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嫌いになった男の衣料を送り返す 源おほき (場面のある恋の歌)

場面のある恋の歌

  馬場あき子氏著作「日本の恋の歌 ~貴公子たちの恋~」一部引用再編集

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 嫌いになった男の衣料を送り返す (場面のある恋の歌)

  源おほきは巨城とも書かれる。宇多院の皇子敦個(あつかた)親王の子である。この人も色好みの人らしく、「後撰集」の「恋四」には平中興(なかき)の女(むすめ:美貌の人として名高く、多くの人との交流をもった。浄蔵法師との恋愛が名高い)との別れの贈答がある。

    つらくなりにける男のもとに「今は」とて装束など返し
    つかはすとて

   今はとてこずゑにかかる空蝉のからを見むとは思はざりしを
    平なかきがむすめ

    返し

   忘らるる身をうつせみの唐衣返すはつらき心なりけり
    源 巨城

  中興(なかき)の女(むすめ)は、巨城(おほき)が通って来た日々に夫のものとしていた衣料を、「もう、縁は切れた」と見ぬいて送り返すことにしたのである。一種、離婚の証しのような儀礼である。
  「空蝉のから」のように、主のない衣料を見ているのはつらい、「あなたが、こんなに薄情になるとは思わなかった」と詠んで、返す衣装に添えてやったのだ。巨城の方も、情はさめているが、儀礼的にきちんと円く収めて別れなければならないわけだから、しおらしく返歌して衣装を受け取ったのだ。
  「あなたにとうとう忘れられてしまう私を、憂く、つらく思っております折も折、こうして空蝉のようなはかない装束をお返しなさるとは、なんというつらいお心でしょう」といっている。

(画像は本文と関係ありません)

参考 馬場あき子氏著作
 「日本の恋の歌 ~貴公子たちの恋~」
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