野望を持たなければ、アメリカも態度を硬化させなかったのではないでしょうか。中国には「覇権を経済政策で実現させたい」という思惑があるから、参加表明をした国々も、自国の利益だけで集まったのです。
その意味で、覇権を狙う中国に加担しない日本が参加を見送るのは当然の帰結でした。また、野党やマスコミが参加を求めていること自体、中国の不純な動機に便乗して経済的利益を得たいという旧来通りの搾取の考え方です。かれらの考え方こそが、実は、植民地主義であり、収奪の構造なのだということに気づくべきです。
これからの二国間、多国間における国際援助のあり方については、援助する側が、自国の利益を得る目的にしてはならないのです。相手国の発展を願って、そのために何をすべきかということを考えて援助していかなければならないのです。それが、国際関係における協調であり、WIN―WINの関係を築き、互いの信頼に結びつくことなのです。
利害損得をこえたところにこそ、世界の調和と発展は果たされるものだということを銘記したいと思います。
次回更新は4月10日、「沖縄反基地闘争の本質」を掲載します。
お問い合わせ先 akaminekaz@gmail.com
FBは https://www.facebook.com/akaminekaz です
AIIB(アジアインフラ投資銀行)について
コメント欄に、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)についての見解を問うご質問がありました。ちょうど話題に上がっているときですので、私見を申し述べたいと思います。
中国のタテマエと本音
AIIBは、2013年10月、アジアのインフラ整備を支援するとして習近平中国国家主席が創設を提唱したものです。習氏は「世界銀行やアジア開発銀行(ADB)への対抗組織ではなく、補完関係にある【※1】」と繰り返し説明しています。
【※1】「日米が主導するアジア開発銀行(ADB)では賄いきれない増大するアジアにおけるインフラ整備のための資金ニーズに対応するため」としている。
AIIBは、今年(2015)3月イギリスの参加を機に加盟に向けた動きが一気に広がりました。3月末の創立メンバー募集終了の時点ではAIIBに51の国と地域が参加申請したといわれています。なお、創設メンバーの国は、AIIBの枠組みを定める設立協定づくりに参加できるとされています。
さて、AIIBは中国自らが最大出資国となり、銀行の本部を北京に置く意向とみられています。さらに、中国は自らが好む国に対するインフラ支援を、AIIBを通して他国の資金も使うことができるようにするつもりだといわれています。つまり、中国にとっては、従来よりも少ない金額で投融資が可能となり、しかも、今までと同じ効果が期待できることになります。中国にとってAIIBは、対アジア外交強化の強力な武器となるわけです。
内外の反応
ところで、日本はAIIBへの参加見送りの方針を明らかにしました。
麻生財務相は3月31日の閣議後の会見で「参加には極めて慎重な態度をとらざるを得ない」と語っています。その理由は、AIIBの出資比率は加盟国のGDPに応じて決まるため、GDPの大きい中国は、運営面での影響力が大きくなると見ているからです。
それに対し、野党側は一斉に政府の対応を批判しました【※2】。
【※2】維新の党の江田憲司代表は「中国外交の勝利、日本外交の完全敗北だ」。民主党の蓮舫代表代行は「貧困解消や格差是正などのために日本はアジアで努力すべきだったが、結果は成功していない」。 共産党の志位和夫委員長は1「アメリカの顔色だけをうかがう自主性のなさが露呈した。アジアで参加していないのは日本と北朝鮮くらいで、参加すべきだ」と強調。
また、日本経済新聞や朝日新聞などがAIIBの不参加に対し強い懸念を表明しています。
一方、中国では、「日本のAIIB不参加は短絡的」(人民網)、「日本にアメリカの承認を待たずに参加するべき」、「日本がいつまでもアメリカの指示待ちをするとすれば、とても恥ずかしいことだ」(中国国営通信・新華社)と日本を半ば煽るような形で報道をしています。
中国の狙いと参加国の狙い
しかし、専門家筋にお話を伺いますと、「中国は本当は日本とアメリカにはAIIBに参加してほしくはない」とのことです。また、「中国主導でアジア諸国を支配下におきたい」というのが本音であろうとのご指摘でした。中国にとって日本やアメリカの参入があっては思い通りにいかなくなるからです。
また、中国の通貨である人民元の国際通貨化も狙いにあるようです。ただし、この問題は現在の国際基軸通貨であるアメリカのドルへの挑戦ということになります。
さて、一方で、AIIBの創立メンバーに参加した国の思惑はどうなっているのでしょうか。
アジアで参加した国々は、「経済的な支援を当てにしているが、資金援助があったからといって中国の意向に服従するわけではない」とのしたたかな一面を持っている様子が見てとれます。この辺のバランスの取り方はなかなかうまいものがありそうです。
また、イギリスなどの先進国がAIIBに参加した理由は、出資目的よりもアジアのインフラ整備の際に、自国の企業を優先的に使ってもらうために早めに足場を築いておこうという趣旨のようです。したがって、将来的には、「中国が主導するインフラ整備」とは大きく対立する考え方になりますので、結構早いうちから、先進国の撤退という事態が引き起こされる可能性も高くなるものと思われます。
AIIBの将来性
こうして分析してみますと、AIIBの前途はあまり明るくはないようです。
この根本原因は、AIIBの「設立の動機」にあります。中国はアジア諸国に対して莫大な費用のかかる軍事的な制圧よりも、他国の資金を利用する形で中国主導の経済的制圧を目論んだところに動機の不純さを感じます。
中国が純粋な気持ちでアジアの国々の発展のために、インフラ整備をしようという考えでAIIB構想を進めたら、参加形態がもっと変わっていたはずです。また、中国が人民元を世界通貨にしたいという野望を持たなければ、アメリカも態度を硬化させなかったのではないでしょうか。中国には「覇権を経済政策で実現させたい」という思惑があるから、参加表明をした国々も、自国の利益だけで集まったのです。
その意味で、覇権を狙う中国に加担しない日本が参加を見送るのは当然の帰結でした。また、野党やマスコミが参加を求めていること自体、中国の不純な動機に便乗して経済的利益を得たいという旧来通りの搾取の考え方です。かれらの考え方こそが、実は、植民地主義であり、収奪の構造なのだということに気づくべきです。
これからの二国間、多国間における国際援助のあり方については、援助する側が、自国の利益を得る目的にしてはならないのです。相手国の発展を願って、そのために何をすべきかということを考えて援助していかなければならないのです。それが、国際関係における協調であり、WIN―WINの関係を築き、互いの信頼に結びつくことなのです。
利害損得をこえたところにこそ、世界の調和と発展は果たされるものだということを銘記したいと思います。
次回更新は4月10日、「沖縄反基地闘争の本質」を掲載します。
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