「お客様は神様」ではない。客であってもしていいことと悪いことがある。産業別労組「UAゼンセン」の組合員の調査(朝日新聞2018-9-24)で紹介されている暴言や言いがかりの事例はあまりにひどい。
・「バカ、死ね」などの暴言
・何時間も苦情を言う
・金品の要求(天丼のたれがこぼれたという理由でクリーニング代の請求、食事がまずかったと言って金を払わないうえにさらに要求)
・騒ぐのをやめるよう頼んだら携帯電話で写真を撮られて「SNSにアップする」との脅迫
こうした一部の客による迷惑行為から従業員を守ることが必要だということで「UAゼンセン」の会長は厚労相に法整備を要請していた。それがこのたび法制化には踏み込まず、企業がとるべき対策を示すガイドライン(指針)を作るにとどめることになった(朝日新聞2019-2-11)。
行政によるガイドライン策定を待たず、UAゼンセンはすでに悪質クレームガイドラインをまとめている。
やはりあまりにしつこい場合(長時間拘束、繰り返し電話、暴言など)は録音し、場合によっては警察に連絡するようだ。そのほか、
・侮辱に対して謝らない
・社会的地位の高い人などが権柄づくで特別扱いを要求したり、文書での謝罪を要求したりする「権威型」に対しては、発生したクレームには対応するが、特別対応には応じない
なども妥当なところだろう。これで解決できるというものでもないが、対応方針が決まっているだけでも少しは助けになるだろう。
だがもっと議論してほしい点もある。
(1)SNS/インターネット上での誹謗中傷
「UAゼンセン」のガイドラインでは、インターネット上の投稿が名誉棄損やプライバシー侵害になる場合には掲示板やSNSの運営者(管理人)に削除を求めるとある。
「「プロバイダ責任制限法」により、被害者は、プロバイダやサーバの管理・運営者などに対し、人権侵害情報の発信者(掲示板やSNSなどに書き込んだ人)の情報の開示を請求したり、人権侵害情報の削除を依頼したりすることができるようになっている。」
「自らが削除を求めることが困難な場合は、法務省の人権擁護機関である法務局に速やかに相談し、法務局からプロバイダへの削除要請を依頼する。」
などもたしかにそのとおりだが、削除対象となるのはよほどひどい誹謗中傷に限られるだろう。
一方、上記にあるように従業員の写真をアップするといったことは、たとえ過度な誹謗中傷がなくても「肖像権の侵害」で問題になると思う。単に従業員の写真をアップして、いきさつについての事実のみを冷静に記述した場合、削除依頼の対象になるのだろうか。これから策定するガイドラインでは、極端な場合だけでなく、こういう事例も扱ってほしい。
公共の場で働いている人の写真を気軽にネットにアップする人が多いように思うが、「悪質クレーム」問題に限らず、他人の写真を勝手にアップすべきではないことを広く啓発すべきだと思う。
また、ガイドラインとしては、「写真をSNSにアップするぞ」という脅しに対抗する法的知識を盛り込んでほしい。(「そのような行為は××法により禁止されている」などあればよいのだが。)
(2)「悪質クレーム」には完全な言いがかりというようなものもあるが、企業側に何らかの落ち度があったうえでのクレームであることも多いのが悩ましい。労政審(厚労相の諮問機関である労働政策審議会)での審議でも、労働者側が法的な対応を求めたのに対し、企業側の委員からは「著しい迷惑行為にいたるのは商品やサービスに何らかの問題がある場合が多い。」との声が出たという。
私自身、あまりの手際の悪さに窓口の従業員をどなりつけてやりたくなることなどもあるのだが、そこはぐっとこらえている。少なくとも、問題が会社の製品にある場合、窓口の従業員に当たり散らしてうさをはらすのはよくない。文句を言うほうも、批判されるべきは末端の従業員ではなく、会社の上層部であることをわきまえるべきだ。
(その意味で、SNSで、誹謗中傷などではなく、事実として企業を批判するのはありだと思う。批判される側としてはおそろしいが、これはやむを得ない。)
(3)私はかねがね「客によるパワハラ」は問題だと思っていたが、労政審では、客の迷惑行為は「社内のパワハラに類するもの」と位置付けたという。客の要求に応じなければビジネスチャンスを失うという意見も出たというが、そうまでしてビジネスチャンスにしがみつく、というのはどうもいただけない。「たとえ客でもだめなものはだめ」という当たり前のことが当たり前に言える世の中であってほしい。
(4)今回の記事で「悪質クレーム」が「客の問題」であるとともに、「労使問題」であることを初めて知った。企業にどこまで従業員を守る義務を課すか、私には判断できないが、ガイドラインを作って終わりではなく、企業の責任でやるべきことがないかどうか、継続的に議論してほしい。
(5)「言いがかり」と思えるものでも、「文化の違い」ということもあるかもしれない。たとえば衣類。商品に問題があった場合の交換はともかく、「買ってみたけど似合わなかった」という理由の返品は私の感覚では「ありえない」。だがアメリカではそのような返品は一般的だと聞く。社会通念上、どのくらいまでは認められるのか、「ガイドライン」ではそのあたりも考察してみてはどうだろう。
追記:カスタマーハラスメント(「カスハラ」)について、店頭で大声を上げて業務を邪魔したり、無理に居座ったりする行為は威力業務妨害罪や不退去罪などに問われる可能性があるが、警察に通報するかどうかの判断が難しいなどから、抑止効果ははっきりしないという。朝日新聞2019-9-17夕刊
