2022年12月30日にNHKにて放送された時代劇『まんぞくまんぞく』
池波正太郎の原作小説をベースに、主人公の女剣客と青年武士との恋模様を描いた青春時代劇でした。
主人公を演じた石橋静河さんの「眼」が良かった。強くてなおかつ純真さを感じさせる瞳。役にぴったりでした。
所作などもちゃんとしていたように思う。食事のシーンなど、箸を持つ仕草から飯を食べる一連の動作まで、かなりしっかりと指導されていたようで、関心してしまった。そういうところはさすがNHK(笑)。
いやでも、大事ですよ。
永山絢斗、頑張ってましたね。上に上げた所作から殺陣にいたるまで、なかなか見栄えが良くてよかったですよ。
特に走りながら刀を抜くところなど、無駄な動きがなくカッコいい。いまどきの役者さんでも、ちゃんと教えればできるんです。
本人にやる気があって、ちゃんと教えてくれる人がいれば、できるんです。
まだまだ、時代劇が続く芽はある。
物語としては、目指す仇(渡辺大)が割とあっさり、相手側から現れてくれたりして、探す苦労もなくちょっと拍子抜け。あの辺の展開はユルいなと感じますが、これは抑々、池波先生の原作がユルいせいかな(笑)。
でも石橋静河、永山絢斗両名がとにかく爽やか。こういう時代劇も良い。
「自分を負かすほど強い男が現れたら結婚する」と宣っていた主人公でしたが、あれ結局、永山絢斗は勝てないままなんですよね。
それでも二人は結ばれる。
本当の「強さ」とは…。
良いドラマでした。
一方、2023年1月3日に、やはりNHKで放送された時代劇『いちげき』。
幕末、江戸市中に横行する「御用盗」と称する、薩摩による狼藉行為に対抗するため、勝海舟(尾美としのり)が秘密裏に組織したゲリラ部隊、「一撃必殺隊」の活躍を描く。
こう書くと、まるでアクション時代劇みたいですが、実際はそうじゃない。これも青春時代劇です。
薩摩に対抗するためとはいえ、例えば幕臣であったり会津藩士であったりを使ってしまっては、幕府が薩摩を攻撃したというかたちになってしまい、薩摩方に戦端を開く口実を与えてしまう。
なので、農民から使えそうなやつを選抜して、これにやらせる。
そこで選ばれたのが、染谷将太、町田啓太、岡田天音、塚地武雅、高岸宏行ら演じる農民たち、これを訓練するのは松田龍平演じる元新撰組隊士。
内容的には、染谷らが演じる庶民が、偉い人たちの思惑に翻弄されながらも、それでも明るく生き抜いていくという話。初めて人を斬ってしまった苦悩だとか、仲間が死んでいく悲しみなども一応描かれているものの、そこはメインではないので、割とあっさり描かれていく。
脚本が宮藤官九郎ということもあって、軽妙というか「軽い」んですよね。この点、ダメな人はダメかもしれないですね。
一撃必殺隊は御用盗を指揮する相楽総三(じろう)暗殺を仕掛けますが失敗。これまでと思った勝は一撃必殺隊解散を命じます。
解散とはつまり
殺せ、ということ。
命を受けた松田龍平演じる元新撰組、さあどうする?
薩摩と幕府と、どっちが悪いとか正しいとかいう話ではないんですね。薩摩だろうが幕府だろうが、上の「偉い」人たちは、下々の者たちを利用するだけ利用して、用がなくなれば捨てるだけ。
それでも、庶民は明るく逞しく生きていく。
そんな話です。
ちなみに、一撃必殺隊の後ろには勝海舟がいた。これは完全なフィクションだし、そもそも一撃必殺隊自体がフィクション。史実には存在しない。
一方、相楽総三はドラマ上では薩摩藩士であるかのように描かれていますが、史実はそうじゃない。
相楽総三ら実行部隊は、いわゆる「尊攘派浪士」であって、薩摩藩士ではない。
しかし、薩摩藩邸にかくまわれていたことは確かだし、騒乱の後押しをしていたのは薩摩藩でした。
相楽総三率いる赤報隊が「御用盗」と称し、江戸市中で散々な乱暴狼藉を働き、罪なき江戸町民の命を奪い、婦女子を凌辱し、非道の行いをしていた。
これは史実。そして
その騒乱を計画し、実行を命令した人物。
それは
西郷隆盛です。
私は西郷さんのことを今更断罪するつもりはサラサラない。どんな非道な命令を下したとしても、明治維新前後における西郷さんの功績は大きい。
単純な「善」やら「悪」やらを言うつもりはありません。ただ
ひとつの史実として、今を生きる日本人は、この史実を知るべきだと
思うのみ。
相楽総三ら赤報隊はその後、「偽官軍」の汚名を着せられ、処刑されます。
用がなくなれば、捨てられる…。
ちなみにこのドラマでは、西郷隆盛の存在は一切描かれていません。やはりメインではないから
でしょうかね。
ナレーションは神田伯山。この浪曲風ナレーションが一番良かった、かも(笑)。
年末年始、なかなか興味深い時代劇が放送されたことに、喜びを感じます。
まだまだ、まだまだ時代劇はやれる。続けていかなきゃ。
時代劇の灯を消すな!