モモ太郎
今日は「モモ太郎」やっかんな。
オレが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いたハナシだ。
おめぇーらが 学校で聞いたハナシと ちょっと違うとこ あっかもしんねぇけど、
こういう モモ太郎も あるんだって 思って 聞いてくれや。
むかし、むかし、あるところに、じぃさまと ばぁさまが 二人っきりで 暮らしていたと。
ある日 じぃさまは「よっこら よっこら」山へ たきぎ取りに 出かけたと。
ばぁさまは「どっこら どっこら」川へ 洗濯に 出かけたと。
ばぁさまが、「じゃぶ じゃぶ」洗濯をしていると、川の上から、大きなモモが、
「どんぶら こっこ、どんぶら こっこ」流れてきたど。
「甘い モモなら、こっちこい。・・・苦い モモなら、あっちいけ。」って、歌っていると、
「どんぶら こっこ どんぶら こっこ」こっちに 流れて 来たと。
「おぅ おぅ、うまそうなモモだこと。・・・じいさんと 一緒に 食(た)べっぺ。」
「ほいさか ほいさか」うちへ 帰ったと。
夕方、じぃさまが 帰ってきて、ばぁさまが モモを 見せてあげたと。
「おぅ おぅ、これは みごとな モモじゃ。」
じぃさまが モモを手に取ろうとすると、「ぱかっ」って、ひとりでに 割れて、
「ほぎゃあー ほぎゃあー」
中から ちんちんつけた 赤ん坊が 生まれてきたと。
じぃさまは びっくりして、しりもちつきながら、
「これは 天からの 授かりものじゃ。・・・なぁ、ばあさんや。」
「うん。」と、ばぁさまは こくりと うなずいたと。
(そうして)モモから生まれた、ってんで「モモ太郎」って、名前をつけて、大事に 大事に 育てたと。
モモ太郎は、ごはんを 一杯 食べると、一杯分 ずっくーん 。
ごはんを 二杯 食べると、 二杯分 ずっくーん、ずっくーん。
ごはんを 三杯 食べると、 三杯分 ずっくーん、ずっくーん、ずっくーん と、大きくなって、
あっという間に 大人に なったと。
だけんど、モモ太郎は 図体は でかくなったけど、とんでもない なまけもので、
一日中 原っぱに ねっころがって ずっと 空を ながめていたと。
近所の 若いもんが「たきぎ取りに 行くべ。」って、誘っても、
「わらじが ねえから 行かね。」って、ねっころがったまんま。
「わらじ 持ってきてやったぞ、行くべ。」って、誘っても、今度は、
「鎌(かま)が ねえから 行かね。」って、また ねっころがったまんま。
「鎌(かま) 持ってきてやったぞ、行くべ。」って、誘っても、今度は、
「しょいこが ねえから 行かね。」って、またまた ねっころがったまんま。
「しょいこ 持ってきてやったぞ、行くべ。」って、誘うと、やっと 大きな あくびして、
「しょうがねぇ、行くか。」って、しぶり しぶり(山へ)出かけたと。
山に行っても モモ太郎、なんにも しねぇで、ねっころがって ばっかり。
そんでも、夕方 日が暮れかかると、むくっと 起き上がって、
木の根っこに しょんべん ぶっかけて、木を ゆっさ ゆっさ ゆさぶって、
「えいやー。」って、ひっこぬき、「ほいっ」って、肩にかついで、
「のっし のっし」地ひびき たてて、うちまで 帰ったと。
「ばっさま!・・・たきぎ 取ってきたぞ。 どこに おいたらいい?」
ばぁさまは 出て来て びっくり仰天。
「あんれ、まぁー。そんな でっかい木、たきぎにゃ ならん。枯れるまで その辺 ぶん投げとけ。」
