教育でも交通でも医療でも無料といわれればそれはうれしい。だがそれは果たして日本のためになるのだろうか、という視点をもつことは重要だと思う。
たとえば送料無料。消費者が直接送料として支払うことはなくても、運送員が配達している以上、費用はかかっている。果たして通販会社が善意で送料を負担してくれているということなのか、不当な安値で運送業者に負担を押し付けているのか、あるいは無料とは名ばかりで価格に含まれているのか。いずれにせよ消費者が恩恵を受ける陰で、だれかが運送費を負担していることはたしかだ。先日、消費者に運送への意識をもってもらうために、消費者庁は「送料無料」という表示の代わりに、「送料当社負担」「〇〇円(送料込み)」など送料の負担先や仕組みを明確にする表示にすることを求めたという(朝日新聞2023-12-20)。
教育はどうか。大阪が高校授業料の「完全無償化」を進めているが、驚いたことに公立だけでなく私立高も無償化の対象になるらしい。「私学の授業料も公立の費用分までは補填する」というのは聞いたことがあったが、公立より高い授業料をとって独自の教育をしている私学まで完全無償化というのは驚いた。だがこれもいいことばかりではない。私学授業料が無償化されると、私学は税金からその分の金額を補填される。だが補填額も青天井ではなく一定の限界はあるだろう。(たとえば保育園を無償化したとき、補填額上限まで保育料を値上げする園が相次いだ。)だが逆にいえば、高い費用の代わりに充実した教育をする学校の場合、その限界内にレベルを下げなければならないことになる。公立の費用を超えた私学費用の無償化は異常な制度と思えてならない。だが無償化に参加するかどうかは、各私学が選べるようだ(asahi.com 2023-12-23)。だが今度は、助成を受けて無償化する参加校に比べ、無償化せずに独自の教育を提供する不参加校が競争上不利な立場に立たされる。何でもただにすればいいというものではない。
医療費無料については、無駄な受診がふえるのではないか、という懸念をかつて書いた(日本経済新聞2023-2-19でも話題になっている)。だがそれだけではないことに気づいた。
患者負担がゼロであれば、病院側が余計な診察・検査をして(もっといえば、架空の診察・検査をしたことにして)利益をあげることが容易にできてしまう。まさかと思うかもしれないが、似たようなことがメガネスーパーで起きた。生活保護受給者らが眼鏡の給付を受けられる制度で、メガネスーパーが実際の価格を上回る額(4割は制度の上限やそれに近い額)を過大請求していた(朝日新聞2023-9-5)。消費者にとっては無償で変わりないので直接困ることはないが、税金から不当な金をせしめたことになる。
これは病院の事例ではないが、病院だって無償だからいいだろうと言わんばかりに診療明細を出してくれないことがある。少なくとも、こういう検査をして本来××円かかるが、無償化制度により負担額は0円になる、という明細を出すことを徹底しないと、必ず悪いことをするところが出てくる。おそらく多くはないだろう。だが、明細発行による明朗会計は不正を抑止するための最低限のことではないだろうか。
追記:大阪府の私立も含めた高校などの「授業料完全無償化」が今年度から始まったそうだ(朝日新聞2024-5-27)。上記で指摘したような問題点のほか、授業料以外の費用が高額になることが多いとの指摘にもはっとした。たとえば修学旅行を海外にするなどと言えば学校のアピールにはなるのかもしれないが、その費用は授業料とは別に必要になるので、そのへんまで調べておかないと、こんなはずではなかったということになりかねない。
関連記事:
何でも「無償化」はいいことなのか (医療費など)
何でも「無償化」はいいことなのか(その2) (幼児教育)
たとえば送料無料。消費者が直接送料として支払うことはなくても、運送員が配達している以上、費用はかかっている。果たして通販会社が善意で送料を負担してくれているということなのか、不当な安値で運送業者に負担を押し付けているのか、あるいは無料とは名ばかりで価格に含まれているのか。いずれにせよ消費者が恩恵を受ける陰で、だれかが運送費を負担していることはたしかだ。先日、消費者に運送への意識をもってもらうために、消費者庁は「送料無料」という表示の代わりに、「送料当社負担」「〇〇円(送料込み)」など送料の負担先や仕組みを明確にする表示にすることを求めたという(朝日新聞2023-12-20)。
教育はどうか。大阪が高校授業料の「完全無償化」を進めているが、驚いたことに公立だけでなく私立高も無償化の対象になるらしい。「私学の授業料も公立の費用分までは補填する」というのは聞いたことがあったが、公立より高い授業料をとって独自の教育をしている私学まで完全無償化というのは驚いた。だがこれもいいことばかりではない。私学授業料が無償化されると、私学は税金からその分の金額を補填される。だが補填額も青天井ではなく一定の限界はあるだろう。(たとえば保育園を無償化したとき、補填額上限まで保育料を値上げする園が相次いだ。)だが逆にいえば、高い費用の代わりに充実した教育をする学校の場合、その限界内にレベルを下げなければならないことになる。公立の費用を超えた私学費用の無償化は異常な制度と思えてならない。だが無償化に参加するかどうかは、各私学が選べるようだ(asahi.com 2023-12-23)。だが今度は、助成を受けて無償化する参加校に比べ、無償化せずに独自の教育を提供する不参加校が競争上不利な立場に立たされる。何でもただにすればいいというものではない。
医療費無料については、無駄な受診がふえるのではないか、という懸念をかつて書いた(日本経済新聞2023-2-19でも話題になっている)。だがそれだけではないことに気づいた。
患者負担がゼロであれば、病院側が余計な診察・検査をして(もっといえば、架空の診察・検査をしたことにして)利益をあげることが容易にできてしまう。まさかと思うかもしれないが、似たようなことがメガネスーパーで起きた。生活保護受給者らが眼鏡の給付を受けられる制度で、メガネスーパーが実際の価格を上回る額(4割は制度の上限やそれに近い額)を過大請求していた(朝日新聞2023-9-5)。消費者にとっては無償で変わりないので直接困ることはないが、税金から不当な金をせしめたことになる。
これは病院の事例ではないが、病院だって無償だからいいだろうと言わんばかりに診療明細を出してくれないことがある。少なくとも、こういう検査をして本来××円かかるが、無償化制度により負担額は0円になる、という明細を出すことを徹底しないと、必ず悪いことをするところが出てくる。おそらく多くはないだろう。だが、明細発行による明朗会計は不正を抑止するための最低限のことではないだろうか。
追記:大阪府の私立も含めた高校などの「授業料完全無償化」が今年度から始まったそうだ(朝日新聞2024-5-27)。上記で指摘したような問題点のほか、授業料以外の費用が高額になることが多いとの指摘にもはっとした。たとえば修学旅行を海外にするなどと言えば学校のアピールにはなるのかもしれないが、その費用は授業料とは別に必要になるので、そのへんまで調べておかないと、こんなはずではなかったということになりかねない。
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