民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「卑怯について」 その1 倉本 聡

2016年08月16日 00時13分20秒 | 生活信条
 「昭和からの遺言」 倉本 聡(1935年生まれ) 双葉社 2015年

 「卑怯について」 その1 P-64

 卑怯といはれるのが恐かった
 卑怯者といはれるのを 何より恐れた
 卑怯な行動をとることは
 男として最もいやしいことだと
 子供の頃から云はれて育った
 具体的にそれがいつのことだったか
 細かいことは覚えていない
 しかし思えば物心ついた時
 その恐怖はあった気がする
 父に云はれたのか
 兄に云はれたのか
 母に云はれたのか
 祖父に云はれたのか
 それもはっきり覚えていない
 とにかく卑怯な振る舞いはいけない
 いけないからいけない
 そう云はれて育った
 だからそのことはゆるがない
 卑怯なことはすまいと思っている
 だが
 思ってはいるがこれまでの人生
 一体どれほど自分はその禁を
 心ならずも破ってきたことか