って、いうんで、庭の はじっこに「どさっ」って、ぶん投げて おいたと。
しばらくすると、その木に キジが やって来て
「大変じゃ、モモ太郎。・・・鬼が島の 鬼どもが やってきて、町も村も めちゃくちゃじゃ。
米や味噌は持ってかれるし、・・・モモ子姫も さらわれて しまった。」
それを聞いて モモ太郎は「かっ」と、目を見開いて、叫んだと。
「なにをー!・・・鬼めが!・・・どうして くれよう。」
それからは、すわりこんで、遠くを見ては 考え込み、
そうかと思うと、ねっころがって、空をにらんでは 考え込んでいたと。
そんな日が 何日も続いた ある日、突然 なんか ひらめいたように 立ち上がったと。
「じっさま、ばっさま。・・・おら 鬼が島に行って、鬼を やっつけてくる。」
「なんてことを。」と、じぃさま ばぁさまは 驚いて、なんとか とめようとしたけど、
「おら みんなに 世話になった。・・・今が その恩返しの 時だ。
米や味噌を 取り返して こなきゃ みんな 飢え死にしちまう。
それに モモ子姫を 助けに 行かなきゃ、男が すたる。」
「そっか、そこまで言うんじゃ しょうがない。・・・モモ太郎!・・・男になってこい!」
じぃさまは 無事を祈って、木刀を 作ってくれたと。
ばぁさまは これを食べれば 百人力と、心をこめて、(大きい)キビ団子を 三つ 作ってくれたと。
「モモ太郎、気をつけて 行くんだぞ。・・・無事に 帰って 来るんだぞ。」
じぃさまと ばぁさまに 見送られ、
モモ太郎は ハチマキを(きりっと)締め、ハオリを(びしっと)着込み、木刀を 背中にさし、
腰には キビ団子をぶら下げて、鬼が島に向かって 出発したと。
すると この前の キジがやってきて、
「おい おい、モモ太郎。・・・鬼が島へ行くのか?」
「そうだ、鬼のヤツを やっつけに行く。」
「よーし、オレが 道案内 してやる。」
「それは助かる。」
「そのキビ団子、うまそうだな。・・・ひとつ くんねぇけ。」
「ひとつはやらん。半分こ だ。・・・これを食えば 百人力。」
キジの 道案内で 海に出ると 船が あったと。
「さぁ、この船に 乗って 行こう。」
モモ太郎が「ぎっこら ぎっこら」船を こいで行くと 島が 見えてきたと。
「あれが 犬が島。・・・味方がいる、寄っていこう。」
島に着くと イヌがやってきて、
「おい おい、モモ太郎。・・・鬼が島へ行くのか?」
「そうだ、鬼のヤツをやっつけに行く。」
「おいらも行こう。おいらの鼻は 役に立つ。」
「よーし、ついてこい。」
「そのキビ団子、うまそうだな。・・・ひとつ くんねぇけ。」
「ひとつはやらん。半分こ だ。・・・これを食えば 百人力。」
モモ太郎とイヌが「ぎっこら ぎっこら」船をこいで行くと また 島が 見えてきたと。
「あれが 猿が島。・・・ 味方がいる、寄っていこう。」
島に着くと サルがやってきて、
「おい おい、モモ太郎。・・・鬼が島へ行くのか?」
「そうだ、鬼のヤツをやっつけに行く。」
「おいらも行こう。おいらの身軽さは 役に立つ。」
「よーし、ついてこい。」
「そのキビ団子、うまそうだな。・・・ひとつ くんねぇけ。」
「ひとつはやらん。半分こ だ。・・・これを食えば 百人力。」
モモ太郎と イヌと サルが「ぎっこら ぎっこら」船をこいで行くと、
鬼の角(つの)のような 島が 見えてきたと。
「あれが 鬼が島じゃ。・・・みんな 覚悟はいいか。」
「エイ、エイ、オー!」
