「江戸の定年後」 ご隠居に学ぶ現代人の知恵 中江 克己 光文社文庫 1999年
十返舎一九 ―― 自分の死を笑いのタネに その7
ベストセラー作家なのに貧乏暮し その2
天保2年のある日、臨終の近いことを悟った一九は、枕元の門人たちに、厳しくいいわたした。
「おれはまもなく死ぬが、死んだら絶対に湯灌などするなよ。着物も着せ替えてくれなくていい。死んだままの格好で棺に入れ、必ず火葬にしてくれ。よいな」
門人たちは不審に思ったが、師匠が変わったことをいったり、したりするのは、いまにはじまったことではない。だまってうなずくしかなかった。
やがて8月7日、一九が息を引き取ると、門人たちはいいつけを守って遺体をそのまま棺に入れ、火葬場に運び込み、焼いてもらった。
ところが、棺に火がまわった途端、
「ど、どーん」
すさまじい爆発とともに、棺から激しい火柱が吹きあがったのだ。まわりには、門人や友人たちが神妙な顔をして集まっていたが、なにごとが起こったのかと、肝をつぶしてしまった。
一九は死の直前に、なんと自分の体に花火の管を巻きつけておいたのである。サービス精神の旺盛な一九は、自分の死まで演出して、集まってくる友人や知人たちを笑わせようとしたのだろう。
そのうえ、つぎのような辞世まで用意していた。
「此世をばどりゃお暇せん香の煙りと共に灰左様なら」
ひたすら人をおどろかせ、喜ばせようとする一九らしい死だった。
十返舎一九 ―― 自分の死を笑いのタネに その7
ベストセラー作家なのに貧乏暮し その2
天保2年のある日、臨終の近いことを悟った一九は、枕元の門人たちに、厳しくいいわたした。
「おれはまもなく死ぬが、死んだら絶対に湯灌などするなよ。着物も着せ替えてくれなくていい。死んだままの格好で棺に入れ、必ず火葬にしてくれ。よいな」
門人たちは不審に思ったが、師匠が変わったことをいったり、したりするのは、いまにはじまったことではない。だまってうなずくしかなかった。
やがて8月7日、一九が息を引き取ると、門人たちはいいつけを守って遺体をそのまま棺に入れ、火葬場に運び込み、焼いてもらった。
ところが、棺に火がまわった途端、
「ど、どーん」
すさまじい爆発とともに、棺から激しい火柱が吹きあがったのだ。まわりには、門人や友人たちが神妙な顔をして集まっていたが、なにごとが起こったのかと、肝をつぶしてしまった。
一九は死の直前に、なんと自分の体に花火の管を巻きつけておいたのである。サービス精神の旺盛な一九は、自分の死まで演出して、集まってくる友人や知人たちを笑わせようとしたのだろう。
そのうえ、つぎのような辞世まで用意していた。
「此世をばどりゃお暇せん香の煙りと共に灰左様なら」
ひたすら人をおどろかせ、喜ばせようとする一九らしい死だった。