リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

著作権保護期間の70年への延長凍結はまだ間に合う

2018-11-01 | 一般
アメリカを除いた環太平洋経済連携協定(TPP11)が今年12月30日に発効することが確定したようだ(朝日新聞)。トランプ大統領のもとアメリカが保護主義に走ることが各国の警戒を呼んで予想より早期の発効となったらしい。だがTPP11の陰で、TPP11では凍結された著作権保護期間の延長が日本だけで発効することになったことがあまり報道されていない。

過去ブログでも書いたように、著作権保護期間を著作者の死後50年から70年に延長することは、アメリカの強い要求でTPPに組み込まれた。それを盛り込んだ日本の著作権法改正も成立したが、その発効はTPPが日本で発効する日とされていた。(TPP11はTPPではないから発効要件を満たさないのではと思っていたが、「TPP11整備法」というものでTPP11の発効とともに施行するよう法律的にも決められたらしい(ブランシェ国際知的財産事務所)。)
だが著作権保護期間の延長は、アメリカが抜けたTPP11では「凍結」とされたものだ。もともとアメリカの要求で盛り込まれたもので、そのアメリカが抜けたことでTPP11でも「凍結」とされたのに、なぜ日本だけは延長する必要があるのだろう。
政府の言い分は、「著作権は欧米の七十年に合わせることがグローバルスタンダードだ」(交渉関係者)というものだという(東京新聞)。だが「死後70年の保護期間」はあまりに長いのではないだろうか。今でいうと、終戦直後の1949年に亡くなった人(私の曽祖父よりもっともっと上の世代だろう)の著作権もまだ切れない、という感覚だ。政府が合わせるべきとする「欧米」というのは、結局欧米のコンテンツ業界の要望ということなのだろう。日本も含めたアジアの主要国が反対すれば「グローバルスタンダード」とまでは言えないのではないだろうか。

しかも、単に保護期間の問題だけではない。著作権侵害が「非親告罪」になるという点も見逃せない。政府(またはその勝手応援団)が気に入らないブログでちょっとした著作権侵害をみつけて告発することで言論を委縮させる、といった副作用が懸念される。

年末の発効前に、「TPP11で凍結の間は日本でも凍結」という立法をすることは可能だと思う。日本だけ先頭を切って「欧米」に合わせてしまうのが本当に賢明なのかどうか、改めて考えるべきだ。

追記:
著作権侵害の非親告罪化についての上記のコメントは理解不足の点があった。ちょっと古いが「TPPで著作権法が改正される?非親告罪化の詳細と影響」(2016)によれば、非親告罪になるのは
「(1)不当な利益を得る目的や、著作権者を害する意図があるもの
 (2)原作をそのまま利用する侵害行為であること
 (3)著作権者が得るはずであった利益が不当に害されること」
という条件がついているという。だから「引用がちょっと長すぎたから別件逮捕される」という心配はないようだ。だが日弁連が2007年に反対の意見書を出したなど、専門家の間でも批判はあるようだ(ウィキペディア)。だがそれにしても2007年はさすがに古い。日本文芸家協会も2015年の時点で懸念しているようだが法律的な議論はないようだ(「著作権侵害における非親告罪化についての声明」)。
そんなわけで法の趣旨としては本当に悪質なものは著作権者の訴えがなくても取り締まれるようにする、というまっとうなものに思えてきた。だが、それでも「意図」だとか「不当に害される」といった規定が曖昧なのではないか、という懸念はあるようだ。憲法解釈でさえ一夜にして変えてしまう安倍政権のやり方を見ていると、厳しすぎるくらいに明確にしないと安心できない。

追記2:
福井健策氏も指摘するように、改正法の施行ですべて終わりではない。これからできることとして、氏は下記を挙げる。
(1)「絶版など市場で流通していない作品の活用策」:百歩譲って「作者の死後70年」がやむを得ないものだとしても、現実問題として死後何十年もたてば大半の作品は流通しなくなってしまう。そこで、アメリカでは保護期間延長の際に「ラスト20年はアーカイブ化を可とする規定」(108条(h))が導入されたそうだ。日本でも、作者の死後、流通せず子孫に何の利益ももたらさないのに利用制限だけが続くという事態に対して何らかの対策がほしい。
(2)「更なるオーファン対策」:権利者がみつからない作品は今でも問題になっているのに、保護期間が延長されれば問題はさらに深刻になる。今でも文化庁の許可を得て利用できる「裁定制度」があるが、さらなる対策が必要だろう。
(3)「集中管理の推進」:著作権を保護するだけではなく、一つの窓口で利用手続きができるなど、作品を利用できる環境を整えておくことが一層必要になる。ただ、福井氏も指摘するように、集中管理団体が著作権保護を強める方向だけを向かないようにする必要はある。
(4)「意思表示・パブリックライセンスの更なる促進」:青空文庫は、「保護期間中でも作者・権利承継者の申し出があれば応じて公開を進めたい」と書いているそうだ。権利者側からのこのようなはたらきかけがしやすい仕組みもあってもよい。
(5)「戦時加算の解消努力」:第二次大戦中に日本では十分な著作権保護が行われなかったということで、戦勝国の作品には約10年、保護期間が延長されている。今回の保護期間延長の際、賛成派は「延長とバーターで屈辱的な戦時加算を撤廃できる」と喧伝していたが、その点の進展は皆無だったようだ。戦時加算が屈辱的なのか、正当な罰なのかは私にはよくわからないが、今回の保護期間の延長とともに、過度に権利保護に傾いているような気はする。




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