船をつけて 島に上がると、まわりは 高いへいで囲まれ、その中に 大きな門があったと。
「よーし、オイラに まかせとけ。」サルが するっするっ って、へいをよじのぼると、
やがて ギーという音がして 門があいたと。
すると 居眠りをしていた 赤鬼と青鬼が 目を覚まし、
「きさまっ!なにものだ!」
「おらは モモ太郎。・・・鬼をやっつけにきた。」
「なにを ちょこざいな!」
鬼が ぶんぶん、金棒をふりまわす。
だけど みんな キビ団子を食べてるから 百人力。
キジは 鬼の顔を 突っつく。ケン、ケーン。
イヌは 鬼の足に かみつく。ウー、ガブッ。
サルは 鬼の体を ひっかく。キャ、キャッ。
鬼は たまらず きりきり舞い。
そこを モモ太郎が 木刀で とどめをさす。
次々に かかってくる 鬼をやっつけ、いよいよ 残るは 鬼の大将だけに なったと。
ところが 鬼の大将、モモ太郎の強さに おそれをなして、
どっかへ 逃げたのか、いくら さがしても 見つかんない。
「モモ子姫!・・・」って、いくら 叫んでも、人質にとられているのか、返事がない。
「よーし、オイラに まかせとけ。」イヌが クンクン かぎ出して、
「ここだ。・・・ここにいる。」とうとう 地下に通じる 秘密のとびらを 探し出したと。
モモ太郎が 戸をあけると、モモ子姫の腕を ぐいっ と つかんで 鬼の大将がいたど。
さすがに 鬼の大将だ。今までの 鬼とは 大違(おおちが)いに 強そうだ。
「おらは モモ太郎だ。・・・モモ子姫を 助けに来た。
子分は みんな やっつけた。・・・残るは 大将。・・・ お前だけだ。」
「グッ グッ グッ。」鬼の大将は 全身を 震わせて 悔しがる。
いきりたつ キジ、イヌ、サルを 押さえて、
「いさぎよく 一騎打ちと いこう。・・・お前たち 手を出すな。」
二人の戦いが 始まった。一進一退の攻防戦。
見ている キジ、イヌ、サルは はらはら どきどき。
鬼の大将は 強かった。
だけど キビ団子を食べた モモ太郎は もっと 強かった。
「メーーーン!」
最後は 気合い 一閃(いっせん)モモ太郎の 面が決まったど。
鬼の大将、額から 血を流し どっさと 倒れこむ。
「やった!(キジ)やった!(イヌ)やった!(サル)」
モモ太郎は モモ子姫に かけ寄って、縄をとく。
「無事でよかった。モモ子姫!」
「ありがとう。モモ太郎!」
鬼が持ってた 大きな船に 米や味噌、その他 金、銀、小判を 山と 乗せ、
モモ太郎は モモ子姫を抱きかかえ、イヌ、サルを両側に従えて、鬼が島を あとにする。
(途中)猿が島で サルを降ろし、「サルさん、お世話になりました。」
犬が島で イヌを降ろし、「イヌさん、お世話になりました。」
あとは 故郷(くに)への 帰りを まっしぐら。
モモ太郎は 故郷(くに)に帰ると、お殿さまに 見込まれて、モモ子姫の婿(むこ)になったど。
(そ)んで、おじいさん おばあさんを お城に呼んで、みんな 幸せに 暮らしたとさ。
めでたし、めでたし。
参考にした本(リメイクするのに もっともベースにしたのは 文・代田(しろた)昇 絵・ 箕田 源二郎 講談社 2005年
)
<物語>
「ももの子たろう」 文・大川 悦生 絵・箕田 源二郎 ポプラ社 1967年
「おとぎのはなし」日本むかしむかし 6 (桃の子太郎 川崎 大治) 童心社 1968年
「ももたろう」 文・舟崎 克彦 絵・石倉 欣二 講談社 1979年
「ももたろう」 文・絵・高橋 宏幸 1923年生 岩波書店 1983年
