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「日本語の呼吸」 その1 鴨下 信一 

2014年06月06日 01時00分00秒 | 朗読・発声
 「日本語の呼吸」  鴨下 信一 著  筑摩書房 2004年

  「(ド)ツボの音」を出してはいけない P-112

 実は邦楽では<唄は、楽器のツボで出る音には合わせない>のです。
このことはセリフの要素が多い語り物(義太夫節など)では、
音楽的要素が多い唄い物(長唄など)よりやかましくいわれます。

 楽器のツボで出る音、西洋音楽いえばドレミファのような楽音に、
本来日本では、唄い手は合わさない。

 ツボにはまる―――たいていはいい意味で使われる言葉ですが、
義太夫などではこれをドツボにはまる―――こういって嫌がります。

 じゃ何のために三味線はあるんだ、ツボは何なんだ。
邦楽の人はこう答えます。
ツボの音そのものは出さないが、それに無限に近づくのだ。

 これを<ツボの音に向かって躙(にじ)る>というんだそうです。
<ニジる>上体を屈(こご)めて膝で摺(す)ってだんだんと近づくことです。
茶室に<にじり口>という、体を折り曲げなければ入れないとんでもなくせまい入り口があるでしょう。
ニジるとはうまい譬(たと)えです。

 鴨下 信一 1935年生まれ、TBSに入社。「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」などの演出を手がける。

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