元禄14年3月14日、江戸城内松の廊下にて起こった一大事件。
赤穂藩主・浅野内匠頭、高家筆頭・吉良上野介に刃傷に及んだ「赤穂事件」。
これにより浅野内匠頭は即日切腹、赤穂藩は取り潰し。一方の吉良は一切のお咎めなし。
喧嘩両成敗は鎌倉以来の措法。なのになぜ浅野ばかりが罰を受けねばならぬのか!?公儀がこのような片手落ちの裁きを下すなら、もはや赤穂藩士としては、藩の面目のため、亡君の御無念をお晴らし申し上げるため、公儀への異議申し立てのため、
仇討ちを行う他なし。
これが『忠臣蔵』物語の基本設定ですが、もしも吉良上野介が、刃傷の傷が基で亡くなってしまっていたとしたら、
その後の吉良上野介が、実は「替え玉」だったとしたら。
吉良上野介(ムロツヨシ)の末弟・孝証(ムロツヨシ・二役)は貧乏な生臭坊主。金に困ると兄・上野介のもとを訪れ金をせびる。そのため上野介から強く疎まれていました。
孝証もまた、傲慢で意地が悪くてケチな兄のことを嫌っていましたが、そんなある日、
吉良上野介が江戸城内松の廊下にて、浅野内匠頭(尾上右近)に斬りつけられ深手を負ってしまう。
この時上野介は背中に傷を負っており、これは逃げようとして相手に背中を見せたが故に負った傷。武家ではこれを「逃げ傷」といって恥としていました。
もしもこの逃げ傷が基で上野介が亡くなったならば、武門の恥。吉良家は即刻改易。そうなっては一大事。
そこで吉良家家老・斎藤何某(林遣都)は、上野介に瓜二つの孝証を替え玉に仕立て、公儀の目を欺こうと画策するわけです。
最初は乗り気ではなかった孝証でしたが、斎藤が提示した何百両という大金に目がくらみ、ついつい引き受けてしまう。
一方、赤穂藩城代家老・大石内蔵助(永山瑛太)は突然の主君切腹、お家断絶という緊急事態の対応に苦慮に、仇討ちを叫ぶ藩士らを抑えつつ、まずはお家再興を公儀に嘆願し続けますが、赤穂の良質な塩の利権が欲しい側用人・柳沢吉保(柄本明)によって握りつぶされてしまう。
もはや討入り止む無し。
こんな二人、孝証と内蔵助が、江戸の遊郭で知り合ってしまう。
お互いの素性を知らぬままに意気投合する二人でしたが、さて…。
基本はコメディ映画なんですよね。だからこそムロさんを主役に起用したのだろうし、コメディ俳優ムロツヨシの実力は遺憾なく発揮されていると思う。
これが大石内蔵助との出会いから、物語はシリアスな「良い話」の方向にシフトしていく。
ムロツヨシという人は振り幅の広い俳優さんですから、シリアスな方向に傾いてもまったく問題なし。相手の永山瑛太さんも上手い方ですからね、かなり大胆な設定なのですが、お二方の名演に引っ張られるかたちで、割と破綻なく観られます。
そうして話はそのままシリアスな展開で行くかと思いきや
最後の最後で、突然思い出したかのように、コメディに戻ってしまう。
あの展開は強引過ぎます。少なくとも私は、あの展開に一気に興ざめしてしまった。
いくらなんでも、「ラグビー」はやり過ぎだ。
むしろあのまま、シリアス路線で突っ走った方が、潔くて良かったような気がしますね。
コメディ映画としては中途半端。結局どんな映画にしたかったの?
設定は悪くなかっただけに、なんだか残念です。
あともう一歩だったのだけどなあ。詰めが甘い。そんな風に感じてしまった映画でした。
直接物語には関係ない話ですが、大石内蔵助の妻、りくを演じていたのは野波麻帆さんでした。東宝シンデレラです。
同じく東宝シンデレラの浜辺美波さんは『シン・仮面ライダー』に出演していたし、東宝在籍の俳優さんが東映映画に出れてしまうという現実。
今更ながら、「五社協定」などは遠い遠い大昔のことなのだなということを、実感してしまいました。
我ながら感覚が大分古い…(笑)。
それはともかく、残念だろうが失敗作だろうが、とにかく時代劇を作り続けることこそ大事。作り続けていれば、必ず良いものが出てくる。
時代劇の灯を消すな!