勝手にお喋りーSanctuaryー

マニアックな趣味のお喋りを勝手につらつらと語っていますー聖域と言うより、隠れ家ー

真面目にバカをやる-シン・シティ-

2006-10-09 | 映画のお喋り
『シン・シティ』 2005年 アメリカ
  共同監督:ロバート・ロドリゲス、フランク・ミラー(原作)
  ゲスト監督:クエンティン・タランティーノ
  出演:ブルース・ウィリス、ミッキー・ローク、クライヴ・オーウェン、
     ジェシカ・アルバ、ベニチオ・デル・トロ、ブリタニー・マーフィ

かなり笑えた。
だが笑えたと言うと、「これのどこが笑えるんだ!」と眉間にしわを寄せた人から怒られるかもしれない。
全編R-15の残虐・殺戮・拷問シーンばかり。
指先に切り傷を作り、タラっと流れた一筋の血を見ただけで失神しそうな人は見ないほうが安全だ。

さらに本格ハードボイルド志向を期待する人も失望するだけだ。
かと言って、気楽なアメコミ原作映画の軽さを楽しみたい人もダメ。
ではどうやってこの映画を楽しむかと言えば、ハードボイルドのパロディと思うしかない。

ストーリーは3人の男のモノローグで進められていく。
ハードボイルド小説の基本は、主人公の自分語りによる、過度なストイックさに隠れたナルティシズム。
この映画はその部分を強調することで、ストイックなヒーローの、実は身勝手な(ナルシストゆえの)思い込み行動を皮肉る。

だがこの哀れな「男のロマン」の残骸のような主人公たち、どういうわけか魅力的なのだ。
特にミッキー・ローク演じるマーヴは切ない。
その醜い外見(特殊メイク)の為に女性に縁がないのだが、ただひとり彼に声をかけ、夢のような一夜を与えてくれたゴールディに純愛のすべてを捧げるのだ。
ゴールディは大物の悪事を知ってしまい、マーヴに保護を求めただけなのに。

「シン・シティ」はアメコミの世界の中でも、最強・最悪の街だ。
街を牛耳るのは教会のトップ、神の代理人である枢機卿と上院議員の兄弟。
枢機卿は信者の儀式的食人肉に神の赦しを与えちゃってる。
上院議員の息子は少女連続暴行殺人者だが、親父の陰に隠れて堂々と罪を重ねちゃってる。
正義を貫こうとした警官は、その相棒の警官に背後から撃たれちゃう。
救いようのない街で、バッドマンでもスパイーダーマンでもスーパーマンでもない普通の男(?)が、愛する女を必死で守ろうとあがく。

ただこんなふれ込みを本気で信じちゃいけない。
彼らはもしかすると空を飛べないだけで、スーパーマンより超人かもしれない。
至近距離から銃で何発撃たれようと、フルスピードの車に撥ね飛ばされようと、決して死なない。
あんまり死なないから、観ていて笑ってしまうしかないのだ。

そしてそんな馬鹿げたストーリーに命を与えたのは、豪華な役者たち。
連続暴行魔から11歳の少女を、自分の命と引き換えに救う警官ハーディガンのブルース・ウィリス。
暴行魔は『ターミネーター3』でジョン・コナーを演じたニック・スタール。
このニック、最後はイエローバスタードという怪人にまで変身する。
救われた少女は19歳になるまでハーディガンを思い続けるのだが、このナンシーにセクシーなジェシカ・アルバ。

ミッキー・ロークのマーヴの敵役で、信心深い食人肉猟奇男になんとイライジャ・ウッド。
ロードオブザリングのフルドくん、こんな役やって大丈夫なんだろうか。
最後は生首出演だし。
他にも、最初と最後に出てくる娼婦ばかりを狙う殺し屋にジョシュ・ハートネット。
あんまりストーリーに絡まないし意味ないんだけど、このオープニングを見て、タランティーノはゲスト監督のオファーを受けたし、ブルース・ウィリスも出演を決めたと言うから、PV的役割を果たしてるんだろう。

監督のロドリゲスも、こういう映画の撮り方をよく知っている。
モノクロームで部分的に色を入れる手法のお陰で、残虐なシーンがかなり緩和されているのだ。
吹き出す血も赤じゃなくて白だったり黄色だったり。

3人の主人公の中でもっとも弱い(と私が感じる)のはクライヴ・オーウェン。
この人、『キング・アーサー』で主演したのに、まったく影が薄かった。
私の好みでないせいかもしれないけど。
ところがこのクライヴの話の脇役がデヴォン青木演じる、殺人マシーン(忍者?)のミホがめちゃカッコいい。

さらにはネタバレだけど、クライヴとベニチオ・デル・トロのシーンをタランティーノが撮ってるのだ。
ここは笑える。
真面目腐って、確信犯的にアメコミをそのまま映画にしちゃったロドリゲス。
意識してコメディに徹したタランティーノ。
シーンは短いけど、タラファンは必見。

何にしろ、笑ったもの勝ちの映画であることは間違いない。
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