のんのん太陽の下で

初めての一人暮らしが「住民がいるんだ・・・」と思ったラスベガス。
初めての会社勤めが「夢を売る」ショービジネス。

ゆくゆくはくちびるに

2006-06-08 | KA
双子の男の子の代役として入ってきたパンは少しずつ本番を経験しています。一週間に一つずつシーンを増やして影絵まできました。次はキャピティビティー、私のソロがあるシーンです。あとからわかったことですが、今日本番デピューさせようと思っていたみたいです。ステージでの練習を一回だけして・・・
トレーニングルームでの練習を最後にしたのはいつのことでしょう。もうだいぶ前のことだと思います。今日のステージでの練習は、客席に数人“お客さん”がいたらか、久しぶりだったからかうまくいきませんでした。戦うシーンは力強く生き生きしているのに、私にフルートを預けに来るところまではできているのに、私に触れなければならない瞬間から彼にはまだ大きな壁があるようでした。手にキスをすることもできなくなっていました。
ステージマネージャーが「このシーンは、フルートを見て妹を思い出し、どうしても探し出さないといけない、助けないといけない、ということをお客さんに伝えないといけないシーンで、大事なシーンです。いや、一番大事なシーンかもしれない。」それを聞いた私はドキッとしました。「ノリコを信じ大事なフルートを預け、手に触れた瞬間に彼女への思いを感じ、心にそれが触れた彼女が踊りだすのだから・・・短い中にあるたくさんの意味を言葉無しに伝えることは難しいけれどあなたはそれをやらなくてはいけない。」
今日、本番の舞台を踏ませようと思っていたことを知ったのはこの後でした。いつもは新しいアーティストを私には充分と思えない練習の数で本番に出してしまいますが、今日はそれをしませんでした。大切に思っていてくださるシーンだからこそそうしてくださったのだと感じました。
それでも会社は早くパンにすべてのシーンに出てもらいたいようで、ショーとショーの合間に彼と練習をする時間を設けて欲しいといわれました。人目があると彼にとっては難しいようなのでまずは小さな部屋でしよう、と。
部屋に入ったとたんにアーティスティックコーディネーターのエリックから予想していなかったことを言われました。「手にキスをして彼女への思いを表現することはできる。でもやはりくちびるにすることのほうが強さがある。時間をかけ、慣れてきてからでいいことだがゆくゆくはくちびるにキスをして欲しい。」私には一つ疑問がありました。私の代役はそれを拒み毎回手にキスを受けています。彼女にはそれを許しどうしてパンには強いるのか。その理由はここには書かないほうがいいと思いますが、おもしろい理由でありながら納得するものでした。
そして、小さな部屋で練習。パンと私のほかにエリックとパンの通訳をしてくれる中国人のアーティスト、バイグーがいました。バイグーはチャイニーズオペラ出身なので演技のことを良くわかっていて、エリックからの言葉以上にパンに説明してくれました。私は本気で本番と同じにやらないとパンができないことがわかっていたので、心の中のドキドキを見せないように“演技”しました。でも本当は私にはこの部屋は本当に小さすぎてとてもとても恥ずかしかったです。
彼は一回一回、何かを剥いでいくかのように気合を入れ、気持ちを整えながらやっていました。良くなっていくのが目に見えてわかり、頼もしく思えました。彼のお蔭で私も成長できます。