リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

「PTAは任意加入」では解決にはならない(2)

2018-11-04 | 一般
PTA活動の負担が保護者を悩ませるなか、大津市教育委員会が発表した「PTA運営の手引き」が話題になっている(asahi.com)。ネットで見ると好意的な受け止め方が多いようだが、「強制はだめ」と言っているだけで、どうすればいいという解決策は示されていないように思う(誰も示すことができないから長年問題になっているのだが)。

目次を見ると、問題点がよく整理されている。
《PTA運営の課題》
(1) 強制加入の問題
(2) 役員の強制の問題
(3) 非効率かつ無駄な作業の多さの問題
《PTAと学校園との関係上の課題》
(4) 個人情報の問題
(5) 会費の学校園徴収金との引落しの問題
(6) 会費使途不透明の問題
(7) その他 1)PTA未加入者の子どもへの教育的配慮 2)PTAの必要性の説明

PTAへの強制加入については、PTAは任意加入だという点が改めて強調されている。未加入の家庭があると登校班やPTA会費による記念品の配布などで子供が不利益を受ける懸念もあるが、「PTA活動は、学校園に通うすべての子どもたちの福利のために保護者と教師が自発的に行う活動であって、 P T A 会員 の 子 ど も た ち の 福 利 の た め に 行 わ れ る 活 動 で は あ り ま せ ん 。」とあり、千葉市PTA連絡協議会の場合(過去ブログ)と同趣旨だが断言しているだけ一歩踏み込んでいる。だが建前上、子供が不利益を受けることはないことになってはいても、保護者の間で陰口をたたかれるのではないか、子供がいじめられるとまでは言わないまでも敬遠されるのではないか、あるいは登校班から除外されないまでも付き添いの保護者との間に感情的なわだかまりが残るのではないか、など懸念は尽きない。過去ブログでも書いたように、「PTAは任意加入」は大切なことなのかもしれないが、解決にはならない。
とはいえ、PTAに加入したくない家庭であっても、PTA活動そのものに反対だとか、資金の使途が不明朗だという理由で加入したくない人は少数派ではないか。やはり問題は役員の負担の重さだろう。

というわけで、「PTA運営の手引き」で最も気になるのは「(2) 役員の強制の問題」だが、残念ながら問題提起と理想論に終わっている。
まず、「出席していない会員に役員を割り当て」るのが問題視されている。もちろん「欠席しているあの人にしちゃいましょう」みたいな決め方はよくないだろうが、逆に「その場にいなければ逃れられる」となればまじめに会合に出席する人がばかを見る。くじ引きなど公平なやり方で決めた結果、「出席していない会員に役員を割り当て」るのであれば、決して批判すべきではない。もちろん「くじ引き」がいいとは私も思っていないが、誰もやりたくない以上、「より民主的な選考方法を会員皆で検討」と言われてもどうしようもない。ただ、くじ引きならくじ引きで、「事前に選考方法や選考過程を明らかにし、後から疑義が生じないよう」にすることは必要だろう。

次に、「役員免除の理由として、病気や家庭の事情などの個人情報を公開し、審査するなど人権問題になりかねない事態も見受けられます」というのも問題提起としては妥当だ。私も幼稚園の役員だったか何だったか忘れたが、できない人はみなの前で事情を自分で話さなければならないということを聞いたことがある。たしかにやりすぎると人権問題になる、という指摘は重要かもしれない。
だが共働きしないと生活できないこのご時世で、たとえば「フルタイムで仕事をしてるから」くらいの理由で役員免除は認められないだろう。「私は事情があってできません」とか、家庭の事情でなどという抽象的な事情ではやはり納得しにくい。やはりよほどの病気などの事情でなければ免除されない、免除されるのであればきちんと説明責任を果たす、としなければ公平ではないのではないだろうか。

このように、「強制はだめ」という点が強調されている点で世間では好意的に評価されているのかもしれないが、今回の「手引き」は解決策を提示するものにはなっていない。

付記
大津市教委「PTA運営の手引き」のオフィシャル版がみつからなかったので、https://yahoo.jp/box/2I7DBYのものを参照しました。たぶん本物だと思うのですが。

追記:私は大津市教委の「PTA運営の手引き」が新聞記事になるほどのものなのかどうか疑問に思っていたが、知人にそれを話すと、教育委員会がこのような手引きを作成した点にニュースバリューがあると指摘された。たしかに引用記事冒頭でもそう書かれていた。市民からのPTAに関する苦情がきっかけで作成されたという。たしかに「人権問題」などについても、直接的に学校の問題ではなく、「教育公務員は知らん顔(抑止も中止もしない)していると見られています」という点が「学校園側のリスク」として述べられており、一歩引いたスタンスになっている。

追記2:兵庫県川西市の越田謙治郎市長(41)は「保護者の負担軽減」を公約に掲げて、行政として検討会を設けて関与していこうという姿勢を打ち出している(朝日新聞2019-4-2)。記事を読む限りはまだ解決策は見えてこないが、PTAの問題を「学校と別組織」という理由で政治が放置してきたという問題意識は頼もしい。

追記3:PTAなどの役員決めなどで行われるくじ引きについての3氏の談話を読んだ(朝日新聞2024-5-31)。
他のやり方では決まらないからといってくじ引きで役員を決めると不満が残るということは論をまたない。倫理学者は、くじで決まっても大きな違いにならないよう「負担を分散させたりすることが必要」と指摘しており、そのとおりだと思う。だからPTAなどでも役員負担の軽減や分担は検討されていると思うのだが、それがなかなか進まないから問題になっている。
兵庫県川西市長の越田憲治郎氏の談話は興味深かった。同市では、それまで児童・生徒の名簿を使って自動的に全保護者をPTA会員としてきたことに関し、検討会の議論をふまえて、PTAと名簿を共有することを禁止した。入会届を書いた人だけが加入するようにしたことで、「やってもいいよ」という雰囲気が生まれた、それ以降「当たって泣いた」という話は聞かないという。聞いたような話だなと思ったら、上記の追記2で紹介した市長だった。だがもっと前に「PTAは任意加入で成り立つのか?」で書いたように、こんなことをしたら入会届を出す人は激減するのではないか。それで本当に活動が成り立っているのか。もう少し具体的に知りたいものだ。それにしても、5年たっても同じ市長が取り上げられるというのは、追随する人は出てきていないということなのだろうか。残念。


関連記事:
「PTAは任意加入で成り立つのか?」
「PTAの問題の半分は職場環境の問題」
「PTAの負担を減らすために」
「「PTAは任意加入」では解決にならない」
「保育園なのに父母会活動?」

関連リンク:
「PTAは誰のため? 加入・退会・免除…親たちの憂鬱」(asahi.com)


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