リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

写真をリツイートしたら著作権侵害? メールアドレス開示を命じた最高裁判決をどう考えるか

2020-07-23 | 一般
著作権法違反の画像をアップロードした本人でなく、それをリツイートしただけの人のメールアドレスも開示されるという最高裁判決が出た(朝日新聞2020-7-23)。プロの写真家のホームページの写真を無断でツイッターに投稿したものを、リツイートした人のメールアドレスを開示させる判決が確定した。
同じ事件と思われる地裁判決の論評(岡本健太郎「今後変わる? リンクについての著作権法上の考え方」)では、日本では侵害サイトにリンク(ツイートは「インラインリンク」と位置付けられるそうだ)しただけでは著作権侵害にならないとあった。組織的に漫画海賊版へのリンクを集めたリーチサイトの運営者に実刑判決が下ったのも、海賊版のアップロードとセットで考えての有罪判決であり、リンク自体が侵害と認められたわけではないという(二関辰郎「リーチサイト『はるか夢の址』の運営者に実刑判決――リンクの法的位置づけと、どの行為が犯罪とされたか」)。今回の最高裁判決を受け、原告代理人弁護士は「画期的な判決。いくら気軽なリツイートといえども、誰かの権利を侵害していいということにはならない」と評価している。だが今回も、リツイートについては著作権侵害は否定されており、認められたのは「著作者人格権」の侵害だ。
もとの写真には撮影者名と「無断転載」の文字があったのだが、ツイッターによる自動トリミングのためにこれらの文字が消えてしまったことが問題になった(同1面)。そのため、トリミングにより画像が改変されて著作者名が表示されなくなった、という「著作者人格権」の問題が生じたのだ。

記事でよくわからなかった点がある。
・今回の判決でツイッター社が命じられたのはメールアドレスの開示だ。上記論評でリンクされていた高裁判決をちょっと見た限りでは、原告はIPアドレスの開示なども求めていたが、それは認められなかったらしい。メールアドレスが開示されたからといって、即個人の特定ということにはならないだろう。やはり今回のような問題があったときのために、SNSをやる人も、匿名でいいから連絡先は公開しておくべきではないか。
・原告は個人情報を開示させて何をしたかったのだろう。記事では一般論として「損害賠償などを求める」とあるが、著作権侵害のスズランの写真1点をリツイートしたことによる損害賠償額はかなり少ないのではないか。削除などの対応を求めるため、というのならわかるが、裁判まで起こす前に、ツイッター上で本人に削除を求める、という対応はできなかったのだろうか。(もちろん、金銭的損害が少なければ泣き寝入りしなければならない、というわけではないが。)

今回の事案がそうだとは思っていないが、政府に批判的なSNS発信者名を開示させるために問題のある投稿をしたリツイートを利用して発信者を特定する、という利用法もできなくはない。昨今、SNS発信者情報の開示を簡素化しようという動きがあるが(過去ブログ)、問題のある企業や政府に悪用されないような制度設計をする必要がある。

リツイートに戻ると、今度、思わぬ責任を問われないために、ツイッター利用者はどうすればいいのだろうか。上記論評にあるように、欧米ではリンクに対する考えが厳しくなっているが、日本ではまだ、リンクやリツイートしただけで著作権侵害にはならない。ただ、ツイッターの自動トリミング機能がある以上、今回のような著作者人格権の問題は起こる。そもそも、自動トリミングは、作品を改変されない権利を常に侵害していると言えるのではないか。自動トリミング機能が改められない限り、画像のリツイートはしないのが無難ではないか。少なくとも、今回の事件のように、「転載禁止」の文字がある画像をリツイートすることは厳に慎むべきだろう。

追記:問題のある投稿をリツイートしただけで名誉棄損が成立するとの判決が6月に大阪高裁であったという(朝日新聞2020-8-24夕刊)。かなり厳しいと思うかもしれないが、他人を傷つけるツイートは、たとえ他人の投稿の転載であってもすべきではないという意味では無理もないともいえる。ただ今回の場合、元大阪府知事の橋下徹氏がフリージャーナリストのリツイートを訴えた件だという。たしかに「幹部職員を自殺に追い込んだ」は過激な表現だが、ジャーナリストが権力者を批判するという文脈であれば、名誉棄損のハードルはある程度高く設定すべきだと思う。そのあたりはどの程度考慮されたのだろうか。

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