「ももたろう」 世界名作物語 4 監修・円地 文子 集英社 1983年
「ももたろう」 文・竹崎 有斐 1923年生 絵・渡辺 三朗 偕成社 1990年
「ももたろう」 文・赤座 憲久 1927年生 絵・小沢 良吉 小峰書店 1991年
「桃太郎」 文・千葉幹夫 絵・斉藤 五百枝(いおえ) 講談社 2001年
「ももたろう」 文・松岡 節 絵・二俣 英五郎 ひかりのくに2002年
「ももたろう」 文・松谷 みよ子 絵・瀬川 康男 フレーベル館 2002年
「桃太郎 日本の昔ばなし Ⅱ 」関 敬吾 編 岩波書店 2002年
「ももたろう」 文・長谷川 摂子 1944年生 絵・はたこうしろう 岩波書店 2004年
「ももたろう」 文・水谷 章三 絵・杉田 豊 ワンダー民話館 2005年
「ももたろう」 文・代田(しろた)昇 絵・ 箕田 源二郎 講談社 2005年
「ももたろう」 文・長崎 桃子 絵・小林 豊 くもん出版 2006年
「ももたろう」 文・松谷 みよ子 絵・和歌山 静子 童心社 2006年 ハチ、石臼、牛の糞も応援
「ももたろう」 文・絵・五味 太郎 絵本館 2007年
「ももたろう」 文・絵 いもとようこ 金の星社 2008年
「桃太郎」日本のむかし話 8 坪田譲治 偕成社文庫 2008年
「ももたろう」 文・広松由希子 1963年生 絵・伊藤 秀男 岩崎書店 2009年
「ももたろう」 文・山下 明生 絵・加藤 休ミ あかね書房 2009年
「ももたろう」 文・市川宣子 絵・長谷川 義史 小学館 2010年
「ももたろう」 日本語・中村とも子 英語・鈴木小百合 ラボ教育センター CD付 2011年
「桃太郎」日本の昔話 小沢俊夫 絵・長野ヒデ子 小峰書店 2011年
「ももたろう」 文・石崎洋司 1958年生 絵・武田美穂 講談社 2012年
「ももたろう」 文・こわせ たまみ 絵・高見 八重子 鈴木出版 2012年
「そのごのももたろう」 木村みち治 ミリオン書房 1989年
「昔噺 きりがみ 桃太郎」 安野 光雅 岩崎美術社 1996年
「桃太郎」 芥川龍之介 絵・寺門孝之 ビエ・ブックス 2005年
「誰も知らない桃太郎 かぐや姫のすべて」 明拓出版 2009年
<参考書>
「桃太郎の誕生」 柳田 国男 角川文庫 1951年 昭和26年
「桃太郎像の変容」 滑川 道夫 東京書籍 1981年 昭和56年
「桃太郎の運命」 鳥越 信 NHKブックス 1983年 昭和58年
「桃太郎伝説の謎」 山陽新聞社編集局 1995年
「新・桃太郎の誕生」 野村 純一 吉川弘文館 2000年 平成12年
<関連本>
「桃から生まれた桃太郎」 向田 邦子 文春文庫
今日は「モモ太郎」やっかんな。
オレが ちっちゃい頃、ばあちゃんから 聞いたハナシだ。
おめぇーらが 学校で聞いたハナシと ちょっと違うとこ あっかもしんねぇけど、
こういう モモ太郎も あるんだって 思って 聞いてくれや。
むかし、むかし、あるところに、じぃさまと ばぁさまが 二人っきりで 暮らしていたと。
ある日 じぃさまは「よっこら よっこら」山へ たきぎ取りに 出かけたと。
ばぁさまは「どっこら どっこら」川へ 洗濯に 出かけたと。
ばぁさまが、「じゃぶ じゃぶ」洗濯をしていると、川の上から、大きなモモが、
「どんぶら こっこ、どんぶら こっこ」流れてきたど。
「甘い モモなら、こっちこい。・・・苦い モモなら、あっちいけ。」って、歌っていると、
