監督の山本薩夫氏はいわゆる「左翼系」の監督として知られておりますが、一方で娯楽作品を撮らせても1級の作品を作ることの出来る監督、としてもその名を馳せておられる方です。
思想は思想として、一般娯楽としての映画をちゃんと提供できる、「職人」監督ですね。
代表作は『白い巨塔』、『戦争と人間』、『華麗なる一族』、『皇帝のいない八月』、『ああ野麦峠』等々。
そんな監督が撮った忍者映画ということで、忍者といっても山田風太郎の小説のような、荒唐無稽な忍術は使いません。身が軽いとか変装が得意とか、現代人の感覚からしても納得できる技を使います。
忍者とは一定の主君には使えない者たちで、普段は農業をして暮らしており、依頼があればその度、それ相応の礼金を貰って働く。いわば「傭兵」のような存在。長の戦国時代、各戦国大名たちに便利に使われてきた。
しかしそんな彼ら忍者たちにも、仕えたくない武将がいた。
それが、織田信長。
忍者はそのルーツを役小角であるとしており、仏法の守護者を自負している。一方信長は比叡山を焼き討ちにし、一向宗門徒を皆殺しにしようとしている、まさしく仏法の敵。
信長はそんな忍者たちを敵視しており、いずれ忍者たちの住む伊賀の里を襲撃するだろう。
それをさせないために
信長を暗殺せねばならぬ。
主演は当時の大映ドル箱スター、市川雷蔵。純真で熱血な若い忍者、五右衛門をよく演じています。
この五右衛門が仕える伊賀忍者の頭目を演じるのは、怪優・伊藤雄之助。これが素晴らしい!
伊賀には2大勢力があって、それぞれが覇を競いあっていたわけですが、その両勢力の頭目、百地三太夫と藤林長門が実は同一人物なんです。
両派を競わせることで良い仕事をさせ、結果として伊賀を守る。頭目にとって大事なことは伊賀を守ることであって、忍者個々の命などはどうでもよい。だからあらゆる権謀術数を駆使して忍者たちを支配しようとするわけです。
雷蔵先生演じる五右衛門も、そんな頭目の罠にかかり、信長暗殺の役を背負わされてしまう。
その織田信長を演じるのは城健三朗、後の若山富三郎。(以後、若山富三郎で統一)
若山さんは元々東映にいたのですが芽が出ず、弟の勝新太郎さんがスターだった大映に移籍します。しかし大映でもスターにはなれず、脇役に甘んじていました。
そんな時期の若山さんでしたが、その演技は素晴らしい。悪辣で残虐な権力者、織田信長を実に怖く憎々しく演じておられる。こんな悪い奴なら命を狙われるのも止む無しと納得させてしまう熱演。
若山さんは後に東映に戻り、名も改め、当時のやくざ映画ブームに上手く乗っかってスターになっていくことになります。
若山さん演じる織田信長も、伊藤さん演じる伊賀の頭目も、何れも悪い奴であることには違いがない。そんな悪い奴らに利用されて「最前線」に送られるのはいつも、純な若者たち。
なんて、いかにも「左翼系」な読み解き方もできますね。まっ、そこまで読まずとも、娯楽作品としてよく出来ているなと思います。
さて、五右衛門は首尾よく信長を暗殺できるのか。これは史実としてネタバレもなにもないので言っちゃいますが、信長は死なず、伊賀の里は信長の軍勢に攻め込まれ、伊賀忍者はほぼ全滅させられます。
歴史上でいう「天正伊賀の乱」ですね。
これにより伊藤雄之助演じる頭目は、割とあっさり死んでしまう。その様はある意味
哀れですらある。
権謀術数の限りをつくした悪辣なる伊賀の頭目も、織田信長という強大な権力には敵わない。悪い権力者はさらに悪い権力者によって、滅ぼされる。
伊賀の里が滅んだことによって五右衛門は解放され、藤村志保演じる恋人との慎ましくも幸せな生活を送ることが出来るようになった…ように見えたわけですが
世の中そんなにうまくいかない、その後の五右衛門がどうなったか?それは
『続・忍びの者』に続く。
ということで『忍びの者』シリーズは全8本作られる、人気シリーズになっていきます。
良く出来た映画だと思います。伊藤雄之助さんが割とあっさり死んじゃうのが、物足りないといえば物足りないですが、そこを差し引いても、1級品の娯楽作品であることには違いありません。
藤村志保さんは可愛らしいし、岸田今日子さんは妖艶だし、女優陣も良いです。
古い映画だし白黒だし、でも古かろうが新しかろうが、カラーだろうが白黒だろうが
面白い映画は面白いのだ!
これはおススメ。