井上は孤児院で幼少期を過ごした。その時のことを「四十一番の少年」というものとして書いているが
詳細は忘れたが読後感はおもいものがあった。しかしながら、上智大学に進み、これは孤児院の
経営母体がミションつまりキリスト教だということと関係している。
井上の面白いところは 浅草フランス座というストリップ劇場で、合間にやる客達が無関心な時に
やるコントの台本を書いていた。井上もこの時の経験が役にたったと書いている。
そして「ひょっこりひょうたん島」の脚本を手がけて知る人ぞ知る、でもまだまだ下積みのままだった。
長くなるのだが、井上の人生は見方を変えれば背徳の人生だと私は思っている。
売れない時代に教育テレビの本(台本)を書いていたはずでNHKには義理がありそうなものだが
例えば受信料不払い運動を論理的に先陣をきって行うなどしている。
中期 花石物語、ブンとフン偽原始人 浅草鳥越あづまとこ等の中編を多数書いた。
偽原始人については何度か取り上げているが、3人組が教育至上主義に反発して繰り広げる珍
騒動の中で圧巻なのは3人組が暗号文を宿敵の家庭教師に渡す文章だ。
それはさておき この頃の井上の本に挟まれたリーフレットの写真が凄い。大きな図書館や博物館で
使われている移動式書庫つまりレールの上を大きな本棚がハンドル操作で動くというものを
自宅に設置していて その中に両足を乗せている写真だ。
本好きの私もかなりの量の本を持っていたが そこはプロとアマというか次元が違いすぎる。
後期にかけては吉里吉里人、4千万歩の男など重厚でかつ長編を手掛けていて、
さらには、日本語についての著作も増えていて、批判していたはずのNHKの教育テレビなどに出演し
日本語についてを語るなどしている。私は興味がなかったが、戯曲も多数手がけている。
遅筆堂と自重しているように、井上の原稿は締切りがあるようでないものだったそうだ。
直木賞以外にも多数の賞を受賞しているが、井上の本領は晩年に集約される気がする。