「どんぶら こっこ どんぶら こっこ」こっちに 流れて 来たと。
「おぅ おぅ、うまそうなモモだこと。・・・じいさんと 一緒に 食(た)べっぺ。」
「ほいさか ほいさか」うちへ 帰ったと。
夕方、じぃさまが 帰ってきて、ばぁさまが モモを 見せてあげたと。
「おぅ おぅ、これは みごとな モモじゃ。」
じぃさまが モモを手に取ろうとすると、「ぱかっ」って、ひとりでに 割れて、
「ほぎゃあー ほぎゃあー」
中から ちんちんつけた 赤ん坊が 生まれてきたと。
じぃさまは びっくりして、しりもちつきながら、
「これは 天からの 授かりものじゃ。・・・なぁ、ばあさんや。」
「うん。」と、ばぁさまは こくりと うなずいたと。
(そうして)モモから生まれた、ってんで「モモ太郎」って、名前をつけて、大事に 大事に 育てたと。
モモ太郎は、ごはんを 一杯 食べると、一杯分 ずっくーん 。
ごはんを 二杯 食べると、 二杯分 ずっくーん、ずっくーん。
ごはんを 三杯 食べると、 三杯分 ずっくーん、ずっくーん、ずっくーん と、大きくなって、
あっという間に 大人に なったと。
だけんど、モモ太郎は 図体は でかくなったけど、とんでもない なまけもので、
一日中 原っぱに ねっころがって ずっと 空を ながめていたと。
近所の 若いもんが「たきぎ取りに 行くべ。」って、誘っても、
「わらじが ねえから 行かね。」って、ねっころがったまんま。
「わらじ 持ってきてやったぞ、行くべ。」って、誘っても、今度は、
「鎌(かま)が ねえから 行かね。」って、また ねっころがったまんま。
「鎌(かま) 持ってきてやったぞ、行くべ。」って、誘っても、今度は、
「しょいこが ねえから 行かね。」って、またまた ねっころがったまんま。
「しょいこ 持ってきてやったぞ、行くべ。」って、誘うと、やっと 大きな あくびして、
「しょうがねぇ、行くか。」って、しぶり しぶり(山へ)出かけたと。
山に行っても モモ太郎、なんにも しねぇで、ねっころがって ばっかり。
そんでも、夕方 日が暮れかかると、むくっと 起き上がって、
木の根っこに しょんべん ぶっかけて、木を ゆっさ ゆっさ ゆさぶって、
「えいやー。」って、ひっこぬき、「ほいっ」って、肩にかついで、
「のっし のっし」地ひびき たてて、うちまで 帰ったと。
「ばっさま!・・・たきぎ 取ってきたぞ。 どこに おいたらいい?」
ばぁさまは 出て来て びっくり仰天。
「あんれ、まぁー。そんな でっかい木、たきぎにゃ ならん。枯れるまで その辺 ぶん投げとけ。」
って、いうんで、庭の はじっこに「どさっ」って、ぶん投げて おいたと。
しばらくすると、その木に キジが やって来て
「大変じゃ、モモ太郎。・・・鬼が島の 鬼どもが やってきて、町も村も めちゃくちゃじゃ。
米や味噌は持ってかれるし、・・・モモ子姫も さらわれて しまった。」
それを聞いて モモ太郎は「かっ」と、目を見開いて、叫んだと。
「なにをー!・・・鬼めが!・・・どうして くれよう。」
それからは、すわりこんで、遠くを見ては 考え込み、
そうかと思うと、ねっころがって、空をにらんでは 考え込んでいたと。
そんな日が 何日も続いた ある日、突然 なんか ひらめいたように 立ち上がったと。
「じっさま、ばっさま。・・・おら 鬼が島に行って、鬼を やっつけてくる。」
「なんてことを。」と、じぃさま ばぁさまは 驚いて、なんとか とめようとしたけど、