・「バカ、死ね」などの暴言
・何時間も苦情を言う
・金品の要求(天丼のたれがこぼれたという理由でクリーニング代の請求、食事がまずかったと言って金を払わないうえにさらに要求)
・騒ぐのをやめるよう頼んだら携帯電話で写真を撮られて「SNSにアップする」との脅迫
こうした一部の客による迷惑行為から従業員を守ることが必要だということで「UAゼンセン」の会長は厚労相に法整備を要請していた。それがこのたび法制化には踏み込まず、企業がとるべき対策を示すガイドライン(指針)を作るにとどめることになった(朝日新聞2019-2-11)。
行政によるガイドライン策定を待たず、UAゼンセンはすでに悪質クレームガイドラインをまとめている。
やはりあまりにしつこい場合(長時間拘束、繰り返し電話、暴言など)は録音し、場合によっては警察に連絡するようだ。そのほか、
・侮辱に対して謝らない
・社会的地位の高い人などが権柄づくで特別扱いを要求したり、文書での謝罪を要求したりする「権威型」に対しては、発生したクレームには対応するが、特別対応には応じない
なども妥当なところだろう。これで解決できるというものでもないが、対応方針が決まっているだけでも少しは助けになるだろう。
だがもっと議論してほしい点もある。
(1)SNS/インターネット上での誹謗中傷
「UAゼンセン」のガイドラインでは、インターネット上の投稿が名誉棄損やプライバシー侵害になる場合には掲示板やSNSの運営者(管理人)に削除を求めるとある。
「「プロバイダ責任制限法」により、被害者は、プロバイダやサーバの管理・運営者などに対し、人権侵害情報の発信者(掲示板やSNSなどに書き込んだ人)の情報の開示を請求したり、人権侵害情報の削除を依頼したりすることができるようになっている。」
「自らが削除を求めることが困難な場合は、法務省の人権擁護機関である法務局に速やかに相談し、法務局からプロバイダへの削除要請を依頼する。」
などもたしかにそのとおりだが、削除対象となるのはよほどひどい誹謗中傷に限られるだろう。
一方、上記にあるように従業員の写真をアップするといったことは、たとえ過度な誹謗中傷がなくても「肖像権の侵害」で問題になると思う。単に従業員の写真をアップして、いきさつについての事実のみを冷静に記述した場合、削除依頼の対象になるのだろうか。これから策定するガイドラインでは、極端な場合だけでなく、こういう事例も扱ってほしい。
公共の場で働いている人の写真を気軽にネットにアップする人が多いように思うが、「悪質クレーム」問題に限らず、他人の写真を勝手にアップすべきではないことを広く啓発すべきだと思う。
また、ガイドラインとしては、「写真をSNSにアップするぞ」という脅しに対抗する法的知識を盛り込んでほしい。(「そのような行為は××法により禁止されている」などあればよいのだが。)
(2)「悪質クレーム」には完全な言いがかりというようなものもあるが、企業側に何らかの落ち度があったうえでのクレームであることも多いのが悩ましい。労政審(厚労相の諮問機関である労働政策審議会)での審議でも、労働者側が法的な対応を求めたのに対し、企業側の委員からは「著しい迷惑行為にいたるのは商品やサービスに何らかの問題がある場合が多い。」との声が出たという。
私自身、あまりの手際の悪さに窓口の従業員をどなりつけてやりたくなることなどもあるのだが、そこはぐっとこらえている。少なくとも、問題が会社の製品にある場合、窓口の従業員に当たり散らしてうさをはらすのはよくない。文句を言うほうも、批判されるべきは末端の従業員ではなく、会社の上層部であることをわきまえるべきだ。
(その意味で、SNSで、誹謗中傷などではなく、事実として企業を批判するのはありだと思う。批判される側としてはおそろしいが、これはやむを得ない。)
(3)私はかねがね「客によるパワハラ」は問題だと思っていたが、労政審では、客の迷惑行為は「社内のパワハラに類するもの」と位置付けたという。客の要求に応じなければビジネスチャンスを失うという意見も出たというが、そうまでしてビジネスチャンスにしがみつく、というのはどうもいただけない。「たとえ客でもだめなものはだめ」という当たり前のことが当たり前に言える世の中であってほしい。
(4)今回の記事で「悪質クレーム」が「客の問題」であるとともに、「労使問題」であることを初めて知った。企業にどこまで従業員を守る義務を課すか、私には判断できないが、ガイドラインを作って終わりではなく、企業の責任でやるべきことがないかどうか、継続的に議論してほしい。
(5)「言いがかり」と思えるものでも、「文化の違い」ということもあるかもしれない。たとえば衣類。商品に問題があった場合の交換はともかく、「買ってみたけど似合わなかった」という理由の返品は私の感覚では「ありえない」。だがアメリカではそのような返品は一般的だと聞く。社会通念上、どのくらいまでは認められるのか、「ガイドライン」ではそのあたりも考察してみてはどうだろう。
追記:カスタマーハラスメント(「カスハラ」)について、店頭で大声を上げて業務を邪魔したり、無理に居座ったりする行為は威力業務妨害罪や不退去罪などに問われる可能性があるが、警察に通報するかどうかの判断が難しいなどから、抑止効果ははっきりしないという。朝日新聞2019-9-17夕刊