失敗とはなんぞや?
間違い、てどんなこと?
そういう問いかけに、私はこう答えたい。
失敗は幸運の元、
間違いは幸運の種。
本当に私があの時あの道を正しく進んでいったなら、
私はバーゼルについてこんな美味しいお寿司にはありつけなかった。
ついてから1時間も経たないうちに。(写真上)
いやはや、人生は旅のようで、旅は人生のようで・・・・。
前振りが長すぎ?
そう、フライブルグから本の30分でバーゼルに着いた。
つまりドイツからスイスに国境を越えたのだ。
スイスこそ本当に安心して旅が出来る場所、と信じていた私は
自信を持って
「トラム乗り場はこっちの出口ね」と娘を誘導した。
そして、何の不安もなくエレベータで地上に降りようとしたとき、
そのエレベータにステキな東洋人のご婦人が乗っていた。
横には背の高い外人がいて、ご夫婦なのはすぐ察しがついた。
東洋人の母・娘が大きな荷物を引きずって乗り込んできたのが
チャーミングだったのか、変すぎたのか、
背の高い外人のおじさんが、
「コンバンワ」と声をかけてきたのだ。
えー、日本語上手、と思った瞬間、
確立90%に近い予想で、「あの、日本人の方ですか?」と
女性の方にとっさに聞いてしまったのだ。
この軽薄さがたまらない、自分でも。
さて、その女性は「そうですよ」という。
「ここは駐車場のエレベータよ」とすぐ付け加えてくれたのだ。
「え、そうなんですか、トラムのある出口じゃないんですか」
というと、「それなら私たちが今から行こうとしている方面だから
一緒に行きましょう」と言ってくれたのだ。
なんだか、この旅では優しい人ばかりに出会う。
ストレンジャー母子としては、
道を教えてくれる人は皆、天使に見える。
反対の出口へ進む道中は決して短くない。
バーゼルが都会であることはすぐ分かった。
さて、いろいろ話しながら歩くうちに、
なんだか、楽しげな雰囲気になっていった。
さて、ホテルへは6番に乗ってホテルに行くことは調べてあった(今度は)ので、
そのことを話すと、
どうやら、6番のトラムは駅前から出ていないので、
なにやらどこかで乗り換えなければならないと、教えてくれた。
「分かりました、じゃ、いっそのことタクシーで行っちゃいます」と
タクシーが乗り場に止まっているのが見えたので、
そう言って別れようとすると、
女性は「夫が一緒に日本食を食べに行きませんか?といっているけれど、
どうしますか?」と聞いてきた。
電車の中で節約をかねてパンを食べたばかりじゃん、とんでもない!と思い
丁寧にお断りしようとした瞬間、
娘が横で「行きたい、食べに行きたい!」と言い出した。
「夫が食べてからでよければ、車で送ってあげるよ、と言っているし」
とひと押しもあり、当然、その魅惑的な提案には抵抗できず、
本当にレストランへと赴くことに。
いやあ、旅っていいですねえ。
と思うのはこんな瞬間でもあるが、パンを食べなきゃよかった、と
思ったのも事実だ。
さて、「じゃ、私はパンをかじったばかりなので、
飲むのを中心でおつまみといきましょうかねえ」などと、
のたもうていた。
初対面の人に飲んべえさん、であることをあっさりばらしてしまうなんて、
わ、わたしってどうかしている!
しまった、と思ったが、遅かった。
「わたしは飲めないのよ」とおくさん。
「あ、いえいえ、じゃ、飲みに入るのはやめて、ちゃんと食べます」
と言ってしまった(そっちのが失敗だったかも)。
で、武士ではないが、武士に2言はない、ので
上の写真のようなお寿司を食べたのだ。
確か、「江戸っ子寿司」だったかな。
写真ではわかりづらいけれど、エビ天が入っていて、
天むすの親戚のような巻物が美味しかった。
衣もさくさくしててね。
(写真は店内の様子)
娘は「卵とじうどん」という。
「えー、なんでそんなものを」と思ったが、値段を見ると
お寿司より4ユーロくらい安い。
そうか、親孝行な娘、と思いなおして、
「分かった、うどんでいいのね」と了解した。
でも、待てよ、卵とじうどんが17ユーロ、う、
それって、うどんのぶんざいで3千円弱するのね、
えー、と考え直す。
「うどんより、寿司のがいいんじゃない、せっかくだから
ママの財布気にしなくてもいいのよ」と言うと、
「うどんが食べたいんだもん」という。
で、私はビールを頼み、我が家はざっと42ユーロ、なり、ということろ。
ただ、ここはユーロじゃなくて、スイスフランを使うんだった、と気づく。
なーんだ、あのうどん約1700円なんじゃん、とほっとした。
【注:1ユーロ=約160円、のつもりで計算。1スイスフラン=約100円の計算】
フランの手持ちがなかったので、
「すいません、フランを今、持ってないので、
カードで払わせて下さい。
そちらの分をフランをいただけるとこちらも助かります」
と申し出た。
すると、
「夫が全部払いたい、といっているから、
ここはこちらにごちそうさせて」という。
あ、あ、あ、ありえない。
こんな、話。
かなり、抵抗して払おうとすると、
「スイスではことばの裏などかく必要ないのよ。
本当に、できること、したいことしか申し出たりしないから」
と諭された。
日本に帰ってからお礼に何か送ろうと思って住所を聞いたら、
「なんかお礼するとか、そんな風に思うこともないのよ」と
教えくれない。
「あ、じゃ、お礼はしませんけど、お手紙くらいは書かせて下さい」と
言って、ようやく住所をいただけた。
しかも、ことば通り、車で送って下さり、
本当に助かったばかりでなく、身に余る幸運がこの身にふりかかっていることは
確実に理解できた。
メルキュール・ヨーロッパ(ホテル)に着くと、
奥さんの方から
「週末は予定があってバーゼルの町をご案内できなくて残念だわ、
でも、もしよろしければ月曜、うちに遊びにいらして、
テラスがとっも気持ちいいのよ」と申し出があった。
「そちらのご予定もおありでしょうから、
週明けに電話するわね、ホテルに」と
ホテルの電話番号と部屋の番号を控えて、去っていった。
なんて幸せな出会いだろう、
本当に本当に、親切から言ってくれているのが、
雰囲気で分かる。
ご夫婦には3人の娘さんがいるという。
その娘さんは全員、それぞれ独立して(未婚だが)いて
一緒には住んでいないとか。
子どもが好きでたまらない様子で、
どうやら娘を気に入ってもらえたようだ。
子連れ旅行でなければありえない。この幸運は・・・。
だって、誰が40過ぎのおばさんにここまで優しくしてくれようか。
奥さんは食事中もこう言っていた。
「今のうちに子どもとはべたべたしておきなさいね。
あっという間に巣立ってしまうから。私なんか、子どもの肌の感触やら
笑顔やら、こどものことなら些細なことでも全部覚えているのよ」と。
ありがとよ、娘。
本当に、遠慮ない子どもらしいその態度が、ご夫婦の心を捕らえたようだった。
寿司を食べず、うどんを食べたところも
二人の心をぐっとわしづかみしたのかも・・・。
よーく分からないが、”この幸運”に感謝だけは忘れなかった。
娘は「パパみたいないい人(オジサンをさしていた)が
他にもいるんだね、パパ以上にいい人かも」などと、無邪気に喜んでいた。
夫が聞いたら、嬉しいだろうか悔しいだろうか、とふと考えた。