「おら みんなに 世話になった。・・・今が その恩返しの 時だ。
米や味噌を 取り返して こなきゃ みんな 飢え死にしちまう。
それに モモ子姫を 助けに 行かなきゃ、男が すたる。」
「そっか、そこまで言うんじゃ しょうがない。・・・モモ太郎!・・・男になってこい!」
じぃさまは 無事を祈って、木刀を 作ってくれたと。
ばぁさまは これを食べれば 百人力と、心をこめて、(大きい)キビ団子を 三つ 作ってくれたと。
「モモ太郎、気をつけて 行くんだぞ。・・・無事に 帰って 来るんだぞ。」
じぃさまと ばぁさまに 見送られ、
モモ太郎は ハチマキを(きりっと)締め、ハオリを(びしっと)着込み、木刀を 背中にさし、
腰には キビ団子をぶら下げて、鬼が島に向かって 出発したと。
すると この前の キジがやってきて、
「おい おい、モモ太郎。・・・鬼が島へ行くのか?」
「そうだ、鬼のヤツを やっつけに行く。」
「よーし、オレが 道案内 してやる。」
「それは助かる。」
「そのキビ団子、うまそうだな。・・・ひとつ くんねぇけ。」
「ひとつはやらん。半分こ だ。・・・これを食えば 百人力。」
キジの 道案内で 海に出ると 船が あったと。
「さぁ、この船に 乗って 行こう。」
モモ太郎が「ぎっこら ぎっこら」船を こいで行くと 島が 見えてきたと。
「あれが 犬が島。・・・味方がいる、寄っていこう。」
島に着くと イヌがやってきて、
「おい おい、モモ太郎。・・・鬼が島へ行くのか?」
「そうだ、鬼のヤツをやっつけに行く。」
「おいらも行こう。おいらの鼻は 役に立つ。」
「よーし、ついてこい。」
「そのキビ団子、うまそうだな。・・・ひとつ くんねぇけ。」
「ひとつはやらん。半分こ だ。・・・これを食えば 百人力。」
モモ太郎とイヌが「ぎっこら ぎっこら」船をこいで行くと また 島が 見えてきたと。
「あれが 猿が島。・・・ 味方がいる、寄っていこう。」
島に着くと サルがやってきて、
「おい おい、モモ太郎。・・・鬼が島へ行くのか?」
「そうだ、鬼のヤツをやっつけに行く。」
「おいらも行こう。おいらの身軽さは 役に立つ。」
「よーし、ついてこい。」
「そのキビ団子、うまそうだな。・・・ひとつ くんねぇけ。」
「ひとつはやらん。半分こ だ。・・・これを食えば 百人力。」
モモ太郎と イヌと サルが「ぎっこら ぎっこら」船をこいで行くと、
鬼の角(つの)のような 島が 見えてきたと。
「あれが 鬼が島じゃ。・・・みんな 覚悟はいいか。」
「エイ、エイ、オー!」
船をつけて 島に上がると、まわりは 高いへいで囲まれ、その中に 大きな門があったと。
「よーし、オイラに まかせとけ。」サルが するっするっ って、へいをよじのぼると、
やがて ギーという音がして 門があいたと。
すると 居眠りをしていた 赤鬼と青鬼が 目を覚まし、
「きさまっ!なにものだ!」
「おらは モモ太郎。・・・鬼をやっつけにきた。」
「なにを ちょこざいな!」
鬼が ぶんぶん、金棒をふりまわす。
だけど みんな キビ団子を食べてるから 百人力。
キジは 鬼の顔を 突っつく。ケン、ケーン。
イヌは 鬼の足に かみつく。ウー、ガブッ。
サルは 鬼の体を ひっかく。キャ、キャッ。
鬼は たまらず きりきり舞い。
そこを モモ太郎が 木刀で とどめをさす。
次々に かかってくる 鬼をやっつけ、いよいよ 残るは 鬼の大将だけに なったと。
ところが 鬼の大将、モモ太郎の強さに おそれをなして、
