まず、最初にジョアン・ジルベルトのお話しを。
ボサ・ノヴァと云えば私的には、やはり何と言ってもジョアン・ジルベルト。
(以下、「ジョアン」と書きます)
ジョアン (João Gilberto 1931年6月10日 - )は、バイーア州ジュアゼイロ
の出身。
彼は、シンガー・ソングライター、ギタリストで、作詞家の
ヴィニシウス・ヂ・モライスやアントニオ・カルロス・ジョビンなどと共に、
ボサ・ノヴァの創始者です。(ナラ・レオンやルイス・ボンファもボサ・ノヴァ創作
にかかわっていると云われています)
アントニオ・カルロス・ジョビン(以下、「ジョビン」と書きます)が作曲し、
ヴィニシウス・ヂ・モライスが作詞したシェカ・ジ・サウダージ
(Chega De Saudade)「想いあふれて」は、 最初のボサ・ノヴァ曲と言われています。
1959年にジョアンがこの曲をギターで弾き歌って録音したレコードが、
リオ・デ・ジャネイロを中心に大ブレイクし、その後世界中でヒットして広まりました。
ジョアンが28歳の時です。
シェカ・ジ・サウダージは、彼のレコーディングの前に、1958年に女性歌手で
エリゼッチ・カルドーゾが歌ってレコーディングしています。その時にジョアンが
ギターを演奏していますが、エリゼッチの歌い方はジョビンやジョアンがイメージ
するものとは異なっていて、そこでジョビンがレコード会社を説得してジョアンが
歌って録音し発売されたのでした。
1960年代に入るとボサ・ノヴァの人気がじわりと出始め、アメリカのポップス系、
ジャズ系のアーティストは、ボサ・ノヴァを取り上げるようになりました。
1962年には、ニューヨークのカーネギー・ホールにボサ・ノヴァを歌う・演奏
するアーティストが集まり歴史的なライブが行われ、いよいよその人気は頂点に
達しました。
その後、1963年にスタン・ゲッツを迎えてリリースしたレコード、
ゲッツ/ジルベルト (Getz/Gilberto) は、「イパネマの娘」や「コルコバード」を
当時 ジョアンの妻アストラッド・ジルベルトが英語で歌い世界中で大ヒットして
ボサ・ノバというジャンルを世界が認める事となりました。
このLPでは、「イパネマの娘」はイントロからすぐにジョアンがポルトガル語で
歌い間奏後アストラッド・ジルベルトが英語で歌っている5分超のが収録されて
いますが、プロデューサーのクリード・テイラーは、ラジオで放送可能な長さに
無断でカットしてシングル・レコードでも売り出しました。
こうして、ジョアンのヴォーカル・パートが消され、アストラッドのヴォーカルが
「イパネマの娘」の声として、世界中に広まることになったのです。
ジョアンはたいへん怒ったそうです。
※ジョアンが創作したボサ・ノヴァのギター演奏スタイル
ジョアンが何日もずっとバスルームにこもってボサ・ノバをギターで弾く練習
をして、そのリズムをあみだしたと云われています。彼が作ったボサ・ノバ独特
のリズムパターンは、バチーダと云われるギター奏法で弾かれます。
基本、親指で6弦から4弦のベース音を弾き、小指を除くその他の指で1弦から3弦
を弾きます。1弦をまったく弾かない場合が多くあります。
4/4拍子で2小節を一つのリズムパターンにしています。リズムの刻み方は数種類あります。
前の1小節と後ろの1小節をつなぐ時のつまづくようなリズムをシンコペーションと
ボサ・ノバではいいます。
現在も彼が作ったこのリズムの取り方を殆どのミュージッシャンが踏襲しています。
なお、ジョアン自身は、「ボサ・ノヴァを歌っているとは、少しも思っていない。
自分が歌っているのはサンバだ」と常々言っているそうです。
ボサ・ノヴァの創始者の1人であるジョアンは、自身ではまったくそのことに
こだわっていません。
ボサ・ノヴァ以前の古い曲から、若いミュージシャンの曲まで取り上げて歌い
続けています。
では、私のジョアン・ジルベルトのレコードコレクションのお話しを。
私が収集したジョアン・ジルベルトのレコードのなかで、どうしても収集
したかったジョアン・ジルベルトのLPレコードの三枚。
(再発盤ではなく初版製造のオリジナル盤)
現在では、ジルベルトの初期三部作と云われています。彼が28歳~30歳の
時の録音です。
これらのオリジナル盤は、現在では、かなり入手困難で希少です。
● Chega De Saudade (日本でのタイトル「想いあふれて 」)1959年作品
Brasil ODEON MOFB 3073 MONO
ジョアンのデビュー・アルバムにして、ボサノヴァ作品の記念碑的レコードです。
22歳の時にブラジルを旅行してレコード店で購入しました。
● Amor, O Sorriso E A Flor (日本でのタイトル「愛と微笑みと花」)1960年作品
Brasil ODEON MOFB 3151 MONO
「One Note Samba」「A Hug for Bonf'」「Meditation」「Corcovado」など、
ボサノヴァの代表曲が収録されています。
大阪にあったボサ・ノヴァなどラテンアメリカのレコードを専門に扱うお店で
探してもらうようにお願いして入手しました。
● João Gilberto (日本でのタイトル「ジョアン・ジルベルト」)1961年作品
Brasil ODEON MOFB 3202 MONO
「Saudade da Bahia(バイーアの郷愁)」や「Insensatez (お馬鹿さん)」など
素晴しい出来です。正に名盤と呼べるアルバムです。
東京のジャズレコード専門店で入手しました。
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これら三部作の全曲と、シングルのみの作品を収録したCDアルバムをジョアンの許諾を
得ずに、レコード会社が発売しました。
タイトルは、JOAO GILBERTO / "THE LEGENDARY JOAO GILBERTO" (1990)
ベスト盤として各曲を途中でフェードアウトしたりして短くして発売したことを
ジョアンが怒り提訴し、廃盤になっています。
そして、現在Warm World Of Joao Gilberto - Complete Recordings 1958 - 1961
というCDが発売されています。
このCDは、ジョアン・ジルベルトの最初期1958-1961年に録音されたコンプリートな
録音全39曲を24ビット・デジタル・リマスターで蘇らせた新編集盤です。
Chega de Saudade(1959)"、"Joao Gilberto(1959年の33回転シングル)"、
"O amor, o sorriso e a flor(1960)"、 "Joao Gilberto(1961)"の4枚の
アナログから全曲に、オリジナル・アルバム未収録の1曲をプラスしています。
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最後にジョアンの映像を。娘のベベウ・ジルベルトと一緒に歌っているライブ映像で、
曲は、Chega De Saudade。
ベベウ・ジルベルトは、ジョアンがアストラッドとの離婚後、歌手のミウシャ
(シコ・ブアルキの実姉)と結婚して生まれた娘さんで、現在も歌手活動しています。