「昭和からの遺言」 倉本 聡(1935年生まれ) 双葉社 2015年
「卑怯について」 その2 P-65
6つの年に戦争が始まった
10になった年、学校の校庭に
配属将校という軍の人が来て
俺たちは全員校庭に並ばされ
いきなり大声でかまされた
「特攻に志願するもの 一歩前へ!」
即座に勇敢な上級生が何人かが
ためらいもせず バン!と前へ出た
あわてた上級生がそれに続いた
自分はそのとき出られなかった
特攻に行くとは 死ぬということだ
飛行機ごと敵艦につっこんで死ぬ
痛いだろうなァ!!
でも同時に頭が考えていた
みんなが出るのに俺だけが出ない
お国の為にみんなが死ぬのに
恐いからいやだともし出なかったら
後でみんなから卑怯といはれないか
仲間はずれにされるんじゃないか
そう思ったとき 足が出ていた
同級生全員がつられて前へ出た
いや。
最後まで出ないで震えている者がいた
一人か、二人
蒼白にうつむいて 前へ出なかった
将校がじろりと彼らを睨んだ
それでも彼らは顔を伏せ 出なかった
解散になったとき 彼らのことを
上級生が小さく罵倒した
この卑怯者!
俺は前へ出て良かったと思った
仲間はずれにされなくて
本当に良かったとその時思った
「卑怯について」 その2 P-65
6つの年に戦争が始まった
10になった年、学校の校庭に
配属将校という軍の人が来て
俺たちは全員校庭に並ばされ
いきなり大声でかまされた
「特攻に志願するもの 一歩前へ!」
即座に勇敢な上級生が何人かが
ためらいもせず バン!と前へ出た
あわてた上級生がそれに続いた
自分はそのとき出られなかった
特攻に行くとは 死ぬということだ
飛行機ごと敵艦につっこんで死ぬ
痛いだろうなァ!!
でも同時に頭が考えていた
みんなが出るのに俺だけが出ない
お国の為にみんなが死ぬのに
恐いからいやだともし出なかったら
後でみんなから卑怯といはれないか
仲間はずれにされるんじゃないか
そう思ったとき 足が出ていた
同級生全員がつられて前へ出た
いや。
最後まで出ないで震えている者がいた
一人か、二人
蒼白にうつむいて 前へ出なかった
将校がじろりと彼らを睨んだ
それでも彼らは顔を伏せ 出なかった
解散になったとき 彼らのことを
上級生が小さく罵倒した
この卑怯者!
俺は前へ出て良かったと思った
仲間はずれにされなくて
本当に良かったとその時思った