どっかへ 逃げたのか、いくら さがしても 見つかんない。
「モモ子姫!・・・」って、いくら 叫んでも、人質にとられているのか、返事がない。
「よーし、オイラに まかせとけ。」イヌが クンクン かぎ出して、
「ここだ。・・・ここにいる。」とうとう 地下に通じる 秘密のとびらを 探し出したと。
モモ太郎が 戸をあけると、モモ子姫の腕を ぐいっ と つかんで 鬼の大将がいたど。
さすがに 鬼の大将だ。今までの 鬼とは 大違(おおちが)いに 強そうだ。
「おらは モモ太郎だ。・・・モモ子姫を 助けに来た。
子分は みんな やっつけた。・・・残るは 大将。・・・ お前だけだ。」
「グッ グッ グッ。」鬼の大将は 全身を 震わせて 悔しがる。
いきりたつ キジ、イヌ、サルを 押さえて、
「いさぎよく 一騎打ちと いこう。・・・お前たち 手を出すな。」
二人の戦いが 始まった。一進一退の攻防戦。
見ている キジ、イヌ、サルは はらはら どきどき。
鬼の大将は 強かった。
だけど キビ団子を食べた モモ太郎は もっと 強かった。
「メーーーン!」
最後は 気合い 一閃(いっせん)モモ太郎の 面が決まったど。
鬼の大将、額から 血を流し どっさと 倒れこむ。
「やった!(キジ)やった!(イヌ)やった!(サル)」
モモ太郎は モモ子姫に かけ寄って、縄をとく。
「無事でよかった。モモ子姫!」
「ありがとう。モモ太郎!」
鬼が持ってた 大きな船に 米や味噌、その他 金、銀、小判を 山と 乗せ、
モモ太郎は モモ子姫を抱きかかえ、イヌ、サルを両側に従えて、鬼が島を あとにする。
(途中)猿が島で サルを降ろし、「サルさん、お世話になりました。」
犬が島で イヌを降ろし、「イヌさん、お世話になりました。」
あとは 故郷(くに)への 帰りを まっしぐら。
モモ太郎は 故郷(くに)に帰ると、お殿さまに 見込まれて、モモ子姫の婿(むこ)になったど。
(そ)んで、おじいさん おばあさんを お城に呼んで、みんな 幸せに 暮らしたとさ。
めでたし、めでたし。
参考にした本(リメイクするのに もっともベースにしたのは 文・代田(しろた)昇 絵・ 箕田 源二郎 講談社 2005年
)
<物語>
「ももの子たろう」 文・大川 悦生 絵・箕田 源二郎 ポプラ社 1967年
「おとぎのはなし」日本むかしむかし 6 (桃の子太郎 川崎 大治) 童心社 1968年
「ももたろう」 文・舟崎 克彦 絵・石倉 欣二 講談社 1979年
「ももたろう」 文・絵・高橋 宏幸 1923年生 岩波書店 1983年
「ももたろう」 世界名作物語 4 監修・円地 文子 集英社 1983年
「ももたろう」 文・竹崎 有斐 1923年生 絵・渡辺 三朗 偕成社 1990年
「ももたろう」 文・赤座 憲久 1927年生 絵・小沢 良吉 小峰書店 1991年
「桃太郎」 文・千葉幹夫 絵・斉藤 五百枝(いおえ) 講談社 2001年
「ももたろう」 文・松岡 節 絵・二俣 英五郎 ひかりのくに2002年
「ももたろう」 文・松谷 みよ子 絵・瀬川 康男 フレーベル館 2002年
「桃太郎 日本の昔ばなし Ⅱ 」関 敬吾 編 岩波書店 2002年
「ももたろう」 文・長谷川 摂子 1944年生 絵・はたこうしろう 岩波書店 2004年
「ももたろう」 文・水谷 章三 絵・杉田 豊 ワンダー民話館 2005年
「ももたろう」 文・代田(しろた)昇 絵・ 箕田 源二郎 講談社 2005年
「ももたろう」 文・長崎 桃子 絵・小林 豊 くもん出版 2006年
「ももたろう」 文・松谷 みよ子 絵・和歌山 静子 童心社 2006年 ハチ、石臼、牛の糞も応援
「ももたろう」 文・絵・五味 太郎 絵本館 2007年
「ももたろう」 文・絵 いもとようこ 金の星社 2008年
「桃太郎」日本のむかし話 8 坪田譲治 偕成社文庫 2008年
「ももたろう」 文・広松由希子 1963年生 絵・伊藤 秀男 岩崎書店 2009年
「ももたろう」 文・山下 明生 絵・加藤 休ミ あかね書房 2009年
「ももたろう」 文・市川宣子 絵・長谷川 義史 小学館 2010年
「ももたろう」 日本語・中村とも子 英語・鈴木小百合 ラボ教育センター CD付 2011年
「桃太郎」日本の昔話 小沢俊夫 絵・長野ヒデ子 小峰書店 2011年
「ももたろう」 文・石崎洋司 1958年生 絵・武田美穂 講談社 2012年
「ももたろう」 文・こわせ たまみ 絵・高見 八重子 鈴木出版 2012年
「そのごのももたろう」 木村みち治 ミリオン書房 1989年
「昔噺 きりがみ 桃太郎」 安野 光雅 岩崎美術社 1996年
「桃太郎」 芥川龍之介 絵・寺門孝之 ビエ・ブックス 2005年
「誰も知らない桃太郎 かぐや姫のすべて」 明拓出版 2009年
<参考書>
「桃太郎の誕生」 柳田 国男 角川文庫 1951年 昭和26年
「桃太郎像の変容」 滑川 道夫 東京書籍 1981年 昭和56年
「桃太郎の運命」 鳥越 信 NHKブックス 1983年 昭和58年
「桃太郎伝説の謎」 山陽新聞社編集局 1995年
「新・桃太郎の誕生」 野村 純一 吉川弘文館 2000年 平成12年
<関連本>
「桃から生まれた桃太郎」 向田 邦子 文春文庫
かなり前のことだけれど楽しみながら
リメイクしたことを思い出しました。
気がついたと思うけど、(ピーチ姫が出てくるから)
マリオが頭にありました。
マリオのテーマミュージックが聞こえてくるような
お話にしてみたいと。
鬼はもちろんクッパです。
マリオを知らないとなにを言ってるかわかんないですね。
関連本がたくさんあるので驚いたでしょ。
どんなモモタロウになっているか知りたくて
図書館で借りました。
全部目は通したけど、実際に読んだ本はわずかです。
私は以前、松居直さんが再話した絵本の『ももたろう』を語ったことがあるのですが
これは失敗・・・赤羽末吉さんの絵があっていきてくる桃太郎のテキストだったと思いました。
なので、絵本で覚えた文章は残念ながら捨てました・・・
最近読んだのは、小沢俊夫が標準語で書いた「ももたろう」ですが、
これはakiraさんのリメイクしたものと似ており、桃太郎はズボラな男の子でした。
けれど、標準語だとさっぱりしすぎているので
私も適度に方言が入っているテクストを選ぼうと思います。
西郷竹彦さんって恥ずかしながら知りませんでした。
底本にしたおはなしはどの本に入っていましたか、よかったら教えてください。
それにしてもakiraさん、勉強熱心!
ちゃんとももたろうのテクストや絵本を集めて比較しているなんて。
私も比較は大事だと思っています。
おはなしの印象がだいぶ変わりますものね。
リズミカルな音とかを意識してテクストを編んでいるのか、響きが心地いいです。面白い!!
まだ私自身がリメイクするのは難しいですが、テクスト選びは慎重になりたいとお思います。
一度選ぶのに失敗しているので(^_^;)